第33話 名無しのロリっ子
地上への移動中、俺は女王に質問した。
あれだけのラスティアンを全滅させたんだから、次のクラス昇格は間近なんだろうと。
しかし女王は、今回の戦果は昇格を100として『10パーセントじゃな』と言い放った。
俺にはどうも、この女王がケチに思えてしまう。
モヤモヤしつつも俺達は女王に付き従い、地上の集会所へと足を運んだ。
「皆の者、例の3人を連れて参ったぞ!」
青空の下、町の広場に数十人程の町人が集められている。
真面目な話題になるからか、集団の中には大人や老人が多く見受けられる。
子供は難しい話を聞くよりも、楽しく遊ぶのが仕事だからな。
女王、メツェンさんとロリっ子、そして俺……俺達4人は集団の真ん前に立っている。
……俺も何か喋らされるんだろうか。
ヤバい緊張して来た。
「先ずは新たなAAについてじゃ」
女王が話題を切り出すと、町人達がざわめき出す。
その内で前列に居る年配の男性が手を挙げた。
「女王様、シツさんの事なら既に我々町民の間に知れ渡っておりますが……」
「シツの事ではない。
また新たなAAが現れたのじゃ!」
「おお……!」
男性が感嘆の声を上げる。
ラスティアンを倒せるAAはこの世界における救世主だから、そりゃあ喜ぶよね。
「それで、その新たなAAはどちらに?」
先程よりやや若い別の男性が投げかけた。
女王はメツェンさんにアイサインを送り、女王の意図を汲み取ったメツェンさんが傍らのロリっ子を撫でる。
「この子がその新たなAAです」
「がう!」
「何ですと!?」
「まだ子供だが……」
「シツ君よりもちっちゃいわね」
まあ、概ね俺にも予想通りの反応だ。
ラスティアンとの戦闘を主な役割とするAAが、推定11歳だったんじゃあ不安にもなるよね。
ただ、理不尽ながらも彼女と対峙した俺から言わせれば、素の身体能力なら俺より彼女の方が優っていると断言出来る。
俺が強いんじゃなくてアンジェロッドが強いんだよな。
「確かに小娘であるが、AA能力はちゃんと備わっておる。
メツェンが今こうしてわらわ達と共に立っていられるのは、この小娘のお陰なのじゃ」
「女王様」
赤子を抱いている女性が右手を挙げた。
皆女王に対して結構フレンドリーと言うか、開放的な国なんだな。
だからって物理的にまで開放的、部屋にドアを設けないのには一異世界人として異議を唱えたい。
もしあの時誰かが入って来てたらと思うと……駄目だ思い出しただけでも勃っちゃう。
「何じゃ。
申してみよ」
「その子のお名前をお聞きしたいのですが……」
「それがのう、わらわ達も分からんのじゃ。
こやつはがうがうと、まるで獣の様に吠えて唸るばかりでな。
今は小娘としか呼べぬ」
「しかしそれでは、AA認定の儀式が行えませぬな」
最初に質問した年配の男性が、子連れの女性に続いて発言。
「その通りじゃ。
最悪、わらわ達で命名してやらねばなるまい」
「あの、女王」
俺も気になる事が浮かんだので、町民達に倣い手を挙げてみた。
「シツ?どうした?」
風変わりな新参AAとして元々注目されているせいか、町民達の視線が俺に集中する。
やっべ、やめときゃ良かった。
ごめんなさい皆さん、見ないで下さい……。
「あのですね、そのAA……認定の儀式って言うんですか?
それやらなかったら、何か困る事でも……?」
「……そんな事か。
認定の儀式を怠った場合、各国での各種援助を受けられなくなる。
逆にAA認定されておれば……早い話がタダ飯食らい、宿にも服にも困らんと言う訳じゃな。
そもそも儀式を避けるメリットが無いのじゃ。
理解したか?」
そんな事かって言われちゃったよ。
とほほ。
「はい……」
「話題を戻すぞ。
先程も触れたが、この小娘から名を聞き出すか命名してやるかせん事には、AA認定の儀式は行えない。
メツェンよ、そなたは小娘に懐かれておる様じゃかどう思う?」
「少しだけで良いから私に任せて。
この子にも元の世界で付けられた名前がきっと有る筈よ」
女王が「うむ」と言って頷き、それを見たメツェンさんはロリっ子の目の前に右手の人差し指を突き出した。
「がう?」
ロリっ子が反応した後、メツェンさんはロリっ子から指を離し、自身の眼前に持って行く。
「メツェン」
ゆっくり丁寧に自分の名を喋るメツェンさん。
「がう」
次にメツェンさんは隣の女王を指差した。
「スカルベル」
「がう」
「……女王と呼べ」
メツェンさんが何をしたいのかが俺にも理解出来た。
このロリっ子に言語はまるっきし通じないが、順番に俺達の名前を紹介した後ロリっ子に戻って来れば、彼女も釣られて名を名乗ってくれるかも知れない。
じゃあ次は俺か。
「シツ」
「がう!がうがう!」
「まだ怒ってんのかよ!?」
やれやれ、こいつと上手くやって行くには骨が折れそうだ。
取り敢えずこれでメツェンさんの指は俺達4人を一周し、再度ロリっ子に止まる。
さあロリっ子よ、その名を明かすが良い。
女王の口調が移っちゃったかな。
「がう?」
ロリっ子は自分の名を語らない。
まさかガウって名前じゃないよな。
「うーん……」
メツェンさんが困り笑いをしていると、何を思ったかロリっ子はメツェンさんの指にパクッと噛み付いた。
「あら!?」
「メツェンさん!」
俺が叫ぶと、メツェンさんは左手を俺に向かって突き出し制止した。
「大丈夫、甘噛みだから」
メツェンさんの言う通り、ロリっ子は恍惚とした緩い顔でメツェンさんの指をあむあむとしゃぶっている。
ガブリと行ってなくて安心したが、結局名前は聞き出せず仕舞いだ。
「メツェン、やはりわらわ達が名付けるしか有るまい」
「それなら私に決めさせて頂戴?
実はもう決まってるの」
「ほう?」
「ホントは私の未来の子に付けようと思ってたんだけど、まだまだ先になりそうだし」
えっ?それって……。
「どんな名じゃ?」
「ピトセちゃん」
「ふむ、悪くない響きじゃ。
皆の者!たった今からこの小娘の名を、ピトセとする!」
即決っすか。
女王が高らかに叫ぶと、良く分からないが町民達から拍手が上がった。
これってめでたい事なのかな。
取り敢えず俺も軽く拍手をしておいた。
二次元女装コスしといて何だけど、あまり悪目立ちはしたくないので。
「今日から貴女はピトセちゃんよ。
宜しくね」
メツェンさんに顔を覗き込まれたロリっ子改めピトセは、知ってか知らずか「がう!」と元気良く吠えた。
次に俺の方をキッと睨み、飛びかかって来んなってちょっ!
「がうー!」
「ぐぶっ!」
飛び蹴り改め、ピトセエアレイドが俺の顔面を直撃。
アンジェロッド未使用時の、俺の素体性能なんて所詮こんなもん。
悪目立ちはしたくないってのに……はあ。
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