第175話回想⑤
「どうしてかずきくんが?」
何日か前に別れたあと、1回も顔を見ていなかった私のおにいちゃん。
おてつだいさんに押さえつけられて、私の目の前にいました。
「あ、お嬢様。変な子供が入り込んだんですが、もう捕まえたので安心ですよ」
「その子は……」
「どうやら、柵の隙間から忍び込んだみたいです。そこはもうふさぎました」
かずきくんが入ってきたあなを?
悲しくてなにも言えません。
「さくらこちゃん、ぼくは言わないといけないことがあるんだ」
かずきくんは、悪いことをいうような声です。
「お母さんにつれられ、明日とおくの町にいくことになった。きみとおわかれしないといけないんだ」
言われたいみがわかりませんでした。
「ただの子供が、高貴なお嬢様と……」
「続けさせてください」
かずきくんの話がどうして聞きたいため、じゃましようとしたお手伝いさんを止めます。
「お母さんはぼくをつれて、おばあちゃんの家に行く気だ。さくらこちゃんやみんなとはなれるのはイヤだから、必死に抵抗しんだよ。でも、明日この町をでることになってしまったんだ」
「それって、お父さんとの仲が悪いって話?」
かずきくんがやってきた理由は、親のケンカでした。
「うん。りこんするかもって」
「もう、戻ってこれないの?」
今までとこれからの幸せが、いっぺんにくずれていく気がしました。
来年はかずきくんと、きれいにさいたさくらを見るはずだったのに。
「だから、来年はムリなんだ。もし、ぼくがいつかこの町に戻ってきたとき、一緒にさくらを見てくれる?」
「もちろん。どれだけでも待つ」
何十年あとでも、私はかずきくんの妹として、あのさくらのしたにいる。
「お嬢様、あなたはこんな下々の存在と、対等に口をきくべきではありません」
「その男の子は、私のおにいちゃんなんです」
「私の目が届かない間に、悪い影響を受けたようですね。これからはしっかり監視しないと」
なにを言われているか分かりませんでしたが、もうかずきくんと会わせてもらえないんでしょう。
「この子はここから追い出します」
だかれてつれて行かれるかずきくん。
私は叫びます。
「ぜったいにきてね。私はまっている」
あのさくらのしたで。
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