7話 握手
「へ?」
彼女は今、なんといった?
突然の出来事に頭がうまく働かない。
「
あぁ、わかってる。
君が言っている事は、ちゃんと分かってる
いやでも、僕の旅についてくるって
「ど、どうして?」
僕はすぐ情けない声を出すんだなと、どこか冷静な自分が思う。
「山での生活も飽きたの。なにより麓の村はいまいちパッとしないのよね」
そんな理由で僕についてくるのかと思う反面、こんな山で女の子をひとりで暮らさせるなんてそっちの方が大変なのではないか
頭のなかでいろんな考えがグルグルとまわる
「こんな山に、か弱い女の子ひとり残していこうなんて言わないわよね?」
でも君はここを家だと言ったじゃないか、などと思ったものの口には出さないでおいた
「でも、僕は姫をさらった強い魔物を倒しにいくんだよ?そっちの方が危険じゃない?」
これでもダメなら連れていこう。
旅は道連れ世は情けって小説の中の勇者の仲間も言っていたし
「いいわよ。それにアンタより私の方が強そうだし?」
たしかに。
僕より目の前の彼女の方が強そうだ。
「ね?いいでしょ?」
そういった彼女の瞳はどこかすがるように此方を見ている気がした。
捨てられた子犬のような、そんな感じ
「わかった。行こう」
女の子に頼るようで少し恥ずかしいが、僕もひとりでいるのは心細い
仕方ないと言うか、有り難いと言うか。
「あら。そんな簡単に承諾しちゃっていいの?」
そんな気持ちと裏腹に彼女は怪訝そうに、そしてイタズラに笑ってこう続けた
「私が盗賊だって、わかってる?」
─────と。
「つまりそれは僕の持ち物を奪って逃げるって言うこと?」
そのときはまたここまで君を追いかけに来るけれど
「でも、さっきノエルは僕の持ち物を大したことないって言ったじゃないか」
今は新米冒険者だから仕方ないけれど
旅をしているうちに高価な物が拾えるかもしれないけれど
「なにも考えてないようで、ちゃんと考えてるのね」
彼女はそう言って優しく微笑んだ。
「合格よ。ついていってあげる。」
何故上からなのか、とか思ったけど、これも黙っておくことにした。
「では、改めて。ノエル、よろしく」
「えぇ、フェリア。よろしくね」
差し出した手をぎゅっと握ったノエルの手は、僕より少し小さかった。
□■□
「ノエルは何歳なの?」
山道を降りる時、ふと気になってそう聞くと
「女の子に年齢を聞くなんて、悪い男ね」
と返されて、しまったなと思っていたら
「17よ」
と教えてくれた。
僕より上じゃないか。
「フェリアは?」
「僕は、16だよ」
すると「あら」と小さく呟いたあと
彼女はニヤリと微笑んだ
「私より下じゃない。」
「ひとつしか変わらないじゃないか」
「私は今年18になるわよ」
───ンッ それじゃあ、ふたつも上だ。
「私の方がお姉さんね」
彼女はけらけらと高い声で笑った
悔しいけど、そうなる。
たしかに僕より年下って顔ではないような気がしていた。
胸こそ控えめだけど、どこか顔つきが大人びていると言うか、いや幼さも残っているのだが
「なんか失礼なこと考えてるわね?」
体がビクッと跳ねた感覚がした。
「な、んで分かったの?」
「やっぱり考えてたのね」
だめだ。話すとどんどん深みにハマる
少し黙っておこう
「フェリアってむっつりでしょ」
気管に唾が入ったのか、カハカハと喉がなって咳き込む
「そんなことないから!」
そう答えたのに相変わらずニヤニヤと口元を緩めて彼女は此方を見ていた。
まるで「じゃあ、むっつりじゃなくてオープンなのかしら?」とでも言いたそうに
身長が同じくらいなせいで彼女の顔がよく見えて恥ずかしい
「はやく行こう」
誤魔化すように早口でそういって目線をそらした
「はーい。むっつり勇者様」
「僕はまだ勇者じゃないから!」
「じゃあむっつり冒険者ね」
むっつり冒険者って、そんなダサい称号いらないな
僕って、むっつりだったのかな?
ていうか、むっつりってむっつりスケベの事だよね
それならスケベ冒険者よりはマシかな。
「私はそんなむっつり冒険者の相棒ね」
彼女はそう言って小さく笑った
「そうだね」
スケベの相棒か、等と頭のどこかで思ってしまった自分の頭をブンブンと振った
彼女は何してるのよとまた笑っていた
初めて出来た相棒の笑顔は、とてもかわいらしくて元気が出た。
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