第1章 第18話 群れ

3人はゴブリンの大軍にこっそり近づくため隠蔽魔術を使い、ゴブリンの大軍が見える所まで近づいた。

 

「⋯⋯間近で見ると本当にすごい数ね⋯⋯。終わりが見えないわ」

 

シャルテがそう言い、テルルが頷く。

 

「ゴブリンって、群れても10匹〜30匹くらいだもんね。でも、この数は異常すぎるよ⋯⋯」

 

「ああ⋯⋯、これが森での異常って事だな⋯⋯」

 

アレンが険しい表情でそう言う。

 

「⋯⋯よし、これをナガスに伝えに帰ろうぜ。ゴブリンより先に村に着かないといけねえ」

 

「まだゴブリンが村に近づいてきてるって決まったわけじゃないけどね。⋯⋯でも、確かに早く伝えた方がいいよ──」


「いえ、まだよ」

 

テルルがアレンに賛同し、村に帰ることを促した途端、シャルテがそれに待ったをかける。

 

「まだってお前⋯⋯。もう異常は見つけただろ?それに早く帰ってママさんの飯食いてえし」

 

「あなたはいつから家の一員にでもなったのよ⋯⋯。確かに異常は見つけたわ。でも、人っぽいのがまだ見つかってないわ。それを見つけないと」

 

シャルテがそう言った途端、少し緩んでいたアレンの表情が固くなる。

 

「──お前、分かってんのか?その人っぽいのはこの1万近いゴブリン達の親玉なんだぞ?もしそいつに見つかって攻撃を仕掛けられたら、俺達は確実に死ぬぞ」

 

死ぬという言葉に少しだけシャルテの顔に動揺が浮かぶが、それも一瞬でいつものシャルテのように自信に溢れたものに戻る。

 

「ふん、あなたこそ分かってないわね。ゴブリン達の親玉の話なんかしたって村のみんなは信じてはくれないわ。それに、ゴブリンがいくら集まろうと私の敵じゃないわよ」

 

「⋯⋯⋯⋯俺に負けたヤツがよく言うぜホント」

 

「陰口なら聞こえないところでやりなさいよ!聞こえるように言われると余計に傷付くわ!」

 

「傷付くように言ってんだよ察しろ」

 

「⋯⋯このクズめ、今度こそ引導を渡してやるわッ!」

 

「や、やめて二人とも!気づかれちゃうよ!?」

 

ゴブリンの大軍のすぐ近くにいるのに、いつでも通常運転のアレン達であった。

 

 

ゴブリン達に気付かれないように親玉らしき人を探し始めたアレン達は、ゴブリン達の大軍の先頭の方からその人が来るまで少し離れた場所で待つことにした。

 

「ねぇ、ここで待つよりずっと大軍の列を遡って行く方が早いんじゃないの?」

 

「やだよ、ずっと歩いて疲れたんだよ。かれこれ何時間歩いてると思ってんだ」

 

「⋯⋯確かに疲れてないって言ったら嘘になるけど⋯⋯」

 

「だろ?だからここで待つ一択」

 

そう言われしぶしぶと言った顔で引き下がるシャルテ。

すると、今度はテルルが話しかけてきた。


「ねぇ、アレン。ゴブリンの大軍を引き連れてる人って、どんな人だと思う?」

 

「ああ?」

 

「だって、魔物を引き連れてるんだよ?どんな人か気にならない?」

 

「別にー?どんなヤツだったとしてもとりあえずぶっ飛ばす。どうせ、なんかの研究とかでもしてる学者みたいなヤツだろうしな」

 

そう言い話が終わると、少し強そうなゴブリン達が歩いてきた。

恐らく、大軍の中心部に近づいてきたのだろう。

 

「⋯⋯そろそろね」

 

シャルテがそう言い表情を固くする。

見るとテルルも同じような表情だ。

アレンは二人の顔から視線を離し、ゴブリン達の方を見る。

このゴブリン達の中でもトップクラスの強さだろうと思われるゴブリン達だ。全部で4体いる。

 

一体目は大きな棍棒を担いだ周りのゴブリンよりもひと回り大きな体格のゴブリン。

二体目は剣を持った、一見普通のゴブリンだが、剣の輝きとオーラが周りとは違う。

三体目は弓をもち背中に弓矢を多く担いでいるゴブリン。

そして四体目はなにやら地図を広げている。この四体の中では一番弱いのだろうが、それでも周りと比べれば十分に強いのだろう。

 

そして、その四体に囲まれるように馬に乗っているのが、この大軍のリーダーだろう。見ると本当に人のようだ。


だが、アレンはそれを見た瞬間絶句した。

馬がおかしいのだ。

馬の肉はごっそり抜け落ちていて、骨が見えている。所々に肉はあるが、その肉も腐り果てている。

 

そして、その馬に乗っているのは人などではなかった。

シャルテとテルルもその人をみて顔を青ざめた。

 

馬に乗っているのは、元々人間だったと思われる男だ。ただし、その肉は馬同様、腐り果て、骨が見えている。

 

つまり、アンデッドだ。

 

アレンはシャルテとテルルに小声で話しかける。

 

(おい、撤退だ。これ以上ここにいてバレたらたまったもんじゃない)

 

(う、うん。シャルテ、行こう?)

 

(⋯⋯そうね、もう正体は分かったのだし)

 

二人はアレンの言葉に我に返ってきて、そう言葉を返し、その場をあとにした。

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