第208話貢献
「ちょっと待ちなよ」
母に向けた背中へ、俺は呼び掛けた。
「なんや? もう話は終わったやろ」
少女はこちらを振り返る。
「自分の母親なんだよ。これでもうお別れになるかもしれないし」
父と会ってない俺だが、できるだけ家族と仲良くしてほしい。
「そうしたら自分の錬金術で作ったものを売って、カネでも稼いで生活するわ。クリエイターとして生きていけるなら、それが一番やけどな」
信じられないことを言われる。
「そういう意味じゃなくて……」
今まで見て来た魔女は、基本的に家族との仲が悪くなかった。
その考えでは、目の前の少女を理解することはできないらしい。
「魔法とはそこまで人間をおかしくするものなのか?」
「違うわ。人間が愚かなだけや」
俺の疑問は瞬時に切り捨てられる。
「あの一族も含め、御三家はコネクションの力で這い上がったのよ。私がそれをやって、おかしいの?」
ヒステリックな叫び声だった。
「すまんな。愚かなおかんが騒いでて。でもなおかん、権利には責任がつくんやで。どんな事をして、社会に貢献したんや?」
当主の女性は黙る。
「おかんが何かしらの発明をしたとは聞かないな。権利だけ主張している連中は、どの業界でも相手にされないんやで。分かったら故郷に帰って、工房にこもってでもいてくれや」
「そういうことだ。もう帰ろう」
今まで何もしゃべらなかった父親が言葉を発する。
「意外やな。おとんはおかんに合わせ、ウチを連れ戻そうとすると思ってたで」
探るような目で、少女は父親を見る。
「子供は親の道具ではないさ。それは魔法の世界でも同じ」
「理解してくれてありがとうな」
これがこの日最後の、親と子の会話となった。
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