4話 生贄

「コトミは、今晩の生贄なんだ」


村のすぐ近くの丘まで連れてこられた僕は、聞きなれない言葉に首をかしげる。

たしか「神に物を捧げる」儀式のようなモノだった記憶があるけれど、これは本で読んだだけの知識


「今晩のって、一体どういうことだい?」

「この村では毎月1人女の子が生贄として神に捧げられるんだ」

「毎月?」

「そうしないと神が怒って村を焼き付くしてしまうんだって」


人間に被害を加えるなんて、もはや神のすることじゃないだろうに...

それでも人は、神に頼らなければ生きていけないのだろうか。

風がそよぎ 木の葉が舞った


「それで彼女落ち込んでるのか」

「うん...オイラも、なんて声をかけてあげればいいのかわからなくて...」


そんな君にかけてあげる言葉すら、僕には見つからない。


「友達なんだ」


尚更なにも言えなくなった。

二人の間に沈黙が走る。また風が通る。


「お兄さん、旅人なんでしょ?」

「かけだしだけど...」

「コトミを...助けられない?」


助ける、か。

僕の本来の役目は「姫の救出」だ。

つまりこの程度の人助けができなくて、そんな大役が務まるだろうか


「でも、どうやって」


僕の口から出た言葉は、意外にも弱々しくて頼りない人任せな言葉だった。


     □■□


「この作戦は今晩コトミが捧げ物として祭壇に置かれて、村人が去った時...ここしかないよ」

「でもそれじゃあ君は」

「オイラはいいんだ。お願いね、旅人さん」


目の前の子供が言った「作戦」は、僕の想像を遥かに越えるものだった。



この子が、彼女の身代わりとして自ら祭壇に捧げられる────


僕の任務は、コトミを村まで無事送り届ける事。それだけ。そんなことしかできない。


「じゃあ、夜にまたココで!」


子供は転がるように丘を下り村まで帰っていった

その小さな背中を見えなくなるまで見送る。

僕にはそこから立ち上がる気力もなかった。


僕は力不足だ。

こんなんじゃ姫なんか到底助けられない。


「はぁ」


今日は溜め息ばかりだな。


そっと地面に寝転がる。

柔らかい草が僕を包み、温かな太陽が僕を照らす


「今日は夜が来なければいいのに」


───そんな願いも空しく 夜は来る。

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