第49話 ゾデの大事な話
フナムシを倒せはしたものの、巨岩による範囲攻撃は余りにも強力過ぎた。
間違って投げたっきり放置していた魔法習得用の魔法具をも、俺は破壊してしまったらしい。
それはこの世界においてとても高価な物だった様で、
持ち主の女王は血涙を流して俺に弁償を求めた。
『俺に』じゃなかった、俺の『息子に』である。
所変わって、今居ますのはイサファガ地下の俺の部屋。
「……で?シツ。
そなたは何故萎えてしまったのじゃ?」
「女王が下手クソだからですよっ!
第一あれじゃ強姦でしょうが!」
女王は椅子に座り、すぐ側のテーブルに肘を突いて頬を支え、
俺ではなく壁をジト目で睨んでいる。
ナニを隠そう。
女王の言った通り、あの後俺は萎えてしまったのだ。
最初の興奮は何処へやら……女王は想像の遥か斜め上を行く乱暴さで、
気持ち良いどころかむしろ痛かったんだもの。
拗ねてる女王を見るに、今でこそそうではなかったと言えるが、
てっきり一種の拷問かと思ったくらいだわ。
ちなみに現在、メツェンさんと女王の俺ダイヤグラムは10対0である。
メツェンさんに対して女王を選ぶ理由が0なのである。
バストサイズこそ女王に軍配が上がるけども、俺は元々ひんぬー派ですし。
「下手クソで悪かったのう。
経験が浅い故」
「反応すべきはそこじゃないと思いますよ……」
町娘をけしかけて公然わいせつ、アンアンコスを窃盗して勝手に着た上に逃走、
フナムシに苦戦する俺へのパワハラ、そしてくだんの性的暴行。
この女王、貧困に喘いでいるせいか堕ちるとこまで堕ちてるよね。
あ、女性から男性へのあれこれは性的暴行にならないんだっけ?
……この異世界で日本の法律は関係無いけども。
いや、異世界であってもまずいか。
まずいよな。
誰でも良いからまずいと言ってくれ。
「わらわのせいにしておるが、そなたこそ不感症と言う奴ではないのか?」
「はあ!?メツェンさんとした時はもっと……」
熟考する前に勢いで暴発させてしまった自分の発言を俺は恥ずかしく思い、
声をデクレッシェンド(段々弱く)させた。
拗ねていた女王は一転し、口元に指を当ててニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「ほうほう。
メツェンとナニをどうしたのじゃ?
わらわが一晩中でも聞いてやるぞ。
ほれほれ、早う続けろ」
「嫌です!」
「女王、失礼します」
ゾデの声だ。
俺と女王の目は共に、声のした出入り口の方へと吸い寄せられる。
案の定、そこにはゾデが跪いていた。
銀ピカフルメイル姿も相変わらず。
いつ見ても綺麗だよね、それ。
「ゾデか。
面を上げよ」
女王はまたしても態度をガラッと変え、いわば女王モードに変化した。
出来る事ならずっとそのモードでいてくれ。
「はっ」
女王に許しを得たゾデが直立姿勢に移る。
こんな前科まみれの女王に頭下げなくても良いと思うよ、うん。
「して、何用じゃ?」
「女王、僕はシツに話したい事が有って来たのです」
「ここ俺の部屋ですしね」
「シツ、朝になったら大事な話をすると告げていた筈だが、
今朝僕が訪ねた時ここには居なかったな」
「……あっ」
そうだ忘れてた。
昨日、ピトセがフナムシを倒して俺が地下に帰る時、ゾデとそんな約束をしてたな。
忘れてたどころか別のスケジュール入れちゃってたよ。
「マジックアローの練習をしたいとシツが申した故、
わらわと共に岩場へと連れ出しておったのじゃ。
ゾデは朝が弱いからのう、早朝に目覚めたわらわが先だっただけの事」
ゾデは朝が弱い、か。
早朝のゾデタクシーには期待しない方が良さげだね。
「それでお二人共姿が見られなかったのですね。
把握しました」
「その大事な話とやらを、今ここで始めるのか?」
「出来れば」
「わらわは席を外すべきかのう……」
俺に対する振る舞いからは想像も付かない女王の配慮だが、
ゾデはそれに対し手をかざして、やんわりと断りを入れた。
