第3話 魔法少女狩り

 昔から、大抵の事は思い通りになってきた。

 誰も気づいていないが、どうやら私は魔法少女らしい。

 昔、お母さんから言われたの。

 あなたの力を欲しがる人、利用しようとする人が世の中にはたくさんいるのよ、

だから決して人にあなたのもってる不思議な力のことを話してだめよ。と。


 そのときの母の苦しそうな顔が今でも忘れられない。だから私はきちんとその言いつけを守り続けてきた。


 あーあ、なんだか気が滅入ってきた。なんかいいことないかなぁ。

 ふと足下を見ると100円玉が落ちている。

 あーあ、どんよりした天気だと、嬉しいことも嬉しくないや。

 分厚い雲で覆われていた空から、そよそよと太陽の光が差し込んでくる。

 これで、道ばたに野花でも咲いていれば完璧なのに。

 私が歩いてきたたんぼ道を振り返ると、季節外れのたんぽぽが道路の脇にちらほら咲いている。


 ほらね、全部私の願ったとおりになってしまう。


 「なんだか人生って簡単ね。」


 独り言をつぶやく。これからもこうやって、幸せに、ほがらかに、退屈に、私は思い通りに人生を歩んでいくのだろう。

 ため息がでる。その後吸い込んだ朝の空気が、つん、とのどに刺さる。


 でも、実はたった一つだけ、私にも思い通りにならないことがあるのだ。

 「おはよう。」

 歩くリュックに声をかける。部活の荷物なのか、教科書なのか分からないが、みっちりと中身の詰まった登山用リュックを背負って、のっしのっしと歩くこの男。リュックに足が生えているようにしか見えない。

 「おー、おはよう。はやいね。」

 横に並んだ私をちらっと見る。もう、それだけで、全身から汗が出てくる。

 実は、といってもバレバレだろうが、私はこの男のことが好きだ。

 「今日も、すごい荷物だよね。なにはいってんの。」

 「えー、別に何も。普通。夢と希望。」


 この時間がずっとずっと一生続いてほしい。もっと話がしたい。お願い。

 この角を曲がったら、もう学校についてしまう。


 「あ、じゃあ俺先いくな。あと教室で。」

 「あ、うん。」


 小走りに走り去っていくリュック。さっきまでの重そうな足取りとは違って軽やかだ。

 私はこの男がどこに向かって走っているか知っている。男の首筋が赤く染まっているのが、ぴくりと耳が動いたのが、寒さやリュックの重さのせいでは無いのを知っている。


 振り返れ。


 立ち止まって、振り返って。


 走るリュックに向かって心の中で叫ぶ。願う。

 まもなく男の背中は見えなくなる。


 あーあ、なにかいいことないかなぁ。

 俯くと足下に100円玉が落ちている。

 もう、なんかむかつくから、いっそ雨でもふればいいのに。

 アスファルトに、ぽつぽつを黒い染みが増えていく。


 今頃二人は、急に雨ふってきたね、なんてつまらない会話を笑いながらしているのだろうか。


 

 


 

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