2話 旅立ち

――コンコン


「ユーフェリア様 お迎えに上がりました」


現在時刻は朝のぴったり八時

王宮からのお迎えが来たようだ。

やはり王様からの依頼は夢じゃなかったのか。


扉を開けると身に鎧をまとった2人の男がいた。

あと、僕の旅立ちを祝いに来た沢山の村人達

恥ずかしいから変な段幕や旗を振り回さないでほしい


「お早いお勤めご苦労様です!」

「これから馬車にて城下町までお送りします!その後、陛下に出発のご挨拶をお願い致します!」

「あ、ありがとうございます」


年も身分も上の人に敬語を話されると言うのはどうにも慣れない感覚で緊張してしまう。

危うく言い慣れた「ありがとう」まで噛みかけた


「旅支度については、先日もお伝えした通りこちらでご用意出来ております」

「あ、はい。ありがとうございます」


どのようなものが用意されているか楽しみだ

こんな田舎の村人を象徴するような「無地の布の服」で冒険に出るなんて少し嫌だから、勇者のようなカッコいい服があればいいなと思っている。


しかし沢山読んだ冒険小説でも主人公の勇者の旅立ちの服については、どの本もあまり詳しく書いていなかったので正直カッコいい服についての理想像はないのだけれど


「早速出発でもよろしいでしょうか」

「あ、えっと...」


後ろを振り返ると母はそっとうなずいた。

それに笑みを返して、また前に視線を戻す


「はい、大丈夫です!」


今の僕はどんな顔をしているだろうか。

嬉しい顔だろうか?緊張してる顔だろうか?それとも怯えた顔だろうか?


一歩家の外に出ると、今日はすっかり快晴で雲ひとつない晴れ渡った青空だった。


「冒険日和ね」


母が言ったその言葉に呼応するかのように空を舞う鳥が鳴いた。

ぞろぞろと付いてくる村人達も口々になにか言っている。


まるで冒険小説の主人公になった気持ちだった。


「ユーフェリア様、こちらです!」

「は、はいっ!今いきます!」


のんびり歩いていたところで、前方から声をかけられ慌てて走り出す。


「まって!ユーフェリア!」


今度は背中から声をかけられ慌てて止まる。


「なに!母さん!」


振り返るとほぼ同時に母に抱き締められた。


「いってきますくらい言いなさいな」


その声はとても優しかった。

自分より背の高い母をそっと抱き締め返す。

帰ってくる頃にはきっと僕の方が大きくなっているだろうね。


僕は成長期だからね


「いってきます、母さん」

「はい。いってらっしゃい。」


もう一度強く抱き締められる。

僕もそれに、答えるように腕に力をいれる。


16歳の息子を外に出す時の母の気持ちは僕には分からない。

でもきっと寂しくて心配だろう。

僕だってそうだ。母と離れるのは不安だ。


そっと離された母の手を握り、もう一度、

今度は目を見て言う。


「いってきます。」


母は、今度はなにも言わなかった。

ただ笑って。いつものように微笑んでくれた。


皆に涙を見せるのは恥ずかしいので手を離し、母に背を向け走り出す。


「お願いします!」

「はい、ではお乗りください。」


兵士に促され馬車に乗り込む。

馬車に乗るのなんてはじめてだった。


――――ヒヒーン

馬が鳴き、馬車がゆっくりと動き出す。

窓から顔を出す。


後方で母達が手を振っている。

それより大きく手を振り返す。


「いってくるよ!みんな!」


母はなにか言っていたが、周りの村人や馬の足音のせいでなにも聞こえなかった。

多分「元気で帰ってくるんだよ」とかそういうことを言っていたのだろう。



やがて皆の姿は小さく

――――そして見えなくなった。


あぁ、とうとう僕は旅立つのか。

たった、ひとりで。


不安と期待を詰め込んで1度大きくため息をつく


「ひとり、か」


王宮までの道のりは、まだ長い。

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