第34話 ジリンジャー

会話の通じないロリっ子から名前を聞き出そうとするも、結局は失敗に終わった。

彼女に懐かれているメツェンさんの命名により、ロリっ子の名前はピトセとなる。

良い雰囲気だとばかり思ってたのに、ピトセは俺の顔を見るなり蹴りをかまして来やがった。

非武装状態の俺に、彼女を回避するだけの動体視力や反射神経は無いんだぞ。

分かったか皆の衆。

分かったなら、笑わないであげて下さいお願いしますこの通り。


「いっててて……」


俺は顔面を庇ってうずくまる。

恨まれるような事は絶対してないんだけどなぁ……。


「こら!ピトセちゃん、乱暴は駄目よ!」


顔を覆ったまま指を開き、俺はピトセの様子を伺った。

普段温厚そうなメツェンさんもこれには怒りを露わにし、ピトセの頭頂部に握り拳を突き立てる。

力は入っていないようで、痛みを与えるよりその動作自体で叱ろうとしたんだろう。


「がうー……」


メツェンさんの狙いは功を奏し、ピトセは悲痛な声を上げて頭を抱え込んでいる。

お前が俺の顔面にかましてくれた蹴りの痛みと比べたら、お前のその精神的ショックなんか比じゃないぞ。

大いに反省しろ。

って直接言っても伝わらないんだよね。


「これで新しいAA、ピトセの紹介は終わりじゃ。

次の報告に移るぞ」


「まだ何か有るんですか?」

「良い知らせかしら……」

「悪い知らせなら先に言った方が……」


山あり谷あり、楽あれば苦ありって事で、町民達は次に悪い知らせが来るんじゃないかと口々に心配している。


「そう構えるでない。

次はジリンジャーについてじゃ」


またもや騒めく町民達。

俺もずっと気になってたんだよ、そのジリンジャーって謎単語。

メツェンさんがそれだったのかってゾデが言ってたような気がする。


そういや、ゾデは何処に居るんだろうな。

ゾデの銀ピカフルメイルは超目立つから、仮にこの中に混ざっててもすぐに見付かる筈だけど。


「実は此度のシツとピトセ、2連続となるAA誕生の両方にメツェンが関わっておる。

つまりメツェンはジリンジャーだったのじゃ」


「おおっ!」

「何と言う!」


ジリンジャーってのが町民達にとって好ましい存在なのは、この歓喜沸き立つリアクションを見れば一目瞭然。

俺はジリンジャーそのものの意味を知らない故、個人的には手を挙げて女王に尋ねたい所。

しかし、ここに来てから幾らかマシになったとは言え、やっぱり他人の視線が自分に向けられるのは怖い。

ご都合なのは百も承知だけど、誰か解説してくれないだろうか。


「あの、スカルベルちゃん?

そのジリンジャーって何だったかしら。

私、当事者なのに初めて聞くの、それ」


メツェンさんグッジョブ!

流石は無知ムチってか!

あ、これ寒いわ。


「ここに集まっている町民の中でさえ、ジリンジャーを知らない者も多かろう。

何せAA以上に稀有な存在じゃからの」


「そんなに!?」


もうずっと黙ってようと決めてたのに、俺はつい叫んでしまった。

主観だけど、さっきのピトセが全力じゃなかったのが幸いして、蹴られた痛みはもう大体消えている。


「ああ。

AAは基本、不規則にこの世界へと現れるもの。

じゃがジリンジャーなる人間は、何故だか分からんが……時として己の身の回りにAAを呼び寄せてしまうのじゃ。

その現象を2回以上起こした者だけがジリンジャーと呼ばれるのじゃ。

まさかわらわの国から現れようとはな」


「へえ……」


「スッスッススス、スカルベルちゃん!

私、そんなに凄い人間だったの!?」


当の本人であるメツェンさんは相当驚いたらしく、体を揺さぶって女王をまくし立てる。

当然豊満な胸もポヨンポヨンと揺れるので、目を逸らさずには居られなかった。

これだけの人が集まってるのに勃起なんてしたら、恥ずか死ぬどころか普通に自殺してしまいかねない。

この際ずっとしゃがんでいようかな?


「落ち着けメツェン。

そしてわらわを名で呼ぶな」


「スカルベルちゃん、これから私どうなっちゃうの!?

貢ぎ物とか一杯来ちゃったりして、部屋が埋め尽くされたりとかしちゃう訳!?」


「落ち着け」


「がう!」


「それでは女王、今後もメツェンにはAAを呼び寄せて貰うおつもりですか?」


町民が冷静に尋ねると、女王はフルフルと首を横に振った。

上半身に連動して爆乳が揺れたが、メツェンさんのじゃないから俺は平気。

自分でも変だとは思う。

同じおっぱいなんだけどね。


「まだそう決まった訳ではないぞ。

ジリンジャーについてはまだ未知の要素が多い。

メツェンの心身に負担がかかっているのかも知れぬからな。

今後、メツェンの扱いは慎重に検討すべきである」


「成る程、分かりました。

メツェン、風邪などひかぬようにな」


「ありがとう。

えっと、結局私はどうすれば良いのかしら……?」


「先程町民が申したであろう。

己の心身を第一に気遣い、決して無茶はせぬよう」


「分かったわ、スカルベルちゃん」


メツェンさんは軽いガッツポーズを作って微笑んだ。

彼女には失礼だけど、ホントに分かったのかがちょっとだけ怪しく感じる。

明るいのは悪い事じゃないよ、うん。


「だからちゃんを付けるなと……全く。

では最後の報告じゃ」


「最後?」

「今度こそ悪い知らせよ……」

「きっとそうだわ」


やはり不安がる町民を他所に、女王は腕を組み笑いを堪えている。

何が可笑しいんだろうか、俺には予測も付かないや。


「何とシツの持つ固有の武器は、魔法武器だったのじゃ!

よってこれより、わらわはシツに魔法教育を施す!」


「げぇっ!」

「マジっすか女王!?」

「シツ君、可哀想に……」


「えっ、えっ!?」


町民の反応が妙だ。

まるで悲劇の幕が開けたみたいに、嫌悪の声を上げたり女王を疑ったり、中には俺を哀れみ出す人さえ居る始末。

魔法武器なのがヤバイのか、はたまた女王の魔法教育とやらがヤバイのか。


俺がキョドッていると、しゃがんでいる俺の肩にポンと手が乗った。

見上げると、女王がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているではないか。


「シツよ、これからみっちり鍛えてやるからのう。

首でも洗って待っておれ。

フフフ、フハハハハ……」


「えっ!?」


首を洗えって何だよ。

慣用句の使い方間違ってない?

俺……死ぬの?

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