第2話 _友達_

 そして俺は今年から中学生になった。

その年、母は働きすぎによる過労とストレスで精神的な疾患を患い俺が小学校の卒業式の日に職場で倒れ、今現在も入院中だ。ついに家に居るのは、俺一人だけになってしまった。かつては幸せと笑顔で満ち溢れ、周りの人に羨ましがられていたのに、今では笑顔どころか感情自体が薄くなり悲しみも怒りですら感じなくなってきている、そして周りの人には、指をさされ蔑まれ、殺人犯や疫病神とも言われている。

 これからの中学校生活をどうするか考えなくてはいけないのだが、母が今まで働いてくれていたおかげで、貯金はそれなりにあるようなので、今のうちはなんとかなるだろう。だが問題は、中学校を卒業してからどうするかなのだ。進学か、就職を考えなくてはいけない、まあそこは、中学校の3年間で考えれば良いか。

 今日が入学式で中学一年生になったが、誰一人として話しかけてくるものは居なかった。まぁ、俺にはあまり関係のない事だが、家に帰り無駄に時間を過ごしそろそろ寝るかと少しの期待と不安の中で、1日が終わった。

 朝、目覚ましの音で目が覚めた。

4月の朝はまだ少し肌寒い、布団から出たくなくて数分間布団の中で団子になって居たが、そろそろ起きなければ、朝食を食べ損ねるのでのそのそと起き上がる。そして、布団のそばに置いてある新しい制服へと腕を伸ばす、まだ固い少しヒンヤリとする制服にゆっくりと腕を通していく。着替え終わると、制服の少しの重みと緊張感があり、それが高揚感へと変わり学校へ行くのが少し楽しみになる。

 朝食の準備をするために、リビングへと移動しトースターにトーストを入れ、小さなポットに水を入れ、カップの中に、インスタントコーヒーと少量の砂糖を入れ、焼けたトーストを取り出し、ナイフでバターを塗っていく。その頃にお湯が沸き、カップへと注ぐ、注ぐとともにコーヒーの香りと湯気が立ち上り鼻腔を刺激し、空腹を感じさせるこれが俺の朝の日課である。

 食べ終われば、食器を洗い、荷物を持って家を出る。俺の通う中学校は、家から徒歩15分の所にある。

 学校に着くと、朝練を始める準備をしている2・3年生の人がちらほらいるくらいで、同級生はまだ誰も来ていないようだ。一人教室に向かうために、階段を上っていると、二階から2年生の先輩が降りてきた運動部か、なんて考えていたが、その先輩は急いでいたのか、階段の真ん中位で足を滑らせた、落ちると覚悟したのかその2年生の先輩は、体を強張らせ目を固くつむっていたが、俺の身体がとっさに動き、その俺より少し大きな先輩を、受け止めたのだが、もちろんその重さに耐えきれる訳もなく少しの浮遊感に思わず目を固く閉じ、階段の踊り場にしりもちをついた。俺の口から「イテッ!」と声が漏れ、次に目を開けると、先輩の焦った顔が見えた。

 そして俺が「大丈夫ですか」と聞く前に、「大丈夫か!!?」と声を掛けられ、「大丈夫です」と答える前に「保健室行くか!?」と声を掛けられた。とりあえず俺は立ち上がり、先輩に問いかけた。

