家族って。

尾道 洋

第1話 _家族_


 とある冬のこと、小さな町の小さな家に住んでいる貧しい夫婦の間に小さな命が誕生しました。

 夫婦は、その小さな命に、冬に生まれ、不自由なく育つようにという意味で”冬貴”と名づけ、大切に大切に、育てました。

 そして、その小さな命、冬貴が成長していくことを嬉しく思いながら、朝から晩まで自分の子供の為にと働いていたそんなある日の事です。そんな、幸せな日々を過ごしていたある日、冬貴が4歳になった年の事でした…。

 不慮の事故だったのです。

冬貴の父親である史彦(32)が、働いていた工場で爆発事故が起きたのです。

史彦は最後まで周りの人の避難の呼びかけを行っていて、避難が遅れ、上からのがれきの下敷きとなり、亡くなった。

それを聞いた母親の儷子(26)は、あまりの悲しみに玄関で泣き崩れていた。

 その日から、母は変わってしまった。まるで父の事を考えないようになのか、より仕事に精を出すようになり、あまり家に帰ってこなくなった。

 そして僕は、小学生になった。

僕の入学式に母は来なかった、それを周りの子に笑われた、まるで僕は邪魔者の汚いものを見るような目で見られた。

 その日、学校から帰ると家には仕事終わりの母が居て嬉しくなって、何時もより大きな声で「ただいま」を言った。

 すると、母が鬼の形相でこちらを振り返った、僕は蛇に睨まれた蛙のように母の数歩手前で固まった。

そして母は、僕の目を見てこう言った。

「あなたはどうして私の気の立つ事ばかりするの、今日も仕事で疲れているのだから、静かにするのが当たり前でしょう!?いい加減にして頂戴…!」

 僕は、初めて母が声を荒らげるところを見た。視界がにじみ、僕はこれ以上母の怒る姿を見ていたくなくて、自分の部屋へと飛び込んだ。そして、できるだけ声を出さないように、零れる涙を布団に押さえつけた。

知らないうちに眠っていたらしく、夕方ごろから泣いていたのに、気づけば辺りは真っ暗になり少し白み始めていた。

 目が痛い、洗面所の鏡を見てみると昨日布団にこすりつけて泣いていたからか、目の周りが赤くはれていた。

時刻は大体の何時頃なのだろうか。隣の部屋から寝息が聞こえる、母はまだ寝ている様だ。

 今のうちに静かにお風呂に入ってしまおうそう考えてからの行動は早かった。

お風呂と言っても暖かいお湯などある訳もなく、浴槽に貯めている水で冷たくても我慢をして体を洗った。

出来るだけ早く事を済まし薄暗い部屋へと戻り今日の学校へ行く準備を始めた。

朝日が登り始めそろそろ母さんが起きる時間帯のはずだと窓の外から差し込む光でそう感じた。

僕は冷たい布団へと潜り込み大切な宝物を枕元へ置いて布団を抱きしめ瞳を閉じた。

瞳を閉じてしばらくすると隣の部屋からゴソゴソと音がしリビングの方へと足音が向かっていった。

しばらくすると僕の部屋の戸が少し開かれた音がして母さんが僕の部屋の戸を開けたのだと理解した…でも僕はだんだんとくる眠気に負けてだんだんと意識が遠のいて行く途中とても優しい母さんの声で「ごめんね…」と声がした。

その声に僕はどういうことだろう…と思いながらもそのまま眠ってしまった。

それから起きたのはすっかり朝日は上り学校へと行くには少し早いくらいの時間だったが、僕は起き上がって枕元に置いてあった宝物をランドセルへ入れ顔を洗い学校へ行くためしっかりと準備したランドセルを背負い玄関の戸を開けた。

  そうして学校に着き下駄箱へ向かう。

そして、まだ誰も来ていない教室に入り黒板に張り付けられた座席表を見て窓際の一番前の自分の席へとたどり着く。

 今日から初めての授業が始まる、そんな事にドキドキしている、が、しかしながら基本的なメンバーは変わらない。保育園、小学校、中学校と、エスカレーター式なので基本は同じなのである。まぁ、それでも楽しみなことに変わりがないのだ。

