大学四年の「テル」こと宇多村輝久は、学生時代最後の夏を生まれ故郷である離島で過ごす。
そこで出会った少し大人びたところがある少女・朝霧渚。彼女と夏を過ごしながら、テルは「大切な人を失った四年前の夏」を思い出していく。潮風が吹く島での新しい恋が、山颪が吹く街での儚い恋に重なっていく。
一般文芸ほど重くはなく、ラノベほど軽くはない「ライト文芸」の名作になりつつある作品だと思います。
じっくりと描かれていく日本の夏。青い海に浮かぶ緑の島、夏野菜の艶、ホースからほとばしる水、そこにかかる虹……。一つ一つの情景が鮮やかに目に浮かび、上質な日本映画を観ている気分になります。
過去と現在、それぞれの恋物語のヒロインである真緒と渚は、どちらも魅力的で、思春期やそれを少し過ぎた年頃の男に、彼女や好きな女の子がどう見えているか、とても上手く表現されていると思います。
美しい夏の描写に酔いしれつつ、恋の甘さ、切なさに浸りたい方はぜひどうぞ。