宇宙の世界
星が瞬く。
無数の黒の中に無数の穴が光っている。
この世界は無数で無限で何もない。
いや、何もないというのは酷いか。少なくとも大きな惑星が浮かび、ゆっくりと動いている。
俺は持っている機関銃の整備をしている。黒の中にある無数の光が瞬くと、それは戦が始まる合図だ。
「おい! 光がくるぞ! 備えろ!」
瞬間、その無数の穴から白い光が刺す。我々が住んでいる惑星に向かって攻撃してきたのだ。
この光、穴には意志がなく、無秩序に、無遠慮に無作為に宇宙に打撃を与えるのだ。
持っている機関銃を光に向けて発射する。黒い光で攻防戦が始まった。
光は眩しい。
宇宙人にとっては致命的な眩しさだ。サングラスをかけていて良かった。
「黒い膜も惑星に張った。暫くは持ち堪えられるぞ!」
無線機から応戦してくれた仲間の声がする。
光の攻撃も弱くなっていく。すぐに攻防戦は収まった。
「今のうちに膜の中へ!」
攻撃隊の部下たちに命令を下して膜の中へと入る。
「さっきの光は……」
惑星の中には大きな空洞があり、その中に大勢の宇宙人が共同生活をしている。だが、その宇宙人の中に1人だけ、地球という惑星から来たという宇宙人がいた。
あまりにもかけ離れている惑星だからか、何から何までわからないといった風だ。
「あの光はなぜか俺たちの惑星に向かって攻撃している。光を浴びたら最後。体が溶け込むように消える」
「……」
絶句したのか、言葉が出ないようだ。
「名前というのはあるのか?」
「あ、ああ。ヒカル。ヒカルだ」
「俺はΑ。アルファと読む」
「ギリシャ文字とは……。うん、面白い」
気持ち悪い目でこちらを舐め回すように見てくる。
「実は、地球から離れてきたのは、僕は宇宙研究者だからだ。暗闇に紛れて光を遮る惑星があるものでね。こちらに向かってきたわけだが……。まさか星々と戦っているとは」
「星々?」
ヒカルは地球から見る宇宙の話をしてくれた。そこには根も葉もない噂程度の馬鹿馬鹿しい話から、研究成果の興味深い話まで長々と聞いていた。
「……と、まあこのくらいかな。それにしても宇宙人の姿が地球人とはそんなにかけ離れていないなんて、これもいい結果だな。地球に帰ったらレポートが忙しくなる」
それにしても暗いな、とヒカルは簡易的なライトを取り出した。光の周りだけ浮いているように映る。
だが、そのライトの光もすぐに消える。
「あ、あれ? 電池がなくなったのかな?」
常備しているのだろう。電池を交換してもう一度点けても、ライトは吸い込まれるように命を失う。
「無駄だ。ここは光を好まない。むしろ敵意さえ向ける。みんな暗闇が落ち着くんだ。地球人は違うんだろうがな。ここに長居するのならそこは覚えておいてくれ」
「まさか、令和の時代に光がない生活を送るとは」
令和というのはわからなかったが、聞かないことにした。
「地球に帰れないみたいだ」
ヒカルが困ったように言う。だが、そこまで深刻に思っていないようだ。むしろ残ることが本望とでも言うように。
「船が壊れてる。惑星に着くときに地面に叩きつけられた。修復も無理だな」
見たことのない工具を用いて、その船とやらと格闘しているが、すぐに諦めて懐に仕舞う。
「……治ったとしても無理だろうな。以前、俺の仲間が宇宙冒険が夢だからと飛び出そうとしたことがある。惑星から離れた後、すぐに地面に叩きつけられて亡くなった」
「重力が強すぎるんだな」
科学者の言葉はわからない。ヒカルは納得したように頷く。
「ここはブラックホールだね。そこに僕は吸い込まれた。光さえも吸い込む惑星。星々の光が刺すように、こちらへ向かってくる。光と闇は惹かれ合う存在。闇が深ければ深いほどそちらへ向かう。どうだろう。試したいことがある」
「よくわからないが、何がしたいんだ?」
「光の向かう先を変える」
援護隊の拠点に赴く。
「ラムダ。いるか?」
「はいよー、なんだい? 会議なんてなかったよね? あ、地球人もようこそ」
軽く会釈する2人。
早速と、ヒカルとラムダが本題に入る。頭を使うのは苦手なので、話は入ってこなかったが、ラムダは感心したようにヒカルを絶賛した。
ヒカルとラムダと一緒に拠点の外へ出る。
ラムダは計算をし始め、ヒカルは準備を。俺はいつ光が来るのか見張っていた。
2人が準備万端になった数分後。暗闇から光が無数に刺さってくる。
「いけ!!」
ラムダが真っ暗な球を投げる。惑星から離れた先で破れると、大きな、見たこともないくらいの暗闇の幕が現れた。
すると、光の筋が我々の惑星ではなく、即席の暗闇の幕へと吸い込まれていく。俺の用意していた機関銃は、構えただけで終わった。
「まさか、この幕が光を誘い出す原因だとはな。今までの防御体制は何だったんだ」
「色々と体制を考えないとね。その機関銃だって、今まで無駄だったかもね」
「なっ……!」
「機関銃で光が弱まったんじゃない。光の向かう先が変わっただけだ。むしろその機関銃は使うほど危険だよ」
ヒカルは惑星の英雄となった。拠点では大きな宴が催される。攻撃隊と援護隊は会議を行い、今後の方針を決めていく。
「まさか、僕が一つの惑星を救うなんてね。しかも地球人には知られない。ここの重力から逆らうなんて、どんな研究をすればいいのか」
そう言って、ブラックホールに留まることに決めた。
そうした人間がここに溜まってきている。
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