第1章 第23話 始まりは唐突に
時刻は午前11時半、ゴブリン達が森から出てくるまであと30分程となった。
先程よりもみんなの顔に濃い緊張の色が浮かぶ。
シャルテとテルルは東門の門に背中を預け、座り込んでいた。
「⋯⋯ねぇ、シャルテ」
「うん?どうしたの、テルル?」
テルルはシャルテの顔を見ることなく、俯きながら話しかける。
「⋯⋯大丈夫?」
「⋯⋯え?」
あまりにも抽象的な問いかけにシャルテは首を傾げるしかない。
シャルテがなんと答えればいいのか迷っていると、
「⋯⋯なんだか、シャルテがいつもと違う気がするの。いつものシャルテは自信に溢れていて、それでも妥協や油断はしない。でも今日は、妥協や油断はしていないけど⋯⋯自信がない」
「⋯⋯⋯⋯」
それは、シャルテも自分で感じていた事だ。
家族以外に先程の様な不安気な態度をとってしまったのは初めてだ。
──不安。不安で仕方がない。
(⋯⋯いや、ダメよシャルテ。私は以前、ゴブリンを倒しているじゃない。今回はゴブリンの量が多いだけ。そうでしょ!)
その不安に気付きながら、気付かぬフリをする。
そうでないと自分は──。
「⋯⋯大丈夫よ、テルル!私は私、いつもの私よ!」
こんな事を言っても、付き合いの長いテルルは──いや、ティトフにすら空元気だと思われるだろう。
だか、自分の不安を周りに伝染させるわけにはいかないのだ。
「⋯⋯そっか」
テルルが答えたのはそれだけだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
(シャルテ⋯⋯)
シャルテが不安な理由は分かっている。
⋯⋯多分、ランドさんとネネさんも。
シャルテが不安定になったのは、アレンと決別してしまった日からだ。
テルルはアレンを追いかけ、帰ってきたシャルテを見て何があったかはすぐに分かった。
そして家に帰り、ランドさん達もシャルテを見た瞬間、何かあった事はすぐに分かったはずだ。
ランドさん達が何があったのか分かったのは、夕食にアレンが現れなかった時だろう。
勉強会に来ないのはまだ分かる。その日の森の調査で疲れているからと思える。
だが、あのアレンが夕食に来ないのはおかしいではないか。
図太く、欲張りな性格なアレンが疲れた日に夕食を抜かすはずがない。
(シャルテは、学校以外で自分に勉強を教える事が出来る人を見た事がなかった。だから、少しかもしれないけどアレンを尊敬していた)
テルルはよく分からなかった。
確かにテルルもアレンの事を認めている。
認めているというと上から目線になるかもしれないが、それ以外に適する言葉が見つからない。
テルルはシャルテのように、アレンの事を尊敬している訳ではないのだ。
だから、テルルにはシャルテが分からない。
(⋯⋯なんでシャルテは、アレンがいいんだろう?)
その時だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時間は物語の冒頭に遡る。
『どーするんだぁ、⋯⋯あんたぁ⋯⋯これからぁ?』
棍棒を持ったゴブリンがそう言う。
『そうだぃ、⋯⋯どうすんだぃ』
剣を持ったゴブリンがそう言う。
『そりぇ、⋯⋯村人全員射抜いて⋯⋯殺しちまえばいいんだぇ』
弓を持ったゴブリンがそう言う。
『ダメだ、何人かは残しておけ』
地図を持ったゴブリンが流暢にそう言う。
そして最後にアンデッド、正確にはワイトが、言い放つ。
『⋯⋯面倒だ、全員殺せ』
その言葉に地図を持ったゴブリンはしかめっ面をするが、その表情を消し、
『⋯⋯だそうだ、行け』
その言葉を最後に、1万のゴブリン達が村を目掛け走り出した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして時間は動き出す。
「うわあああ!なんで、なんでもうゴブリン達が攻めてくるんだぁー!?」
「お、落ち着けみんな!警備隊員、防衛線を!」
ナガスが指示を飛ばし、警備隊員は動揺が残っていても動くが、生徒達はそうはいかない。
「シャルテ!」
動揺していたシャルテを引き戻したのはテルルの呼び声だった。
(⋯⋯ダメだ、弱気になるな。強くあるんだ、私!)
「⋯⋯やろう、テルル!」
手をゴブリン達の方へ伸ばし、それに続いてテルルも手を伸ばす。
「「《雷電よ・貫け》ッ!」」
二人は【ライトニング】を放った。
戦いが、始まる。
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