第3話 バイト
「世界ってのは、変貌したのよ」
話を聞きに行って言われた一発目がそれである。
そこは研究所に似た雰囲気の建物であった。
お金を惜しみながらバス代に使い、山奥にあるその施設へと向かった俺。
決意を決めて建物中に入り、受付から名前を呼ばれる
担当がいると思われる小部屋の中に入った。
いたのは、白衣を着た若い女性だ。
若いと言っても、俺よりも年上であるが。
「いきなりごめんなさい。私の名前は佐伯よ。一応、人間の検査をしたりするのお仕事。あなたは瀬川一樹君でいいわよね?」
「はい、そうです」
「それで、さっきの話なのだけど……」
「知っていますよ。異世界化した空間があるのでしょ?」
知ることに勤勉な小学生であっても、そんなことは理解していることだろうな。
「違うわ。いえ、違わないけど、そういう意味で言った訳ではないのよ」
「はあ。では、何のことでしょうか?」
言われている意味がよくわからない。
「あなたも知っているように、この世界は異世界化している」
「そうですね」
そんなことを話して、どういうつもりだ?
「次元の壁がある。あっちの世界とこっちの世界を分けていた壁。でも、そこが不安定になったのよ。これは分かるよね?」
「はい」
「そのせいで、異世界からの影響がこっちの世界にも出ている。異世界化がその代表だけど、それだけではないのよ」
「どういうことが起きているのですか?」
「この世界の人間も、異世界化の影響を受けているのよ」
衝撃の事実。
「そんなことは聞いたことがなかったです」
知らないのは俺だけなのか?
「異世界化の影響で、人間には“マナ”と呼ばれるエネルギーが与えられた。与えられたというのはおかしいわね。もともと持っていたものが、強くなったと言うが正しいわ」
「それで、この仕事とどう関係してくるのですか?」
マナと言われても、ピンとこないのだけど。
「いいから話を最後まで聞いて」
「はい」
どうつながるのだろう?
「そのマナを使い、AFは異世界化に対処しているわ。彼女らの乗るAAは、マナで稼働しているからね。異世界化を防ぐ防御実式だって、マナによる力なのよ」
「どういう意味ですか?」
AFはどういう部隊?
活動についての情報は、そんなに開示されていないと思ったけど。
「マナと呼ばれるエネルギーを操り、AA。アーマード・アーティファクトと呼ばれる、機械の鎧を身にまとう部隊よ」
「AA?」
何ソレ?
響きがかっこよさそう。
「科学的にマナを解析し、制御技術を組み込んだこの時代の甲冑。まあ、パワードスーツみたいなものね」
「へえ」
かっこいい部隊ですね。
AFはそういうものを使って異世界化に対処しているのか。
「そうよ、AAを着た彼女たちは、クリーチャ―と戦っているの。こうして、この世界の平和は守られている訳」
なるほどな。
「ちょっと待ってください。“彼女ら”ということは、AFというのは女性の集まりなのですか?」
女性が活躍しているのか?
「そうよ。女性のほうが魔力は強いって言うでしょ? 知らなかったの?」
「はい、全く」
AFは美人お集まりだったらいいな。
不気味な魔女はお断りだが。
「話をもどしましょう。ようは、異世界化した影響のおかげで、異世界化の調査と対処が進んでいるってことよ。マナを使って、マナを制するってね」
意外と、子供っぽい言い方が好きなのだなあ。
「それで、俺とどう関係があるのですか?」
「AFでは、強いマナの力を持つ人材を求めているの」
「そうなりますよね」
絶対、危険な仕事だろうし。
退職者も多そう。
「それ以外にも、機体のテスターも必要としているのよ」
「テスター?」
「AF。正式にはアーマードフォースという名前だけど、彼女らはAAに搭乗して、異世界化した土地の調査をしている。調査だけではなく、対処もね」
「そうですか」
「そこの“核”となっているクリーチャーを倒せば、その土地は解放されるのよ。そうやって世界を救っている訳。また異世界化が起こらないって保証はないのだけど」
「はあ」
適当に相づちをつくぐらいしかできない。
話が大きいなあ。
「そのAAに、AF隊員は命を懸けるわけよ。でも、本当に信じていいのかは、使ってみるまで分からないわよね?」
「そうですね」
戦場で突如、壊れたら嫌だし。
最悪、命を落とす。
「だから、実際に異世界化した土地で乗って試してもらう人が必要になるのよ。誰かが安全性を確かめないといけない。分かった?」
「それってもしかして……」
俺の頭脳がフル回転。
疑問に思ったことがすぐに理解できた。
「ええ。よくわかりました」
一拍おいて言う。
「ようは、使い捨ての駒ってことですね」
不具合がなければそれでよし。
もしあっても、自分たちとは無関係の人間が被害にあうだけ。
だから、AFには何の痛手もない。
悪い言い方だと人柱。
つまり生贄だな。
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