ランドセルの中から荷物をだし机の中へとしまった。

宝物の小説だけを机の上へとだし読み始める。

 小さいころに父が、大きくなれば読むだろうと買ってくれた、唯一の宝物だ少し難しい漢字もあるが、周りの先生や丁寧に教えてくれるので何とか読めている。

気が付くとすでに周りの席には人がいて、授業の始まる数分前のようだ。そろそろ起きようと上半身を起こしたちょうど位に、チャイムが鳴り、前の教室の扉から担任の先生が入ってきた。

「おはようございます!今日からきみたちの担任になる………___________」

 1時間目は、自己紹介や質問で終わった。

そうしている内に、学校の終わりの時間が近づいていた。

 キーンコーンカーンコーン……

「それでは今日はここまでです、皆さん気を付けて帰るように!それじゃあ皆さん起立してください」


「それでは皆さん<さようなら>!」


 そうして授業は終わり先生は教室から出ていった。僕も帰ろうと立ち上がったのと同時に、周りをクラスの子たちに囲まれた。何事かと、囲んできている子たちを見つめ、「どうしたの?」と問いかけると、リーダー格の子に強く肩を押され、その場にしりもちをついた。いつの間にか僕の後ろにあった椅子は名前も知らないクラスメイトに避けられていた。

僕は「痛っ!」と言うと…

「お前んち貧乏なんだろ!!おれのかぁちゃんが言ってたぜ!!お前の家には何も無いし汚ねぇってな!!」

そんな事を言われたのは初めてで、どうしていいのかわからなくて、彼らはそんな僕の態度が気にくわなかったようで、僕のランドセルを奪って走って行ってしまった。



    どうしよう…



 今の時刻は、2:13。とりあえずランドセルを探しに行こうと立ち上がった、あの中には僕の宝物の小説が入っているのになぁ。

 しかし、あの子たちが向かう場所など知るはずも無く、途方に暮れる。まぁ、大体子供は公園に居るのではないかと推測し、そちらへと足を向けた。

 しばらく歩くと、家の近くの公園が見えてきた。

すると予想どうり、クラスでいた彼らがそこには居た。僕は彼に近づこうとすれば、彼らは。

「うっわぁ!汚ねぇ奴が来たぞ」と騒ぎ立てたそんな彼らに「早く返してよ!」と思わず声を張り上げた。

 そうすると、彼らは驚いた顔をして、「そんなこと言うなら取ってみろよ!!!」なんて言って僕のランドセルを仲間同士で周し始めた。でもそれをなんとか取り返し興味をなくした彼らは「明日も遊んでやるからな!」なんて言いながら仲間で笑って帰って行った。僕は自分のランドセルの中身を急いで確認し、真っ直ぐ家に帰った。そして、すぐさま自分の部屋へともぐりこんだ。まだ日は沈んでいないこの時間帯でも、東側にあるこの部屋に日差しは無い。よって、少し薄暗い。これでは小説は読めない。何かすることはないかと、探すが、母に出すプリントくらいしか見当たらない、母が帰ってくるのは、夜遅くなので仕方なく、リビングにそのプリントを出しに行った。

結局やる事は無く、ぼーっとする時間が続き、知らぬ間に母が帰ってくる1時間前になっていたので、すぐさま風呂に入り、部屋へと戻った。

「今日は散々な目にあったなぁ。明日もまたされるのかなぁ…やだなぁ…」

 そっと目を閉じるとすぐに真っ黒な世界へと意識が落ちていった。



 翌朝7時頃に目を覚ますと、母はもういなかった。朝ごはんを食べ学校への用意をして、のんびりと家を出た。

 学校では今日から本格的な授業が始まる。その楽しみを胸に学校へ行くと、僕の下駄箱の中の上履きが無くなっていた。そしてその上履きは、下駄箱近くのごみ箱へと捨てられていたが、特に汚されていなかったのでゴミ箱から上履きを取り出し、履いた。

