第85話審神者

審神者と呼ばれる存在がいる。


カミよりお告げを受けた巫女が務めるそうなのだが、カミからの言葉を翻訳し、ほかの人間に伝えるそうだ。


「桜子に引き継がせるまで、ずっと私が審神者だったのだよ」


冬音女史によると、桜子の一族は古来より、この地のカミと付き合い続けてきたらしい。


「次元の裂け目から、マナとともにカミの意志まで伝わってきたのですね」


「はい、それによってこの地が豊穣になるか、不作の年なのか変わりますので」


「昔は大問題だっただろうな。餓死者だって出ただろうし」


この地のカミがニギミタマである時は、いい波長のマナが山の中に広まり豊穣に。


逆に、アラミタマなら山は負のマナに包まれる。


「それを見極めるのが審神者」


責任が重い役目だ。


「それが、異世界化によって変わってしまったんだ」


「そりゃそうでしょう。カミがこの世にやってきてしまったんだから」


今までは遠い存在であったのに。


「一族は大いに揉めた」


当然、異世界化空間に取り込まれた社や本殿などは使い物にならない。


新しい御神体を用意し、神社を移転させたわけだ。


だが、一族はまとまらない。


「降臨したカミを崇め、その力を繁栄に使おうとする派閥が生まれた。AFの理念に反しているがな」


「そうなってもおかしくないですよね」


人間は理屈だけでは動かない。


この地をおかしくした原因であれ、自分たちの信じる存在なのだ。


それでも信じ、崇めてもおかしくないもの。


「反対に、何が起きるか分からないので、早急に討滅することを主張する連中もいた。そう言う私もその中の1人だ」


「危険な芽は速く摘めってことですね」


何か起きてからでは、間に合わなくなるかもしれないし。


「だが、主流であったのは向こうのほうであった。土地こそ変化したが、そこから離れれば、それ以上の害はなかったしな。その時は」


冬音女史が吐き捨てる。


その言葉の奥には、何かが潜んでいる気がした。


「後悔しているのですか?」


「ああ。一族を敵に回してでも、あの時倒しておくべきだったと思っているよ」


「おばあ様」


複雑な思いが詰まった、妹の言葉が響いた。

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