第83話説明①


「桜子、先にこの老いぼれから、自己紹介をさせてくれんかね?」


「はい、わかりました」


「鹿島一族前代表、鹿島冬音と言う。遠い場所から、よくおいでくださった」


「瀬川一樹です。一応、桜子ちゃんの兄」


「ロシアの軍人、アナスタシアです」


「イギリスから来た魔女の、オリヴィア=ゴールデンウッドです」


「3人のことは桜子からよく聞いている。説明の前に誤解しないでほしいのだが、桜子はウソは言っていないよ」


「どういう意味ですか?」


俺たち3人を、だまそうとしたわけじゃないの?


「順番に話そう。私が一族の代表を降りたときからだ」


長い話になったが、まとめるとこうである。


一族の代表は、最も強い女性が就任するものらしい。


世界の裏でこの世ならぬ存在と戦い続けた一族ゆえ、それはある意味当然。


バリバリの武闘派一族であり、マナを悪いことに使う妖術師なども戦っていたという。


ちなみに、道を踏み外してしまうものがでると、一族によって粛清されるらしい。


冬音女史は数年前までは一族最強であり、まだ現役であった。


「しかしね、桜子を見て引退する決心がついたんだよ。分家の生まれで、こんな運命を背負って生まれてきたわけではないのに、めきめきと強くなったんだから」


「再びお兄様にお会いで来るとき、胸を張れるように努めただけですわ」


「だから、一族の問題は、桜子の小さな肩に背負わせてしまったんだよ。アラミタマ問題の解決も含め」


「はい、あの聖地を目指す巡礼者の方たちもですね」


「どういう意味?」


いきなりわけのわからない単語が出てきた。


「瀬田、思い出せ。お前が吹き飛ばした蛇のことを」


「アイツね」


ヒュドラというコードネームで,教官や学園長に呼ばれる。


「あの時のことはあまり思い出したくないぞ」


正直、難民を出さずに済んだのはうれしい。


実質的には、報奨金なしで骨折り損のくたびれ儲けだった時か。


学園長と教官には、戦いの詳細を嬉々して説明した。


報奨金のため、細部まで丁寧に。


まさか、何の意味もないと思わなかったが。


「アイツは高位の異世界生命体だ。こちらの世界では核を作り、実体化してる」


「俺のトツカで貫いたっけな」


それがどうしたんだ?


「ああいう存在が現れたことを『神の降臨』というやつがいるのだ」


「なるほどなあ」


そう見えないこともない。


「世紀末思想が蔓延し、預言者が現れたり、変な教団が生まれた」


「それでカミに会おうとしてるのが巡礼者だよ。異世界化空間は彼らの聖地になるの」


今まで黙っていた嫁が言う。


「カミと崇める存在にまみえる。それが彼らの目的ね」


分からんこともないが。


「でも、それはかなりの問題だよな。大勢を異世界化空間にご招待できないし」


だからと言って、一部を入れるだけでもダメ。


それをやると、そいつらは歯止めが利かなくなってしまう。


「大変な問題だということは理解できましたが、それほど気に病むことなのでしょうか?」


彼らにはこれからも、お帰り願い続ければそれでよくない?


「ああ。それだけでなくアラミタマ。我らの崇めているカミに問題がある」


「カミとはけして、豊穣をもたらすだけの存在ではないのです」

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