第1章 第16話 森の調査
10分後、シャルテとテルルはアレンの家の前に来ていた。
「でも、シャルテ。なんでいきなりあんなこと言ったの?森に行くだなんて危険じゃない」
「確かに危険よ。でも、これはチャンスでもあるわ。今回の調査で、アレンよりも優れている事を証明するの!あの決闘の後から、みんなの私を見る目が変わったの。『灰に負けるだなんて、シャルテってば大した事ないんだな。』とかそういう目に見えるの!」
「さ、流石にみんなはそんな事思ってないよ⋯⋯⋯⋯多分」
「ちょっと自信なさげじゃない!否定するならしっかり否定して頂戴よ!」
そんなやり取りをしていると、家のドアが開きアレンが出てきた。
「お、ちゃんと来てるな。ったく、お前ら守るっていう仕事が増えちまったじゃねぇか。ナガスに依頼料貰う時に料金増やしてもらうからな、お前らも手伝えよ」
「嫌よ、なんで私達がそんな事しなきゃいけないのよ。それに、自分の身は自分で守るから、あんたこそ自分がやられないようにしなさいよ」
「こら、シャルテ。私達は無理言って連れていってもらうんだから感謝しないとなんだよ。そんな事言わない」
「いや、テルルはそんな固い事言わないでいいぞ。お前は優しいし、可愛いからな。ちゃんと礼を言わなきゃいけないのはシャルテだ」
「ちょっと何でよ、おかしいでしょ!私だって優しいじゃない!」
「何言ってんだお前の優しい所とか見た事ねぇよ。テルルを見習え」
シャルテが俺を殴ろうとしているのをテルルに必死に止められている。
しっかし、何でこうも面倒事が俺を追っかけ回すのかねぇ⋯⋯。
そんな事を思っていると、テルルが俺が腰にぶら下げているものに気付いた。
「アレン、それって⋯⋯」
「ああ、そうだ。普通に剣だよ。」
「何よ、あなた剣なんて使えるの?」
シャルテが不思議そうに尋ねてくる。
「おう。ガキの頃に結構やったからな。もう何年も使ってなかったが、体が覚えてるだろ」
「ふーん」
シャルテは余り興味がないようで、自分の持ち物を確認し始める。
だが、テルルは俺の腰についた剣をみて、不思議そうに首を傾げていた。
「⋯⋯な剣、⋯⋯⋯⋯あっ⋯⋯な?」
「何?何だって?」
「あ、ううん。何でもない」
そう言いながらテルルは剣から目を離す。
一体何だったんだ?この剣が気に入ったとかか?
アレンは訳が分からなかった。
「──よし、大丈夫よ。ちゃんと必要な物は持ってきてるわ」
すると、持ち物の最終確認が終わったのか、シャルテがそう言ってくる。
時刻は10時ピッタリだ。
「よし、んじゃ行くか!」
アレンの声に、テルルが「おー」と手を挙げた。
村から出て森に入るまでには、およそ100メートル程の道中がある。
今日は、その道中には魔物は出てきていなかった。
3人は森の中に入る。
森に入ると、少し空気が変わる。
それは人間の本能なのかは分からないが、人が踏み入れてはいけない領域に足を踏み入れてしまった様な感覚がする。さっきまで少しポカポカしていたのに急に寒くなった気がした。
(アレンはここに入るのは2回目なんだよね⋯⋯。怖く、ないのかな)
テルルは、アレンがこの森に対して恐怖を全く覚えてない様に見えて──
(それに、アレンが腰に下げてる剣⋯⋯、この村で売ってないよね⋯⋯)
先程アレンの剣を目にした時の感想はこうだ。
何年も使っていないにしてはよく手入れされている様に見えて──
しかも柄の部分はよく使われている様に見えて──
(なんで、嘘なんかついたんだろう⋯⋯?)
テルルには、よく分からなかった。
アレン達が森に入ってからもうすぐで一時間は経つが、まだ一度も魔物と遭遇していなかった。
それに、前に猫を追いかけて森に入ってしまっていた時と比べてどこか静かな感じもする。
(⋯⋯おかしいな、前は動物とかの気配はあったのに今はそれがない⋯⋯)
アレンはどこか嫌な感じがしていた。
説明しろと言われても出来ない様な、嫌な感じ。
危険はない。魔物が出てこない。
それでいいはずなのに──
そのまま、何も起きないまま正午を迎えた。
ちょうど開けた場所に出た所で、
「はぁー、疲れたぁ〜!ちょっと休憩にしましょう」
「あー、そうだな休憩しよう⋯⋯。くそ、引きこもりにこの調査はキツいぜ⋯⋯」
シャルテに賛成し、その場にどかっと腰を下ろす。
(こんなに奥まで来るなら飯もうちょっと持ってくるべきだったな⋯⋯)
そう心の中で呟き、魔術で異次元空間に収納していたおにぎりを取り出す。
見ると二人も異次元空間に昼食を収納していたようで、結構ちゃんとした弁当を持ってきている。
それを横目に見ながらおにぎりにがっついていると、
「あの、アレンの分も持ってきたんだけど⋯⋯食べる?」
「へ?」
テルルがこちらを少し上目遣いにして見ながらそう尋ねてきた。
「えと、これ私が今日の昼食にって作ってたやつで⋯⋯。急に森に出かけることになったから余り量はないし、美味しくないかもだけど、よかったら──」
「く、食う!食う食う食べる食べます食べさしてください!」
そうやってテルルから弁当を貰い、おにぎりを食べていたスピードの倍以上の早さで食べていく。⋯⋯なんだこれめっちゃうめぇ。
昼食に作っておいたものを急いで弁当に入れたようだが、具などが綺麗に分けられていて、しかも全てがものすごく美味い。
一瞬で弁当を食べ終え、テルルに弁当箱を返す。
「ありがとよテルル。めっちゃ美味しかったぞ」
「あ、ありがと⋯⋯」
褒められた事が嬉しいのか、消え入りそうな声でそう言う。
「ちょっと、何イチャついてんのよ。ご飯食べ終えたんなら早く行くわよ」
「い、イチャついてなんかねぇし!」
少し上擦った声でそう返し、
「ほら、テルルも行くぞ!」
「あ⋯⋯」
テルルの手を引っ張り、立たせた。
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