第1章 第22話 不安
家を出た二人は少し小走りに村の東門へと向かった。
東門に着くと、既にクラスメイトは全員集合していた。
いつもならみんな明るく、友達同士で話をしているが、会話をしている者はいない。
それは東門に集まっている、警備隊から発せられる緊張感がみんなに伝染しているのだろう。
二人はナガスを探した。
ナガスは東門から少し出た所で真剣な顔で他の警備隊員と話をしていた。
「で、ここでこうしよう。だがもしここで相手がこう出てきたら⋯⋯」
ナガスが作戦会議を終えるまでナガスの後ろで待っていると、
「おーいシャルテー、テルルー」
後ろから誰かが自分達を呼ぶ声がした。
振り返ると、ティトフがこっちに来いと手招きをしている。
二人は顔を見合わせて少しだけ首を傾げると、小走りにティトフの元へ向かった。
「どうしたの?ティトフ君」
テルルがそう尋ねる。
「警備隊のナガスって人が、俺達が何をすればいいのかって事を朝より詳しく説明してくれたんだ。だからそれをシャルテとテルルにも説明しようと思って」
「え、もう聞いてくれたの?それに皆には説明しなくてもいいの?」
「ああ、だって俺は家に帰ってすぐにこっちに来たからな。みんなはシャルテ達よりも早く来てたから、もう説明済みさ」
シャルテの問いかけにティトフはさらっと答える。
もしかしてみんなは私達が来るもっと前には来ていたのだろうか?
シャルテがしっかりしなきゃ!と頬を叩き自分に活を入れていると、テルルがティトフに先を促す。
「それで、ナガスさんは私達が何をすればいいって言っていたの?」
「朝に聞いたように、俺達は基本後衛らしい。警備隊の人らが東門から出たところでゴブリンを食い止めるから、そこに俺達が魔術を打ち込む。っていうのが主な作戦だってさ」
ふむ、だがそうなると一つ不安点がある。
「ねぇティトフ。警備隊の人達だけで大丈夫かな?私達が治癒魔術を施すって言っても、ゴブリン達は1万近くいるんだよ?そんなのずっと耐えきれるとは思わないし、何より私達の魔力が尽きてしまったら──」
と、シャルテはティトフが驚いた顔をしているのを見て言葉を止める。
「ティトフ?どうしたの?」
「⋯⋯え、あ、いや、その不安は最もだし言ってる事も正しいんだけど、シャルテがそんな事言うなんて珍しいなーって⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
そう言われてみればそうだ。
私はどうしてこんなにも不安なのだろう?
いや、ゴブリン達の事を考えれば不安になる事はおかしい事ではない。
だが、シャルテはそんな不安を感じても、それを口に出す事は今まで無かった。たまに、たまーにだけ先程の様に不安を両親やテルルなどに漏らすこともあるが、そんな事は本当に希だ。
それが、クラスメイトにも不安を漏らすだなんてどうかしている。いつもの私じゃない。
「シャルテ⋯⋯?」
その呼びかけにハッとして、少し俯き気味だった顔をあげる。
テルルがこちらを心配そうにみている。
「⋯⋯ごめんなさい、大丈夫よ。私達ならやれるわ」
そうだ、シャキッとしろ。自分。
こんな不安そうにしている姿、両親には見せられない。
約束したではないか。私は今回の戦いで大活躍し、両親の自慢のタネになるのだ。
正直そんな事になるのも恥ずかしいが、今回の戦いを生き残れたのならそれくらいは我慢しよう。
「おう、それでこそシャルテだよな」
ティトフがそう言うが、テルルはやはり少し心配そうにシャルテを見ていた。
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