第36話 迷走する瞑想

散々俺を待たせてから急に登場した女王は、両手に何かの棒を握っていた。

その棒はどうやら、魔法教育に使う教材であるらしい。

ピトセへ宛てた俺の蔑みを聞いていた女王は、教育に移る前に曲解した問いかけをして来るも、元ロリコンの俺は相手にせず跳ね返しておいた。

ロリコンだろうとそうで無かろうと、良い奴も悪い奴も居るんだぞ。


「何を怒っておる。

まあ良い、ほれシツよ。

これを受け取れい」


「はいはい……」


俺は女王に近寄り、彼女の手から2本の棒を奪い取った。

意外と重量感が有って、手の中にドシっと沈み込んでくる。


「それらをしかと握り締め、岩の上に座って心を静めよ。

それが授業じゃ」


「それだけですか?」


「最初はな」


最初は……か。

含みを持たせた言い方だ。

やっぱりこの後がハードなのか。

何はともあれ、俺は岩の上にトンビ座りし、両手をそれっぽく構えた。

可愛いぞと思ってちょくちょくこの座り方をしていたら、いつの間にやら癖になってしまっている。

心を静めろとの事なので、俺は目を瞑ってみた。


「……これで良いんですか?」


「ああ」


「どれくらい続ければ?」


「個人差による所は大きいが、適正次第では……そうじゃな、10分と掛からぬ」


最短で10分か。

てか、瞑想中に話してて良いんだろうか。

駄目なら女王が指摘するだろうから、多分大丈夫なんだろうけど。


「俺はどうでしょう?」


「まあ、数時間は覚悟しておれ」


「数時間!?」


俺は女王が見積もった時間の長さを受け、驚いて目を開け叫んでしまった。

流石にこれはマズイよな。


「これシツ!

声や感情を荒げるでない!

一生岩の上に居るつもりか!?」


「すっ、すみません……」


確かにやらかしたけどさ、そこまで言わなくても。

女王の行き過ぎな罵倒に俺はムッとしつつも、再度目を瞑って瞑想に戻った。

ムラっとしつつじゃないよ。


「全く……」


「普通に話すのは良いんですね?」


「雑談程度なら問題無い。

どの道実戦で魔法を放つ際も、一々精神統一などしてられんからのう」


「確かに……」


俺の返事を最後に、しばらくの静寂が訪れた。

視界をシャットダウンしている分他の感覚が鋭敏になったのか、サササ……と、風に揺れた草同士が擦れる小さな音が聞こえてくる。


「……シツ」


女王の声が妙に近いんだけど、気のせいだろうか。

瞑想で聴覚が狂っているのかも知れない。


「何ですか?」


少し経った後、女王の吐息が俺の首筋にフッと当たった。

川で洗って濡れたのはもう乾いている筈だが、何故か冷たく感じる。

気のせいとかじゃなく、女王は俺のすぐ近くに忍び寄っていたのか。


「……わらわのオウハイにならぬか?」


オウハイ?


「何ですかそれ。

てか近いんですけど。

おっぱい当たっちゃいますよ」


「それはこのようにか?」


「へっ?」


俺の右脇腹辺りに、女王は自分から爆乳を押し当ててきた。

想像していた以上に爆乳は柔らかく、俺と女王の胴体の間でプニュッと潰れて広がる。

薄着なせいか、その……突起が。

二つの突起が有るのがモロ分かっちゃいますね。


「フフ……」


更に女王は畳み掛け、俺の首の右側をペロッと舐めとる。

唾液を絡ませた暖かい舌の感触はとても生々しく、ほんのり甘く、そして何処か怖い。

俺は「ぴゃあ!」と情け無い悲鳴を上げ、瞬時に全身を縮こませた。


「フフフ、そんな調子ではこの岩から降りられぬのう……。

シツの名を刻み、そなたの墓にでもしてしまうか」


「墓ぁ!?」


自分から仕掛けておいてそりゃ無いぜ。

ドS属性持ちでしたか、この女王。

……後さ、オウハイって何?

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