一章 旅立ちの空

1話 前夜

姫様が魔物に捕まり拐われた。

そのニュースが僕の村まで届くや否や、僕は王宮に呼び出され、あれよあれよと言うままに王様直々に姫の奪還を依頼された。


僕は、ただの村人だ。

何故僕がこの国のトップの人にいきなり呼び出されたのかも全く分からない。


思い当たる事と言えば、僕が通っている城下町の学校で「成績が良い事」くらいだ。

本当にそんなことで王宮に呼ばれたのなら、毎日2時間もかけて歩いて学校に通った甲斐があるってもんだ


「貴方、口元が緩んでるわよ」


突然話しかけられて危うく皿を落としかける


「か、母さんだって!」

「自分の息子が王様のお目にかかったなんて、これ以上ないくらいに栄誉な事よ。仕方ないでしょ」


そう言って小さく笑った母は食器を洗い続けている。洗剤のいい匂いだ。


「...なんで僕だったんだろうね」

「学校の先生の推薦、とかじゃないかしら」


やっぱり成績が良かったからなのだろうか。

学校では、剣の授業や魔法の授業があるがどれも楽しい授業なので僕的には全然対したことじゃないのだけれど


「明日、王宮から迎えが来るって」

「まぁ、明日?早いのね。」

「姫様に何かあったら大変だからね」

「そうね」


母は洗いおわった食器の泡を流し始める。

僕はそれを拭く。

二人で家事の分担をするのが我が家の決まりだ

でもこれは今日で暫くはお預けだ。


明日僕は旅に出る。

それは事実なのにとても唐突で、まだふわふわとした感じである。

今まで読んだ沢山の冒険小説の旅人達も、旅立つ日の前夜はこんな気持ちだったのだろうか

恐らく違うだろう。


だって彼らは皆「勇者の血」をひいていた。

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