「いえ、大丈夫です。先輩こそ大丈夫ですか?」

「俺は、君に助けてもらったから大丈夫だが…」

「それでは、俺の事は気にせず、部活の朝練の方に行ってください。ほんとに俺は大丈夫なんで。」

 そう言い、スタスタと階段を上っていった。下から先輩の声が聞こえたが、先輩には悪いが、知らないふりをして教室に向かった。

 そして自分の席に着き「ふう…」と息を零した。久しぶりに誰かと話した、最近は誰とも話していなかったから、少し嬉しいと思った。

 しばらくすると、階段の方から数人の人の話し声が聞こえ「俺ら一番乗りじゃね?」というこえとともに教室の後ろの扉が開いた。

 だが、俺の姿が見えたとたんに顔を歪ませ、隣のクラスの人に会いに行くのか、何も言わず教室から出ていった。

そして、俺は静かに顔を机に突っ伏し眠りについた。

 周りの騒がしい声で目が覚め、しばらくは、その話声に耳を傾けていたが、顔を上げ、姿勢を正すとクラスが一瞬にして静まり返ったと思えば、今度は小さな声でこそこそと話す声が聞こえ始めたが、すぐに元に戻り、普段どうりの会話をし始めたが、何処かぎこちない様に感じるのは、気の所為ではないだろう。本当面倒くさい奴らだと思った時に、チャイムが鳴り、前の扉から、担任の先生が入ってきた。

「おはよう!今日は、昨日居なかった、転校生を紹介する。それじゃ入って!」

と、扉に向かって言うと、前の扉が開き一人の女の子が入ってきた。かわいいのかよくわからないが、クラスの男子が少しざわついた、その時俺は一時間目にある理科の教科書とノートを取り出し、準備をしていた。

「えっと…今日からよろしくお願いします!」

 もう自己紹介は終わっていたらしい。名前を聞きそびれたが、周りの席の女子と話しているから、あの子も俺に話しかけてはこないだろう。もともと興味は無かったので、一時間目の授業に集中する事にした。

 正直言って面倒くさい。勉強なんて将来使う事の方が少ないだろ、なんて、考えながら授業を受けていた。そうして、一時間目は終わった。

 お昼、うちの学校は、給食なので、給食当番というものがある。面倒くさいと思いながらも、準備を進めていく。俺の出席番号は、早い方なので今週一杯は、やらなければいけない。

 俺の当番は…牛乳当番だった。しかも、給食棟からここまでは、一番遠い教室なので、余計に面倒くさいが、誰かがやらねばいけないことなので、いやいやながらも遂行した。

 給食を食べ終わり、昼休憩になったが何もすることが無い。周りの奴らは、外で遊んでいたり、クラスの奴らで話したりしているが、俺にそういう存在は居ないので、静かに立ち上がり、図書室へ行ってみる事にした。

 図書室の場所は、旧校舎の三階にあり、少し遠いが、暇よりかはいいだろう。

 …人が多い…図書室ってこんなに騒がしかっただろうか…。戻ろう…。そうして教室へ戻ってきた、昼休憩は、後十分程ある。 

 考えた末、小さいころに買った小説を読むことにした。色々あってボロボロだが、結局捨てられないまま、今もずっと、大切に持っている。所々セロハンテープで補強して、読みずらいところもあるが、読めないことはないので、今も読み続けている。すると、転校生が、その小説を見て、こちらに近づいてきた。

「君もその小説持ってるんだね!!私もその小説家にあるんだ!」

「へ、へぇ…」

 俺は、びっくりして、引き気味に答えた。すると、さっきまで、その転校生と話しをしていた女子が、顔を真っ青にして、焦ってその子の腕を引っ張って、教室から出た行った。

しばらくすると、その転校生と話していた子たちが帰ってきて、深刻そうな顔で、俺の前に来て、頭を下げた。「ごめんなさい…。」「どうか命だけはぁ…」なんて声が聞こえてきた、俺はつい面白くて、声をあげて笑った。その声にその子たちは、ビクリと肩を震わせた。

「どうして謝るのさ、命なんて要らないよ…!フフフ…!君たち噂を信じすぎなんじゃないか?アハハ!」

 そして、その子たちは、顔を真っ赤にして、自分の席へと戻っていった。

 なんて面白いのだろう、あんな噂を信じているなんて、未だに顔がにやけているのが自分でもわかる。その光景を見ていたクラスメイトはなんだか複雑そうな顔をしていた。それはまるで、噂をみんな信じているような感じだった。それさえも面白くて、笑いをこらえるので必死だった。