「いえ、その必要はありません。
逆に女王にも同席して頂きたいくらいです」
「ふむ。
では特別にわらわも聞いてやるとしよう」
「一銭の得にもならない俺いびりしようとしてた癖して、多忙な女王を演出ですか……。
あ、ゾデさんここ座ります?」
御多分に洩れずベッドに座っている俺は、
隣の空いているスペースを軽く叩いてゾデに勧めた。
大事な話ともなると長くなって、立ち話してたんじゃあキツいだろうけど、
この部屋には椅子が一脚しかないのだ。
女王の自室さえもほぼ同じ造りだったから、
ここに限らずどの部屋でも基本そうなんだろうけどね。
しかし、俺の配慮にさえもゾデは断りを入れてくる。
「良いんだ。
この格好で座ったらベッドを痛めてしまうしな」
脱いだら?と言う台詞が喉まで来た所で、俺はそれを飲み込んだ。
それを言うと俺だって常時アンアンコスだし、
俺達のこれは毛色こそ違うが一応戦闘服でもあるし。
「そうですか」
「ゾデ、早う話せ。
わらわを退屈させる気か」
「退屈って……」
「では。
コホン……いきなりだかシツに質問しよう。
お前はこのイサファガに、
1年でどれくらいのラスティアンが襲来すると思うのか。
予想してみろ」
……クイズ形式?
「えっと、ここ3日で俺はもう何度もラスティアンを倒してますからね。
実際に毎日ではないにせよ、1日1回は来てる計算になるんじゃないでしょうか」
イセエビ、毛ガニ、カニの大群にフナムシ。
頻度も多く感じるし、頭数はうんと多い。
「ブッブー!
残念、外れも外れ大外れじゃ」
俺は自分の経験を踏まえ、至って真面目にゾデの質問へ回答したんだけど、
第三者でしかない女王は両手でバッテンを作り、
くどいまでに俺の誤答を指摘して来やがった。
うぜえ。
「お前からすればそう思うのも無理はない。
だが本来、一月に一度襲来すれば多い方なんだ」
「……えっ!?月一ですか!?」
「そう。
それに頻度だけの問題ではなく、
シツがアンジェネリックスラッシュで倒したような超大型ラスティアンともなると、
百年に一度出るか出ないか。
……そうだな、この町で生まれ育ちこの町で死んだとして、その間に見れるかどうか。
それくらい稀だった。
本来はな」
ああっ、ゾデその技名出さないで!
恥ずかしいから忘れて!
「ある意味ではシツ、そなたは強運の持ち主なのじゃ。
AAとてラスティアン討伐の仕事が来なければ思うようにクラスを上げられず、
ステージ0であるこのイサファガから一向に出られんからのう」
「そうだったんですか……」
「平和に勝るものはありませんが、女王のお考えには僕も同意する所が有ります。
さてシツ、そろそろ本題に入るぞ」
「はい」
ここまででも結構真面目な内容だったが、ここからが本題か。
一体どんな内容だろう。
気付けば、俺はゾデに対してやや前のめりになっていた。
女王も真剣な顔つきで、退屈してそうには見えない。
「さっき話したように、シツがこの世界に来てからラスティアンの数が急激に増えている。
僕にはこれが偶然とは思えないんだ」
「はあ……」
「これは飽くまで僕の憶測でしかないから、話半分に聞いてくれ。
僕はシツの存在が、
ラスティアンをこのイサファガに呼び寄せているのではないかと考えている」
「えっ?」
「ゾデ?」
俺と女王は声色こそ異なるが、ほぼ同じ反応をほぼ同時に示した。
ラスティアンに滅法強いAAの俺が、ラスティアンを呼び寄せているだなんて。
「でもそれって変ですよね?
AAはラスティアンを倒せるんですから、ラスティアンにとっては自殺行為じゃあ……」
「偶然ではないのか?」
「お二人のお気持ちは分かります。
繰り返しますが、これは飽くまでも僕の憶測であり仮説です。
その上でだがシツ、僕はお前に提案する。
イサファガを出発し、次の王国に向かうつもりはないか?
……明日にでも」
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