第44話 VSフナムシ2nd
居眠りした女王のいびきが、悪夢を見ているかの様に悲痛な寝言に変わる。
寝ている事には変わりが無いので、俺は瞑想に戻った。
すると今度は明らかに異質な物音が。
振り向くと、そこにはフナムシのラスティアンが居た。
無防備な女王を守る為にも、俺は咄嗟にマジックアローを構える。
飛べ、マジックアロー!
『シシシシュン』
驚いた。
2日はかかると女王に言われていた強化マジックアローが、半日もしない内にあっさり成功してしまったのだ。
4筋の閃光が疾る。
が、外れ。
「カサカサカサカサカサ」
フナムシは脚を器用に動かし、岩を這って逃げ出した。
女王にすら当たらなかったのは不幸中の幸いだけど、俺のノーコンっぷりには涙が出る。
俺はフナムシ退治を後回しにして眠る女王の側に寄り、膝を折って彼女の肩を揺さぶった。
まずは安全確保から。
「女王!ラスティアンです!
起きて下さい!」
「がるぴーすー……」
「発音まで合わせんな!」
駄目だ。
怒鳴ってツッコミを入れたのに、全然起きる気配が無い。
あまり女王に手を焼いていると、奇襲するチャンスをフナムシに与えてしまいかねない。
俺は女王を起こすのを諦め、フナムシをさっさと倒す事で安全を確保する方針に切り替えた。
「で……何処だ?」
俺のマジックアローに驚いたフナムシは、少なくともこの大岩の上からは消えた。
しかし、じゃあ現在フナムシが何処に隠れてるかってのは……分からない。
この岩の側面に張り付いてるかも知れないし、そこいらの草原に身を潜めているとも考えられる。
俺は女王の側に立ち、周囲をグルッと見渡した。
「あっ!」
視界に広がる草原のある一箇所で、鈍く光る黒が動いた。
この岩からは離れてたのか。
「ザザザザザザ」
フナムシは想像を絶するスピードで草を掻き分け、ここら一帯に点在する別の岩の陰に入る。
マジックアローで上手く狙い撃って下さいってか?
「FPSは苦手なんだけど……」
と言いつつ、これしか無いので構えを取る。
「がるぴーすー……」
「またかよ」
「ガサッ」
と、フナムシが動いた。
頼むぞ、マジックアロー!
『シシシシュン』
4筋のマジックアローがフナムシを目掛けて飛んで行く。
……いや、外れたなこれ。
「カサカサカサカサ」
散々外してるお陰で、俺の手からアローが飛んだ瞬間にそれらの当たり外れが分かる様になってしまったよ、当たった事無いけど。
俺の当たって欲しくない直感が見事的中し、全てのアローはフナムシを悉く逃してしまう。アローの流れ弾が雑草を千切り取り、パァッと空中に散らした。
低威力とは言っても、流石にあの雑草程度なら効くのか。
そうならない様に祈るばかりだが、人体に当たるとどうなるだろうな。
「ちっ……」
「がるぴーす……ぐっぴー……」
「幾らグッピーでもそれは死ぬ!」
今度はいびき同士を組み合わせて来やがったか。
こんな時に笑いを誘わないでくれよ。
「カサカサ……」
「お?」
フナムシがある小さめな岩の上に登り、そこで静止した。
疲れたから日向ぼっこをしたいのだろうか。
それとも、強化したマジックアローですらロクに当てられない俺を舐め切っているのだろうか。
ラスティアンに感情や知性が有るとは思えないけど、どうも後者な気がする。
「野郎……」
俺はマジックアローを構えたが、ここで一つのアイデアが浮かんだので、そっと腕を下ろした。
悔しいけど、今の力量だとまずフナムシにアローを当てられない。
アンジェロッドは持ってるが今融合出来そうなアイテムとなると、岩の上に転がしてあるアロー習得用の棒だけ。
無いよりはマシだから1本だけ持っておくけど、正直あの素早いフナムシをこれで倒せる気はしないんだよな。
なら、フナムシに近寄ってマジックアローの着弾を早めれば良いんだ。
幸いな事にアローの飛翔する速度はかなり疾く、対象が近ければそれだけアロー同士が拡散する範囲も狭く密になり、結果命中率向上に繋がる筈。
俺は岩から降り、フナムシが休んでいる岩に忍び足で接近した。
相変わらずフナムシは岩の上から動かないままで、どっかの女王みたいに寝てるんじゃないかと俺は思った。
ラスティアンって寝るのかな。
いやいや、それを言うならフナムシ自体が……。
「カサッ」
フナムシが沈黙を破った。
とは言っても俺の方に黒い眼を向けただけで、まだ岩の上に居る。
俺はより慎重に歩みを進めた。
草食動物との間合いを測る肉食動物みたいな気分だ。
エビやカニならまだしも、あんなキモいのを食う気なんて更々無いけどね。
さて、そろそろ良いか。
俺とフナムシの距離は今や、凡そ3メートル程度にまで縮まった。
ここまで近寄っても逃げ出さないのは、やはり逃げ足に自信が有るからなのだろう。
その自信が命取りだ。
俺はスロー再生のパントマイムを演じる様な気分で、静かにゆっくりとマジックアローを構える。
そして、フナムシが突然俺に飛びかかって来た!
「おわぁ!?」
こっち来んなキモい!
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