 そうして、チャイムが鳴り午後の授業は、体育館に移動してクラブ活動の説明だった。いろんな部活があるが、イマイチピンとくるものはない。強制ではないので、入らない。

 陸上部の説明の時に、朝助けた先輩の姿があったので、陸上部だったんだなぁ、なんて考えていた。そうするといつの間にやら、部活の説明が終わり、全校集会も終わっていて、教室に移動する時間になっていた。

 そして教室に戻り、終礼をし、下校する事になった、それと、今日から二週間は体験入部の週らしい、行かないけど。それじゃあ、帰るか、よっこらしょと椅子から立ち上がり、荷物を持って教室から出ようとした時に、あの転校生が、大きな声で、「またね!!」と叫び、手を振っていたが、それを無視して、教室から出た。

 あまり初対面の人間に、馴れ馴れしくされるのは、好きじゃない。俺は、あの転校生の事が苦手だ。あまり話しかけられたくはない。そう考えながら家へ帰った。

 家についてただいまを言う、誰も居ないので返事が返ってくることはない。母が倒れて、数週間がたったが、まだ、目を覚ましていない、もう目が覚めてもいいころなんじゃないのか、なんて、思ってはいるがきっと俺が居るから、なんて、自分の事を悪く思ってしまう。いっその事死んでしまいたいとも思うようになってしまった。

 明日は一度、顔出しに行こうかなんて考え、家事をする。其れも終わり、今は夜の9:03そろそろ風呂に入るか。

「うはぁぁ…。」

風呂の湯船につかると、一日の疲れが吹っ飛ぶ気がする、そういえば誰かが、風呂は人生の洗濯だ、なんて言っていたことを思い出す。

 そうして風呂を出て、寝る準備をする。電気を消して、布団にくるまり瞼を閉じる、するとすぐに眠気が襲い、深い眠りに落ちた。

 翌朝、いつものように起き、支度をして家を出る。

学校に着くと校門の前に、昨日助けた先輩の姿がそこにはあった。

「おはよう!!」

そう声を掛けられたのは、久しぶりで、「おはようございます。」と、少し小さくなってはしまったが、挨拶を返した。

「昨日はほんとに助かったよ!ありがと!あ、部活どこに入るか決めたか?」

と聞かれたので、「いいえ…それに、どこにも入るつもりもありませんから。」と答えると、先輩は、困ったような顔をして、「そうか…」と答えた。

「用は、もうありませんよね。それではしつれいします。」

 先輩は、そのあと何も言わず、去っていく俺の背中を見つめていた。

 そして俺は一人教室に入り自分の席に座って小説を読み始めて、数分後位に教室の前の扉が開き、ふと視線を上げると転校生が入ってきた。

「あれ?冬貴君一人だけ?」

 ……なんでこんな早い時間に、俺の苦手な奴が来るんだ…!?しかもなんで俺の名前を…!!なんて考えながら、動揺していることを悟られないようにその言葉を無視して、小説へと目線を戻した。

「おーい、無視ですかー?」

 その問いも俺は無視する。

「……。」

 ようやく黙ったか。早くどこかへ行ってくれと思っていると、小説が、俺の手元から消えた、驚いて顔を上げると、そいつが、俺の小説を持っていた。

「ようやく、こっちをみてくれたね!」

 いや、そんな事より小説返せよ。なんて思っても相手には伝わらない。「はぁ…」とため息を吐いた。まったくこれだから女子は…なんて偏見を持ちながらも、それを言わない俺は易しい奴だろ。まぁ、実際のところ、女子が何を考えているかなんてわかりたくもないがな。

「小説を返してくれ」

と言うが、相手は、話してくれたことが嬉しかったのか、その場で飛び跳ねているのだが、俺は、少し焦り始めていた。小学生の頃の脳裏に焼き付いて離れないあの日の事を思い出し、冷や汗が止まらない。その状況に相手も違和感を感じたらしく、心配そうな顔を覗かせる、さっきから「ね、ねぇ、大丈夫?…気分でも悪いの?」なんて話しかけてきているが、俺の耳には全く届いていない。

