第1章 第19話 決別

幸い気付かれる事無く村にゴブリン達よりも近道で戻ってきたアレン達は、ナガスに急いで報告にいった。

 

「な、なんだって!?一万近いゴブリン達の大軍に、アンデッドだって!?」

 

「ああ、そうだ。ゴブリン達の目的地はこの村で間違いないだろうよ。他に何かあるところがねぇしな」

 

「と、とにかく!早くゴブリン達が攻めてきた時に備えないと!」

 

シャルテがそう進言し、テルルもそれに頷いている。

 

「そ、そうだね!早く警備隊の皆に伝えて防衛線を引かないと!」

 

「私も手伝います!テルルは!?」

 

「もちろん、シャルテと一緒に手伝うよ。このままじゃ、村が壊滅しちゃうもの」

 

その言葉にナガスが感動し、感謝の言葉を何度も繰り返している。

だが、そんな光景を、

 


「ああ、頑張ってくれよな。俺達村民を守るためによ」

 


アレンはぶち壊した。

 

シャルテとテルルはその言葉に言葉を失った。

 

「⋯⋯な、なんで?アレンは手伝わないって言うの?」

 

「当たり前だろ?俺は何でも屋なんてやってても、どうせ村民のひとり。なら警備隊とかの連中が守ってくれるだろ?」

 

シャルテはアレンの言葉にどんどんヒートアップしていく。

 

「何言ってるのよ!私達がゴブリン達の大軍を見つけたのよ!?なら最後まで手伝わないと!」

 

「俺はお前みたいに善意で動くヤツじゃねぇんだよ。俺が依頼されたのは森の調査であって防衛じゃねぇ。そんで、警備隊の一人であるナガスが守るべき村民である俺に防衛の依頼が出来るはずがねぇ。そうだろ?」

 

アレンにそう話を振られたナガスは、

 

「──ああ⋯⋯、その通りだ。これ以上、アレン君に迷惑はかけられない。

元々、森の調査だって僕達がしなくてはいけないものだったんだし」

 

その言葉にうんうん、とアレンは頷き、

 

「そうだよなぁー?別に俺間違ってること言ってないよなー?んじゃ、ナガスさんよ。依頼料」

 

ナガスはアレンに依頼料を渡し、アレンはそれをポケットの中に突っ込む。

 

「うし、確かに受け取った。んじゃ、まいどー!」

 

アレンがナガスの家から出ていこうとした時、

 

「⋯⋯ちょっと待ちなさいよ」

 

シャルテがアレンを呼び止めた。

 

そしてシャルテが振り向きアレンに怒りをぶつけようとして大声を張りあげようとした⋯⋯!

 

が、そこにはアレンはいなかった。

 

「ちょっと待ちなさいよおおおおおおおおおお!」

 

「んぁ?」

 

シャルテは既に家に帰ろうとしていたアレンを今度こそ呼び止める。

 

「さっき呼び止めたでしょ!?あそこは普通止まって私の言葉を待つでしょう!」

 

「なんで俺がお前の言葉なんぞ待たにゃならん。それに、晩飯の時にまた会うだろ」

 

「あ⋯⋯、そっか⋯⋯ごめ、じゃないわよ!?何夕食食べに来るのが前提なのよ!」

 

一瞬アレンの言葉に頷きそうになった自分を心の中で責めながら、アレンに先程の事を問う。

 

「それよりも⋯⋯、さっきのはどういう事?なんでナガスさんと一緒に村の防衛をしようと思わないわけ?」

 

だが、その問いにアレンは首を傾げる。

 

「なんでって、めんどくせぇだろ」

 

シャルテは、アレンに問いかけた時、何となくだがこのような答えがくることは予想はしていた。

アレンの性格ならば、そのような事を言ってくるのは容易に想像できるからだ。

 

だが、シャルテはその予想を裏切って欲しかった。


村を守るのが面倒くさいなんて、アレンの口から聞きたくなかった。

 

「⋯⋯私ね、あなたの事、少し尊敬してたの。灰なのに、白の私に勝って、そして勉学でも私を上回る。両親以外で初めて尊敬した人だった」

 

シャルテの言葉に、アレンは無表情で耳を傾ける。

 

「⋯⋯でも、今見損なったわ。村を守るのが面倒くさいなんて、そんな事言う人、尊敬出来るはずがない」

 

シャルテはアレンから目を離し、踵を返し、

 

「さよなら、もう勉強なんて教えてもらわなくていい。夕食の時も来ないで」

 

そう最後に言い放ち、今度こそシャルテは何も言わずにと歩き去っていく。


アレンはそれを、やはり無表情で、シャルテの姿が見えなくなるまで見つめていた。

 

その日、アレンは夕食には現れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る