第43話 女王の寝言
女王は俺の瞑想を中断させるのを口実に、俺とメツェンさんの関係を突っついて動揺を誘う。
相変わらずたちが悪いと思いつつ、俺は女王に倣って仰向けに寝転がった。
青空を眺めながら真面目な話をしていたら、いつの間にか女王は鼻提灯を膨らませて爆睡。
呆れ果てた俺は早くも瞑想に戻った。
俺の為に無理して早起きしてくれたから、居眠りはその反動って事にしとこう。
「ぐー……すぴー……」
女王のこのいびきと言うか呼吸音と言うか、謎に変化が有って退屈せずに済む。
マジックアロー強化の為なら、多少退屈でも頑張るつもりだけどね。
「ぐっぴー……」
小さくて綺麗な熱帯魚のあれだな。
生命力が強く、コップなんかの小さい容器や、比較的汚れた水の中でも生きられるらしい。
この世界にも生息してるかは知らないけど。
「ぴーす……」
平和が一番ですよね。
そうやってずっと居眠り出来るんですから。
「ぐりーんぴーす……」
「起きてます?」
つい振り返ってしまった。
寝言にしたって流石に今のは出来過ぎてるだろう。
「すびーかー……」
音響機器だ。
この世界に機械は無さげだから、スピーカーの夢を見てるってのは考えにくい。
さっきのぐりーんぴーすよりは自然だと言える。
てか、寝てるな。
鼻提灯もまだ付いてるし。
俺は正面の草原に向き直り瞑想を再開した。
「しつ……」
俺だ。
俺か?
「しつ……」
またか。
「しつ……」
しつこいな。
「シツ、わらわを置いて行かんでくれ……シツ、シツ……」
これまでいびき程度だったのが、俺の名を境にして明確な寝言に変わった。
女王が見ている夢のシチュエーションは知る由も無いが、胸に爪を立てられるかのような悲痛な声色で、俺を引き止めようとしている。
「シツ、嫌じゃあ……わらわを守ってくれ……」
やっぱり演技なのかな?
それにしたって本格的だけど。
「メツェンの何が良いのじゃ?わらわの何が駄目なのじゃ?」
これと似たような発言を、俺はついさっき聞いている。
スルーしきれずにまたも振り返ってみると、女王は空中に両手を伸ばし、何かを掴み取ろうと何度も手を開閉させている。
「……悪夢でも見てんのかな」
俺はラスティアンを倒せるAAだから、もし悪夢の中でラスティアンに襲われてるのなら、その中で俺の名を呼ぶのも筋が通っている。
ただ、俺がメツェンさんと女王を天秤にかけているかの様な発言には、正直首を捻ってしまう。
「うう……」
女王は悲痛を通り越して最早泣きそうな声を零し、それを最後に両手をゆっくりと下ろした。
「ぴかー……」
光った。
そして悪夢が過ぎ去ったのか、女王はまた深い眠りに就く。
「はあ、やれやれ……」
起きててもちょっかいをかけて来て迷惑なのに、寝ていてもいびきや寝言で俺を揺さぶってくるとはな。
俺は再三、瞑想に戻る。
「……カサッ」
女王のいびきや寝言とは明らかに違う、生き物が蠢いた時の様な小さい音。
背後からだ。
「んっ!?」
何事かとまたもや振り向くと、鼻提灯をこれでもかと大きく膨らませている女王のすぐ側に、見覚えの有るキモい生物が。
鈍く光る黒の楕円形、脚や触角が多く生え、真っ黒い眼が女王を捉えている。
「……フナムシ!」
昨日ピトセが倒した個体以外にもまだ居たのか!
俺はマジックアローを放とうと、握った右腕を大きく振りかぶる。
女王、巻き添えになって痛いかも知れないけど我慢してくれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます