第32話 事後

メツェンさんに勧められがままに飲み干したのは、なんと媚薬作用を持つイキリダケ入りのスープだった。

更にはメツェンさんも同じスープを既に飲んでおり、メツェンさんは俺に強烈なアタックを行う。

媚薬を盛られても尚ヘタレの俺はされるがまま、ロリっ子が見ている前で……呆気なく一線を超えられてしまった。

本能?煩悩?何が何だかまるで分からない内に、天使の姿を借りたまま俺は昇天。

未だにフワフワした気分が抜けない。

アンアンコスで初体験とは……人生何が起こるか分からんね。


「途中のシツちゃん、すっごく可愛かったわよ」


「やめて下さい!」


メツェンさんが背中を指で突いてくる。

俺は紅潮する顔面を両手で覆い隠した上、壁にピッタリと密着させて完全なる護身を作り上げた。

仮にも俺は男なのに、完全に主導権を握られてしまっていた。

ああ、とても恥ずかしい。


「がうー?」


「ああー!あー!」


俺は半狂乱になってわめく。

こいつ、俺達をずっと見てたんだよね。

メツェンさんも中々クレイジーな事をなさる。

幾ら野生児でも子作りくらい分かるでしょうに。


「これで、シツちゃんのハジメテは私の物ね」


そう言うメツェンさんは、絶対ハジメテじゃなかったですよね。

腰がどうとかヒダがどうとか……ねぇ。


「メツェンさぁん……」


「なあに、シツちゃん?

もしかしてまだ物足りないの?」


「違いますっ!」


「……ねえシツちゃん」


「何ですかぁ?」


俺は顔面ガードを解き、恐る恐るメツェンさんへ振り向いた。


「男の子だったらどんな名前にする?

女の子だったら私に良い案が有るの!」


「わぁあー!」


もう駄目だ。

俺は当分、メツェンさんとまともに顔を合わせられそうにない。

バイトすらした事ない引きこもりの俺が、赤ちゃんの名前の話題を振られるだなんて…。


「騒がしいぞ」


女王が部屋に入って来た。

第一声がこれだからよっぽどの騒々しさだったんだろう。

俺の記憶の最後に残る女王は町娘の格好だったが、今は薄着ながら装飾の多い初対面時と同じ服装に身を包んでいる。

やっぱりそれが似合ってるよ。


「スカルベルちゃん。

どうしたの?」


「ん?おおシツ。

目が覚めたのだな」


「はいぃ、とっくに……」


「とっても元気だったわよ」


メツェンさんがニッコリと笑って言った。

笑ってはいるけれど、正直ちょっとだけ怖く見えてしまう。


「元気だった、とな?」


「女王っ!何か用ですか!?」


何故かと聞かれたら答えられないが、俺はその話題に触れて欲しくなかった。

2人のやり取りを無理矢理断ち切り、展開を加速させて誤魔化す。


「……これより町の者を集めて報告を行う。

そなたら3人にも参加して貰うぞ」


「私達もですか?」


「も、どころでは無いぞ。

むしろそなたらが報告の中心となるからのう。

引きずってでも連れて行く」


「あらあら、スカルベルちゃんったら怖いわね。

シツちゃん行きましょ?」


メツェンさんが俺の手を取った。

俺は桃色がかった何かを思い出しそうになり、緊張で全身を硬直させる。


「ひゃい!」


「うふふふ」


メツェンさん、ひょっとして俺の反応楽しんでます?


「がうがう!」


「おお、そなたも来てくれるのじゃな。

時にメツェンよ、この小娘の名は何と申す?」


「私にも分からないの。

がうがうとしか喋ってくれなくて……」


「そうか。

それも後でどうにかするとして、先ずはわらわに付いて参れ」


女王が部屋を出たのをきっかけに、俺達も続いて彼女の背中を追う。

廊下を歩いている間も、ロリっ子はメツェンさんにべったりだった。


「あの、女王」


「何じゃ?」


先頭を歩く女王に呼びかけると、彼女は前を見たまま背中で答えた。


「俺の武器が魔法武器だって聞いたんですが、本当ですか?」


「雑草を操ったあの奇っ怪な攻撃を、魔法武器と呼ばずに何と呼ぶか。

そもそもラスティアンを倒せるのは、AAの直接攻撃及び魔法、そして魔法武器のみじゃ。

そなたのあれは正真正銘魔法武器であるぞ」


「成る程……」


ここで女王が首を曲げ、俺をチラ見してくる。


「今後はそなたに魔力操作の訓練を付けてやらねばなるまい。

また倒れられては面倒じゃからのう」


「すみません……」


なんか叱られたっぽかったので、俺は自分のウィッグをさすって謝罪。

いつの間にか、女王は正面に向き直っていた。


「何も咎めてなどおらぬ。

ラスティアンの大群を全滅させた事、褒めてつかわすぞ」


「へっ?ありがとう……ございます」


「シツちゃんホント凄かったわよねぇ。

もうクラス3で良いんじゃない?」


「がうがう」


「あはは……」


「それは言い過ぎじゃ。

クラス3昇格ははまだまだ先になるぞ」


「それじゃあスカルベルちゃん、今回の大掃除でシツちゃんはどれくらいクラス3に近付けたのかしら?」


女王は肩越しに右手の人差し指を立て「10パーセントじゃな」と答えた。

あんだけ倒したのに1割ってマジですか女王。

その審査、まさかとは思いますが昇格させるのをケチってないでしょうね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る