第48話 オーバーキル

素早いフナムシ相手では、

マジックアローもアンジェネリックフレイルもろくに当たらない。

人間誰しも得手不得手が有るのに、

女王はあんな小さいラスティアンも倒せないのかと俺を罵りやがる。

怒った俺が乱暴にフレイルを振り下ろすと、

なんと岩球は元の大岩以上に大きく大きくなっていた。

大きくなってると事前に女王が言ってたけど、俺は全然気付かなかったよ。

重さも変わんないし。


「うひゃあああ!」


何倍にも大きくなった岩球が地面にめり込んだ途端、

地震にも似た強烈な振動が轟音を鳴らし、辺りの草原を揺るがす。

女王は変な悲鳴を上げつつ宙に投げ出されたが、使用者の俺はなんと震度ゼロ。

アンジェロッド、癖は強いけどチート級だね。


「んっ!?」


遥か上空に浮かぶ何かの影を察知し、咄嗟にそれを見上げる。

逆光で視認しづらいが、脚や触角の多いキモシルエットはフナムシで間違いない。

そうか、さっき振り下ろした巨大フレイルの衝撃で女王同様、

いやそれ以上に跳ね上がったのか。

……直接倒せはしなかったが、ひょっとしたらこれって大チャンスじゃね?

俺はフレイルの棒を投げ捨て、マジックアローの構えを取った。


「……行ける!」


フナムシはその俊敏さもさる事ながら、

小ささ故に急旋回などの小回りが効くのも強みだった。

だか現在フナムシは宙を舞い、ご自慢の制動力を完全に失っている。

百発零中ながらも何度か放ったお陰で、マジックアローの弾速は把握済み。

フナムシの落下点に狙いを合わせ、タイミング良くアローを放てば……あるいは。


「当たれ!」


マジックアロー!


『シシシシュン』


これまでかなりばらけていた4本のマジックアローが、

今回ばかりは纏まり気味に空を切り裂き飛んで行く。

タイミングはバッチリの筈。

後は祈るのみだ。


『カカカカッ』


「うほっ!」


オーバーキル。

4本中4本、つまり全弾がフナムシに命中した。

俺は喜びのあまり、一瞬だけだが人間で有る事を忘れゴリラと化す。

フナムシは落下を待たずして、恒例の白いチリになりサァッと風に溶けた。


「女王、今の見ました!?」


俺が振り返ると、女王は田植えでもしてるみたいに腰を折り、右へ左へとうろついていた。

何してんのよ。


「無い、無い!」


「あのー、女王?」


しばらく観察していると、女王は田植え体勢のまま俺のすぐ近くまで寄ってきて、

立ち止まった後顔を上げた。

垂れた爆乳の谷間は一旦置いといて、その顔は何故か半ベソ状態。


「どうしたんですか?

折角ラスティアンを倒せたってのに。

しかも女王の言いつけ通りにマジックアローでですよ?」


「無いのじゃ……魔法具が一本足りないのじゃ……」


「魔法具って、あの重い棒みたいな奴ですよね?

アンジェロッドと融合したら使えるかと思って、一本だけ借りてたんですよ」


説明するや否や、女王は俺にしがみついて来た。

俺が魔法具を持っていると思ったらしく、アンアンコスのあちらこちらに手を触れている。


「どこじゃ!?どこにしまってあるのじゃ!ここか!?」


「ちょっ、絶対にそこじゃ無いです!」


「ではこの棒は何なのじゃ!

隠しておいて後でこっそり売り捌くつもりか!?」


「棒は棒でも肉棒ですから!」


口の次は手かよ。

被せてある皮袋のせいで擦れて痛い。

俺はたまらず、おぼろげな記憶だけを頼りに草原の一箇所を指差した。

地面がヘコんで出来た巨大なクレーターが、元の2メートル級へ戻ったフレイルと共に視界の端を飾っている。


「あの辺に落ちてます!

咄嗟にマジックアローを放とうとして、うっかり投げちゃったんですよ!」


「まことであるな!?」


女王は俺を何故か突き飛ばしてから、俺が指差した辺りまで走った。

そして、「ぎぃやあああああ!」と醜い断末魔のごとく嘆き叫んだかと思うと、

その場に膝から崩れ落ちてしまった。


「わらわの魔法具がぁ!わらわのなけなしの財産がぁ!」


「一体どうしたんです……あっ」


ただ事じゃない様子の女王に俺が駆け寄ると、彼女のすぐ近くに魔法具の棒が落ちている。

落ちてはいるのだが、その真ん中辺りに大きなビビが。


「あーあ……」


「シツのせいじゃ!」


顔を覆って泣いていた女王が、突然俺の方を見て叫ぶ。


「ええ!?」


「そなたが振り回した大岩が当たったのじゃ!

それ以外にどんな理由が有ろうか!」


俺は気まずさから目を逸らし、

ゆうに10メートル以上はある大きなクレーターの方をチラ見した。

あれだけの威力と攻撃範囲なら、魔法具を巻き込んでいた可能性は十分有り得る。

だけどさ、俺にも色々あったんだよね。

情状酌量の余地……有っても良くね?


「まだ7本も残ってますし、1本くらい「ぬかせ!」


女王はグワッと立ち上がり、俺の胸ぐらを荒っぽく掴んだ。


「離して下さい!伸びちゃう!」


「あれはそなたらAAの為にと20年ローンを組んで買い取ったのじゃぞ!

一本くらい!?一本失っただけでも大赤字じゃ!

この……大たわけ者め!」


「ツバが!アンアンコスにツバが!」


「こうなった以上、魔法具の代金を弁償し終わるまではイサファガからの出国を禁ずる!

馬車馬のようにこき使ってやるから覚悟せい!」


「ええええ!?」


「まずはその、中断した情事の続きをじゃな……」


女王は俺の足元に跪き、おもむろにスカートの中へ手を突っ込んできた。

迷いもせずショーツを引きずり下ろし、息子に被せてある皮袋をも取り除く。


「ちょっ、弁償って体で!?」


「うるさい!」


しかも今ここでかよ!

せめて町に戻ってから……うっ。


「ちゅっ、ちゅぷちゅぷちゅぷ……じゅるっ」


メツェンさん、ごめんなさい。

たとえ体が奪われようとも、心だけはあなたのモノですから……ううっ!

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