地球とお別れ
すやすやと眠っているのを見て、世奈せなはゆさゆさと手を動かした。
「リュウちゃーん! 朝だよ!」
不規則な振動が脳を覚醒へと導き、リュウは目覚める。とても可愛い美少女が甲斐かいしくリュウを起こしていることに気づく。
「おはよう世奈」
彼女の名は山口世奈やまぐちせなで、毎朝起こしにくる、幼馴染である。今日もいつものように、リュウを起こしにきたのだ。リュウ――天道流てんどうりゅう――は寝ぼけた目をこすりながら朝の挨拶をした。。
「おはよ! 起きてっ、起きて!」
元気な世奈に元気を注入され、眠気が飛んでいき意識が鮮明になっていく。頭が冴えていくにつれて視界も良好となり、世奈がリュウの目に飛び込んできた。
長い黒髪を背中に垂らしていて、それは大和撫子を彷彿とさせた。スレンダーな体に、ぽわんとした乳房。愛嬌もありいつも笑顔の絶えない世奈がベッドの端で、いつのまにか座っていた。
「んー?」
リュウが見とれてしまっていると、世奈は首をかしげた。何気ない仕草すら可愛く見えて、リュウは顔を赤くしながら、
「なんでもないよ……もう朝ごはん食べた?」
「まだ食べてないー。リュウちゃんが起きるの遅いんだもん!」
「じゃ、一緒に食べる?:
すると、世奈は体をこっちに向けると、なにやら言いたげに上目づかいにこちらをじっと見て、リュウの服の袖をぎゅっと軽くつかんだ。丸い目がウルウルと子犬みたいに訴えてくる。
「私、頑張ったもん。リュウちゃん中々起きないから……うぅ」」
リュウは右手を世奈の頭の上に優しく載せて、ゆっくりと撫で始めた。
「………ぷはぁ」
リュウにもたれかかって、世奈は瞳を潤わせた。朝日が紫のカーテンから切れ切れに部屋を照らした。
ずっと撫でたい気持ちをぐっとこらえてリュウは、
「ありがとね」
「うー……すぐ来てね」
部屋からトテトテと出ていく世奈の背中がだんだん小さくなる。パタンとドアが閉まる音を聞いて、 うーんと背伸びをすると、寝ぼけ気味の息を部屋に漏らした。リュウがカーテンを開けると過酷な太陽が今日も元気に働いているので、リュウをげんなりとさせた。
そそくさと着替えて、階段を下りて台所に向かって腰を掛ける。
見れば、台所に世奈の姿はない。リュウが新聞を適当に流し見していると、
「世奈さんなら忘れ物とりに家に戻りましたよ」
と落ち着いた声で、だが透き通った美しい声が一つ耳に入ってきた。世奈とはまた違う、美しい声。
リュウが音のした方をちらっと見ると、女の子がご飯をよそい、てくてくとこちらにやってきているのが分かった。リュウと同じ高校の制服を着ていて、体は世奈と比べると小柄ながらも、それでいてバランスがとれている。
髪型はハーフアップで、すらりとした体つきをしている。彼女の前で胸の話はしてはならない。なぜなら、それはマナー違反だからである。
「はい、冷めないうちにどうぞ」
といってご飯を渡してくる。リュウは全くドキっともしない。なぜならこの少女はリュウの妹―――天道桜美てんどうおうみだからだ。
昔から料理が好きで、毎朝リュウと世奈の分をつくってくれる。彼女の料理は店にでも出せそうなほどに美味しい。料理にご飯を3人分よそって桜美がテーブルに腰を下ろした時、玄関のドアが開かれた。
しばしおいて慌てたように走ってくる世奈。よほど急いできたのか息をきらしてハアハアと手を膝に当てている。
「何かあったの?」
リュウが尋ねると、世奈はケホンと咳払いして、
「うん! リュウちゃんにプレゼント」
とリュウに渡してくる世奈。表情は晴れやかで、純粋そのものだ。が、リュウに渡された参考書は分厚く、とても今日だけでは読めそうではない。
「参考書?」
意図が読めず困惑するリュウに対して、桜美は意図が理解できて答えた。
「たまには、兄さまも勉強しなさいっという事では?」
「リュウちゃん、全然勉強しないんだから!」
きまり悪そうに、リュウは飯をかき込んでいく。それを見て、二人の美少女ははぁっとため息をつくのであった。
「――兄さま」
ふと、桜美が不安そうに小さな声で呼んだ、視線をオウミに向けると、桜美が不安そうにこちらを見上げていた。それは小動物を彷彿とさせるのあった。
「料理はどうでした……?」
「うまかったよ!」
「桜美ちゃんの料理はいつも美味しい!」
リュウと世奈の声を聴いて、嬉しそうに眼を細めた桜美。
「良かったです。喜んでもらえて」
今度は安心したように、穏やかな表情になる。柔和な表情でリュウを見つめている。不意にリュウの中で天使と悪魔が囁きだした。天使は自制を説き、悪魔は欲望に任せろと誘惑してくる。
――相手は妹、義理の妹とはいえダメ、天使が勝ったようで一安心。
世奈が太陽なら桜美は月。お互い対照的ながらそれぞれ違った可愛さや優美さがあり、男として気にせずにはいられません、と理性でこらえるのに必死なリュウであった。
その後は飯をかき込みつつ、テレビの話や、クラスの話、昨日何があったのだのと他愛のない話をする。この時間はリュウの好きな時間であった。居心地の心地よさとでもいえようか、落ち着くのである。
――勉強の話題になったらテレビをつけた。
リモコンを操作しすると、たまたま占い番組になった。途端に目を輝かせる世奈と桜美。手を頬に当てて、わぁっと声を漏らした。黒色の髪がゆらゆらと躍っていく。占いでは世奈と桜美が1位でがリュウが2位であった。
楽しい時間はあっという間に経っていくもので、気づけば学校に行く時間だ。リュウ達が学校に向かう通りは、いつもの事だが人気がない。地元の人しか知らない近道を通るので、しょうがない。
「最近、近所で行方不明者がでてるんだって」
今朝の新聞で見たニュース内容を、リュウはそれとなく二人に伝える。
「えー怖いよ~」
「離れているのは危険です」
世奈には腕を組まれ、桜美には手をつながれてしまった。柔らかい感触が両方からやってきて、どこかしら不思議な香りもする。リュウの心臓もバクバクと鳴りだした。
――何か変だ。
二人の顔がまるで幽霊にでも遭遇したかのように顔がこわばり、先ほどから足が動いていない。リュウは妙だなと思ったが、前を向いたことで合点がいった。
――黒い穴があった。逃げようにも足は動かず、穴の底は見えない。穴は大きくなって、ゆっくりと近づいてくる。やがて底の見えない穴に、3人は吸い込まれていった。残ったのは、リュウが落とした黒色のペンだけだ。以後、リュウ達は行方不明者となるのであった。
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