第1章 第1話 何でも屋

「ねぇ、あんな子この村に居たかしら?」


「いえ、私あんな子知らないですよ?」


「どこから来たのかしら。あの黒眼黒髪の子」


「それよりも、なんでこんな端っこの小さな村に来たのかしらね、あの子」


歩いているとどこからか必ず俺の方へ視線が向けられる。中には、さっきのように俺の事を話題に話を広げるマダム達までいる。


「けっ!俺は何年も前からこの村にいるわババアめ!頭ボケてんじゃねぇのかお前ら!」


マダム達には聞こえないように、小声で悪態をつく。


ラクサス

それがこの小さな村の名前である。すぐ東には、魔物が闊歩する終わりが見えない森、久遠の森があり、周りには他の村などもなく、仕入れのためにこの村を出た者が帰ってくるのは、馬を潰さないように走らせて約1週間後。片道に馬で約3日かかるほど他の村から離れたアーティナブル王国の北東に位置する田舎村。それがこのラクサス村である。


「ほんと、よく一応でも成り立ってんなこの村⋯⋯」


そんな事を考えながらアレン、アレン=イルヴァレルは依頼主の猫を探していた。


働きたくない、と常々思っているアレンだが、生きる為に渋々働いている。だか、しんどい仕事はしたくないので、アレンは自分の家を何でも屋として生計をたてている。


そして、アレンの家にくる依頼はほとんどが雑用などで、1日のほとんどを家に引きこもってすごしている。外出するのは夜のため、さっきのように視線を浴びたり、「あんな人いたっけ?」と、さっきのように会話のタネになったりする。


何故、いつも引きこもっているアレンが昼に外に出たかというと、今日、全く依頼がこなくて今までの依頼料が底をつき、このまま餓死するのか⋯⋯と思っていた時に、アレンの家の戸が開き1人の子供が入ってきた。


子供の依頼は飼い猫を探して欲しいというもので、アレンは依頼を聞いた瞬間に家から飛び出していた。⋯⋯飼い猫の特徴も聞かずに⋯⋯。


「くそ、あのガキめ⋯⋯。飼い猫の特徴教えないまま俺に飼い猫探しに行かせやがって⋯⋯。後で依頼料ふんだくってやる」


どう考えても悪いのはアレンなのだが、そんな考えはアレンの頭の中には欠片もなかった。そして、空腹のあまり、家に帰って子供に飼い猫の特徴を聞くという考えも、アレンの頭の中には欠片もなかった。

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