 そして、転校生の手にはまだ小説を持っており、それが見えたとたんに、転校生へと掴みかかった、その時の俺は、相手が、あの時の彼らと被って見え、本気で、首を絞めに掛かっていた。転校生が抵抗して、周りの机が倒れても変わらず、首に手を置き、無表情で徐々に力を込めていく。

 そんな時クラスの子が、登校し三階の教室にたどり着き中からからすごい音がしたので、急いで教室に駆け付けると、転校生の首を絞めつける冬貴と、クラスの子たちに助けを求める転校生が居て数人が急いで職員室に先生を呼びに行った、残りはその首を絞める冬貴を止めに入った。

 冬貴は、周りの子たちに羽交い絞めにされ、ようやく自分のしている事の重大さに気づいた。あぁ、やってしまった…。転校生は、噎せ返り乍ら、クラスの子たちと保健室へとむかった。その時の転校生の手にはもう、小説は無かった。

 小説は、知らぬ間に机の上へと置かれていた。

 その日、先生に説教をされ、今日は帰るようにと言われたが、真っすぐには帰らず母の入院している近所の市民病院へと向かった。

 母が入院して居る病室に着くと、母が眠っていた。眠っている母の顔は、前よりも痩せているように見えた。それでも、本当に俺の母なのかと疑うような、美しい顔のままだった。

「”母さん”、俺ね、今日転校生を殺しかけたんだ、ホントに申し訳ないって思ってる…あの小学三年生の時のこと覚えてる?同級生の子に怪我させちゃったの。あれね、僕の大切な宝物を壊されちゃったからなんだよ……。」

 唇をかみしめ、涙をこらえながら今日あった事を話した。

「ごめんね、俺のせいで母さんを不幸にした。生きててごめん。生まれてきて…ごめんなさい…。こんな姿になるまで頑張ってくれてありがとう。」

 ポツリポツリとこらえていた涙が溢れ出す。そして、それはだんだん激しくなり、嗚咽を漏らし始めた。母の手を握りしめ、涙を流した。まだまだ俺も子供だなぁ…なんて。

 知らない間に寝ていたらしく、起きれば、頭に違和感があり顔を上げると、母が優しい笑顔で俺の頭を撫でていた。

 俺は驚いて、開いた口がふさがらなかった。

「母さん…?」

「どうしたの?」と母は優しい声で、問いかけた。小さい頃に聞いた、あの優しい声が聴こえ、固まった心が、解けていくような、体中に浸透していくような感覚を感じた。そして、止まっていた涙が、また溢れ出し、母は、何とも言えないような顔をしていた。その後、担当の先生が、今日はまだ帰れないが、明日には退院できそうだ。と言っていた。

 なので、俺は母の退院するための支度を手伝って帰ることにした。

「じゃあね母さん!また明日の朝むかえにくるから!」

と手を振ると、母も振返してくれた。それが嬉しくて、顔がにやけていたが、気にせず帰って、家事をこなし、明日の事を考えながら、眠りについた。

そして翌日朝起きてから俺は走って、母を迎えに行った。病室に着くと、母が病院の先生と看護師さんとで何やら話をしていたので、急いでいで見えないところに移動した。すると、聞こえてきたのは

「もうあまり長くはないでしょう。」

「えぇ、でもいいんです、息子には、今まで寂しい思いをさせてしまったので、これからは、息子と大切な時間を過ごしたいと思います。」

………なんで……?

母は死んでしまうのだと分かるとその場に居るのがつらくなり、走って病院を出た。

 その音に気付いた、母たちは、顔を青くして母に至っては、泣いていたらしい。

 そして俺は走り疲れて近所の公園へと来ていた。もうすぐ正午になる。お腹がすいてきたが、きっと今また母の顔を見れば、泣いてしまう。まだ帰りたくはないが、母との残された時間は少ないだろう。こんなところで見栄を張っている場合では無いのは分かっているのだが、どうしても、体が動いてはくれない___。 


