2 柔らかく
気持ちの良い朝だった。ひんやりとした空気が肌を撫で、長い髪は冷たくなっていた。手を上に伸ばすと指の間から白い光がもれた。目を細めて睫毛に光をかぶせる。カーテンをしっかりと閉め、もう一度布団を被って目を瞑る。
気づいたときにはすでに、彼の隣に私はいなかった。
ずっと気づいていたずっと知っていた、いつかこうなることをわかって私は歩いていた。ただ、それが出来るだけ長く伸びるように柔らかく柔らかく、伸びた先にはなにかがあるかもしれない、そんな少しの希望だけで過ごしていた、それだけだった。
隣で気持ちよさそうに寝息を立てている君を、これまで何度見てきたんだろう。色んなことがあったね、色んな匂いを感じたね。温もりだって暖かいときばっかりじゃなくて、冷たいときだってあったね。
彼の手が冷たかった時、私はその冷たさを怖がって手を離した。私の手が冷たい時、彼も同じように私の手を離した。
先に手を離したのはどっちだっけ。
私は求められたかったし必要とされたかった。最後の夜「おいで、」と言った苦しそうな彼の顔をどうすれば忘れられるのだろうか。忘れられない、忘れたくない。少しの間でも私を必要としてくれた彼の事を、私はこの先何度でも思い出して。
手に馴染んだ肌を思い出して。
柔らかい髪を、匂いを思い出して。
肌に触れる手も頬をなぞる指も
あぁ自分だと全く違うのね。
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