第199話娘

ホーエンハイム一族の当主である、ユリアナ=ホーエンハイムはイラ立ちを抑えられない。


政略結婚にしか使えない役立たずの娘が逃げ出した挙句、それを迎えに行った夫がおかしいことを言い出したからである。


「結局、サラは連れ戻せなかったってことよね?」


あまり期待していなかったが、こうも役に立たないと呆れてくる。


「そうだ。一族の未来がかかった結婚だと理解できないらしい」


夫が吐き捨てるように言う。


愚かな娘であると思っていたが、ここまで物事を理解できないとは予想外だ。


アラブはヨーロッパの錬金術の源流であるし、術式を教わることができる。


そうなれば、御三家に近づくための大きな一歩となるだろう。


絶対に失敗できない政略結婚であるのに。


「販売イベントで自分の本が完売できなければ、戻ってくると言っている。おそらく問題ないだろう」


「そうだといいわね」


本当に愚かな娘だ。


才能はあるのでそれを磨けば、自分を超える魔女になれるかもしれないのに。


それを拒むだけではなく、世俗的なものにまで手を出す。


時間と労力の無駄にしかならないのに。


「そのイベントの日と会場は分かってるのよね? 迎えに行きなさい」


愚かな娘を連れ戻すため、愚かな夫に命じるのであった。

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