 これだけでどうという事はない、そんな動じない僕を見てクラスの子たちは、面白くないという風に顔を歪ませた。そんなこと僕には関係ない事だから僕は、何食わぬ顔で席へとついた。

 あれから授業を真面目に受け、放課後クラスの子たちに呼び出され、また嫌がらせをされた。

 僕は、そんな日々を繰り返して、2年が過ぎ、小学3年になったある秋の日のことだった。

「またか…。いいかげんこりないなぁ…。」

朝からまた上履きを隠され、探している最中に”それ”は起きた。

「おい、お前さぁ、いい加減俺らに反抗すんのやめれば?」

「反抗なんてしてるつもりは無いよ。君たちこそいい加減こんなくだらないこと止めたら?」

「チッ!!お前ってやっぱむかつく!!今だぞ!お前ら!!」

「!!?」

 突如後ろから押さえられた僕は抵抗する暇もなく、ランドセルを奪い取られ、中身を投げ出された。その投げ出された物の中から、宝物の小説だけを抜き取られ、他の物を踏みつけた。

「お前この本ずっと持ってるよな、大切な物なんだよなぁ。これを”こうしたら”流石のお前も俺に降参するんじゃねぇかぁ?」

と言い、手に持っていた小説を数ページめくり、”破った”。それは、父からの最初で最後になってしまった、あのプレゼントの……。僕はそれをただ唖然と見つめる事しかできなかった。

 その瞬間僕の中で黒く醜い感情が渦巻いた。”憎い”そこから僕の記憶はとても曖昧で、なぜか知らない間に周りにいた彼らは血を流して倒れていて自分の手には血のついたカッターが握られていた_________ぼくは僕をいじめていたクラスの数人の男の子たちをカッターで切りつけて。教室にはたくさんの先生達が集まっていた。そしてその日以来、彼らは僕に手を出さなくなった。

その事件のあった日、学校に母が呼び出された。母は、何があったのかを聞くと、傷つけてしまった子たちの母親に何度も頭を下げて、珍しく僕と手を繋いで帰ってくれた。僕はそれがとても嬉しくて、つながれた手を握りしめた。

 しかし、家に帰ったとたん顔つきが変わり、僕の事を突き飛ばした、まるで、彼らのように、僕を蔑み暴言を吐いた。

 僕にはもう何が何だか分からなくなって、気が付けば朝だった。

母はもう仕事に行ったみたいだ。僕も学校に行くために用意をしている途中に昨日先生が言っていたことを思い出した。

「しばらく落ち着けないだろうから学校を休んでね」と言われ手書きのプリントを渡された。

そのプリントには落ち着くまでは学校を休んでいてください、との事だった。

 どうしたものか、しばらく学校は休みだ。と考えていたのだが、この休みの数日のうちに何回か先生が訪ねてきたりと何かと忙しくてあっという間の一週間だった。そうして、翌日は学校なので早く寝ることにした。時刻は午後22:00。そして僕は直ぐに眠りについた。

 翌朝いつもどうり7時頃に起き、朝の支度を済ませ、いつもどうりに家を出た。

しかし、いつもどうりじゃないことがあった、下駄箱に着くと、ちゃんと上履きがあった。

 もう気にしなくてよいのだと思うと教室に向かう足取りが軽くなった、そして、そのまま、誰もいじめてくることは無く何事もなく小学校を卒業する時期が近付いてきた。

卒業式

 やはり、母は来なかった。周りの子には、親がいるそんな景色を見ていたくなくて、僕は走って家まで帰った。

家に帰っても誰も居ない。そんな日常に慣れていたはずなのに、もうすぐ中学生なのに、中学生ってもう大人じゃないの…?こんなにも寂しく思うのは何故なのだろう…僕の目から止まる事のない涙が次から次へと零れてきた。

      「ごめんなさい。」

誰に言うでもなく僕は呟いた。誰も居ないこの部屋で、僕はただ一人涙をこぼした____________。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る