 そうこうしている内に、日が暮れ始めている。この公園は、何故かあまり、子供はこない。今はそれが救いだ。

 俺は、腹を括り立ち上がった。「帰ろう…」そう呟き、家へと足を向けた。

 家の前に着くと、いつもは点いていない電気が点いていて、母が家に居ることが分かる。意を決して扉を開ける、いつもより少し重く感じる玄関の扉、そして、「ただいま。」と小さな声で言ったはずなのに、キッチンに居た母がこちらへと顔を出し、「お帰り」と笑顔で言った。

 あぁ…久しぶりに母が返ってきた。あの優しい母がとてもうれ嬉しくて、幸せが冷たかった心に染みわたっていく。

 そして、ご飯ができたらしく母が呼んでいるのでリビングに行くと、母が作った肉じゃがと白菜の味噌汁に炊きたての温かい白ご飯が並んでいた。急いで席に座り、いただきますと言い、母と共に食べ始めた。

 母の手料理は、何年ぶりだろうか、誰かと食べるご飯はこんなにも暖かくて、美味しいものなのかと、幸せを噛み締め乍ら、母の手料理を平らげた。

「ごちそうさまでした。…あ、母さんは座っててよ!俺が片付けるから。」

そういって、二人分の食器を持って行き洗っていく。

そして、お風呂も入り、各自の部屋に戻って、俺は母の居るこの生活がずっと続いてほしいと願った。でも何時かこの生活が終わってしまうという事が分かっているから、涙が止まらない。そして、知らない間に寝ていた。

 しばらく学校を休むことにしよう。母は許してくれるだろう。どうせ義務教育なので、進級はできるから。これからは、母との時間を大切にしたいと考えていたのだが、母は朝俺の部屋に来て真剣な顔でこう言った。

「学校に行きなさい…。暴力を振るった女の子に謝ってきなさい!そして、ちゃんと、学校で学ぶべきことを、学んできなさい!」

 どうして母がその事を知っているのか、それは、学校から連絡があったそうだ。あぁ、そうか、まだあの転校生にちゃんと謝ってなかったな。俺は、母に言われたその言葉に。

「分かった、ごめんね母さん。」

 そう言うと、俺は学校に行く用意を始めた。そして今回は、母さんも一緒に行くそうだ。俺が迷惑をかけた。母にもあの子にも。申し訳ない。

 俺と母さんは、支度し終わって、二人で、学校への通学路を一緒に歩き出した。

 そして、校門では、先生が数人待っていた。そこから、校長室へと連れていかれ、連れていかれた先の校長室には、あの転校生と、その子の母親と思われる美人な人もいた。そして、先生方が何かを転校生とその母親に説明した後に、先生方が母の方を向き頷いた時に、隣に居た母が、頭を下げて謝っていた。


 あぁ、この光景は前にも見た…


そして俺も母に遅れながらも「ごめんなさい。」と頭を下げた。でも、転校生の母親は、納得していないような顔をして、俺に声を掛けた。

「貴方が、この子の首をしめたのは聞きました。許されるようなことじゃない重大なことというのはわかってますよね?」

 俺は何も言えなかった。その通りだと思ったからだ。もしあの時クラスの人が止めていなかったらと考えただけで恐ろしくなる。すると、それを聞いた母が、

「本当に申し訳ございません。この子は、ものすごく反省しています、どうか、許しては頂けないでしょうか。どうかこの子だけは…。」

 そこには、涙を流しながら、土下座をする母の姿があった。それを見て俺は、母の両肩を持って上体を持ち上げ、「ごめん。」と母さんに聞こえるくらいの声で呟いて微笑んだ、すると母は驚いた顔をしていた。


 すべて俺が悪いんだ。


 俺はその場で立ち上がって、周りの人の顔を見渡して、最後に転校生の顔を見て、その子に一歩近づくと、周りの人の身体が強張ったのが見て分かった。面白い光景だなと、クスリと笑みをこぼして、転校生に問いかけた。

「君は、さっきから何も言わないけど…君は、俺にどうしてほしいの?出来ることならなんでもするけど…」

「わ、私は…」

するとその子は、大きくも小さくもない声でこう言った。

「じゃぁ、私と友達になって。」

 俺にとっては、予想外で嫌な回答だったが、何でもするという事なので承諾し、渋々ながら転校生の母親も「あなたがそれでいいのなら…」と承諾していた。

 その後は、取り敢えず帰るように言われ、家に帰ったが母は気を取り直して、ご飯にでも行こうかと提案した。が、俺は俺が作るから部屋で待っててほしいというと、少ししょぼんとしてトボトボと自分の部屋へと入っていった。1人になったキッチンで料理をしながら、なぜあの子は俺に友達になってくれと言ったのだろうか、誰だって、自分を殺そうとした人間には近づきたくはないだろう。それでも、俺と友達になってメリットは一つもないはずだが…なんて考えていれば、飯が出来上がったので、母を呼んで一緒に飯を食った。あまりにもずっと考え事をしていたので、昼からの記憶はあまりない。気が付けば布団の中で、寝る時間になっていた。まぁ、明日学校に行って聞いてみるか。そう思い瞳を閉じた。

 朝目を覚まし、いつもの時間に家を出る、いつもと違うのは、母が居る事。少し学校に行く足取りが軽くなった気がした。

 学校に付き、自分の教室へ向かう。後ろの扉を開けると、俺の席に誰かが座って寝ているのが見え、近づいていくとあの転校生だという事に気が付き、隣の席に座って、しばらく見ていたが、一向に起きる気配はない。ふと、彼女の首に目をやると、あの日首を絞めた指の跡が、うっすらとだが残っていた。それを見て、改めてあの日してしまったことの重大さを感じた。

 顔を見ると、柔らかそうな頬があったので、思わずぷにぷにしてみるツンツンとつつくごとに跳ね返してくる弾力が堪らなくクセになるものがあった。


 楽しい…!


 しばらくそれを続けていると、彼女が目を覚ました。頬に違和感があったのか、こちらを見上げる、すると、バッチリと俺と目が合う、そして彼女は、俺と目が合った瞬間に、顔を真っ赤に染めた。何事。

「わ、わ、わ、!!!ごっごめんね!!冬貴君の席で寝ちゃって!!」

「全然平気だけど……その…あの時は本当に悪いことしたな。怖い思いさせて、そんな痣残っちまって。」

俯きがちに言ってしまったが、気持ちは伝わっているだろうかと、少し顔を上げてみると、彼女は、瞳から大粒の涙を流していた、俺は、ハッとした。

「ごめん!俺が悪かった!ほんとに!怖かったよな!!もう君に話しかけないし関わらないようにするから!だから!だから…泣かないでよ…」

 そう言ったが、彼女は、違うとでもいうように首を横に振った。もう俺には訳が分からなくなって、アタフタしていたのだが、彼女が泣き止んでこう言った。

「友達になったら許してあげるって昨日言ったじゃん!」

と笑顔で言った。もう、女子は分からん。とここで、俺の中に昨日からある疑問を聞いてみる。

「どうして友達なんだ?確かに罰にはなるが、お前にメリットはないだろう?」

何気に酷いことを言った気がするが…彼女は、笑い出した。

「アハハハ!!君は、友達を作るのに理由なんて要るの?フフフ…」

「…。」

 俺は、心底不愉快な気分で、顔を歪ませた。まったくなんなんだこの不愉快な人間は!!と心の中で叫ぶが、彼女には伝わっていないらしい。「はぁ…」疲れた。こいつの相手をするのは疲れる。すると「君今失礼なこと考えただろー!」と声が聞こえたが、黙ってそいつを俺の席から追い払い自分の席へとついて、顔を突っ伏した、そしてそのまま眠りに落ちた。

一度給食の時には起きたが、昼休憩からずっと寝ていたようで起きたら全授業が終わっていて、もう日が暮れかけている。周りを見渡すが、あいつは居ないみたいだ。「ふぅ…。帰るか。」と、立ち上がると、どこからか紙が落ちた。その紙には、あいつが部活が終わったら行くから教室で待っていてほしいというものだった。まぁ、聞く道理もないので、紙をクシャッと丸めゴミ箱へ放り投げた___。

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