第30話 アンジェネリックホー

俺がロリっ子と揉めている間にゾデが戻って来た。

ゾデは町から武器を持って来てくれていて、剣を俺に向かって投げ付ける。

しかし、その剣をなんとロリっ子に奪われてしまった。

しかも武器を得たからか、ロリっ子はやる気満々で俺に迫る。


「がぁうっ!」


ロリっ子の乱暴な横薙ぎ。

俺は後方に飛び退いた。

後方に居たカニが俺に押され、周囲に小さなスペースが出来る。

この程度の接触だと、謎バリアーも発動しないらしい。


「がう!」


次にロリっ子は剣を両手で握り、頭上に高く掲げて跳躍。

ダイナミックな攻撃だが、それだけに避けるのは容易。

しかし、俺は避けるのとは別の対策を咄嗟に思い付き、実行に移した。


『キィン』


真剣白刃取り。

俺に向かって真っ直ぐ振り下ろされた剣にタイミングを合わせ、両手で剣の腹を挟み込む。

アンジェネリックフルメイルで強化された腕力の助けも有り、俺はロリっ子の剣撃を封じる事に成功した。


「うがぁ!?」


着地したロリっ子は茶色い目ん玉をひん剥いて驚き、俺の両手を振り解こうと剣を引っ張る。

俺も負けじと剣身を握り締め、俺達の争いはちょっとした綱引きに発展した。


「離せ!」


「がううーっ!」


単純なパワーだけなら俺が優っていそうだけど、対するロリっ子も中々にしぶとい。

俺はここで、更に別の対処法を閃いた。

遠心力を利用するのだ。


「おらぁ!」


「がう!?」


俺はありったけの力を腕に込め、柄を握るロリっ子諸共剣をグイッと振り回した。

ロリっ子の体が宙に浮かぶ。

推定11歳の暫定小5ロリであるだけに、本人の体重はかなり軽い。

全力を出せばここまでやれるみたいだな。

普段の俺からはとても考えられないパワーだ。


「うおおおお!」


勢いづいた俺はジャイアントスイングに突入。

ロリっ子はそれでも剣を離そうとしない。

グルグルと回る視界には、剣の柄を握り目を回すロリっ子と、鮮やかな赤色のカニ、カニ、カニ、カニ。


「がああっ!」


5回転目くらいか、遠心力に耐えかねたロリっ子が剣から剥がれ、ひしめくカニの海へポーンとすっ飛んで行った。

AAならラスティアンの群れに突っ込んでも平気だし、それにこれ以上妨害者の心配はしてられない。

あっちはあっちで何とかして貰うとして、俺はこの隙に本格的なカニ退治を進めなくちゃな。


「……あ」


今俺はアンジェネリックフルメイルを装着しているので、一点物であるアンジェロッドは当然手元に無い。

アンジェネリックソードに換装するには、まずフルメイルを解除しなければならない。

だが。


「解除……どうやるんだ?これ」


一旦落ち着こう俺。

原作のアンアンは、戦闘終了時に何もせずとも勝手に融合が解けていた。

とは言え、作中では戦闘中に武器を換装する展開も有った筈。

その時彼女はどうやっていたか。

無言であっさり解いてました。

念じれば良いのか?

早速念じてみよう。


解除終了換装分離無効取消。


「……違うな」


どうすりゃ良いんだろう。

モタモタしてるとまたロリっ子が襲いかかって来るぞ。

こうなりゃもうド直球だ。

俺は上体を逸らし、無い胸一杯に大きく息を吸った。


「アンジェロッド、融合解除っ!」


叫び終えた瞬間、例の強烈な閃光が。


「……やった!」


カランカランと高い金属音を伴い、ゾデから借りていた銀のフルメイルのパーツが俺の体から転がり落ちて行く。

いつの間にかゾデの剣も落としていた。

そう簡単には脱げなさそうだが、足元には既に兜が。

中で押さえ付けられていたのか、頭上で天使の輪っかが上下に揺れているのを感じる。

胸に手を当てると、ちゃんとアンジェロッドがぶら下がっていた。


「よし!」


俺は直ちにペンダントを首から外し、閃光に備えて左手で目を隠しつつ、右手に握ったアンジェロッドを地面の剣に突き立てる。


「っく……」


毎度毎度凄く眩しいの、何とかなりませんかね。

ここは原作再現しなくて良かったと思うんだけど。


「出来た!」


毛ガニの時と全く同じデザインの、アンジェネリックソードだ。

柄を握って拾い上げると、やはり体が軽くなる。

さっきまでのフルメイルは重量が有るので、こっちの方がより軽快に動けそうな気がする。

さてさて、ここから巻き返すぞ!


「ええいっ!」


カニに合わせた低めの姿勢で突撃し、豪快な横薙ぎを叩き込む。

斬撃は剣身の長さ以上に広範囲を襲い、前方4、5メートル範囲に居るカニ達の甲羅を容易に斬り開く。

食用のカニであれば、あのまま網焼きにでもしてカニ味噌を堪能出来そうだ。


そんな要らん事を考えている間に、斬られたカニ共が消滅。

一振りで軽く10匹以上を撃破し、俺は高揚した。

さあ、この調子で全滅させちまおう!

俺は勢いづき、ロリっ子そっちのけでカニの大群相手にまさしく無双した。

毛ガニ戦は狩ゲーだったが、今度はマジで無双ゲーみたいだ。

ひたすら無双を続ける。

最初の爽快感は、次第に薄れつつあった。


「……疲れたぁー!」


もう千匹以上倒しただろ!

どんだけ居やがるんだよ!

一向に数を減らさないカニ共に俺は激萎えし、戦闘中にも関わらず草の上に仰向けで寝転がった。

真上に昇るお日様が眩しく、俺は腕で目を隠した。

マジで日が暮れちまう。

もしかしてこれ、無限湧きっすか……?


「ゾデさん!」


もうさっさと終わらせたい。

ゾデの手も借りたいくらいだ。

俺はゾデを大声で呼んだ。


「どうしたシツ!」


「別の武器無いですかぁー!?

剣じゃキリがありませんよ!」


「そうか!

これならどうだ!」


「お?」


ゾデがまた何かを投げてくれたみたいだ。

目の覆いを解いて目を細め、青空を見上げる。

何か飛んで来るな。

長い棒の先に、鉄っぽい黒色の三又が直角で付いている。

このまま寝転がっているとちょい危なそうなので、俺は起き上がってその場から離れた。


『ザッ』


小気味良い音を立てて、三又のそれは地面を抉り停止した。

俺は「アンジェロッド融合解除!」と叫び、解除時の閃光に耐えながらそれを掴み取る。

直接身に纏うフルメイルと違ってソードは手持ち武器なお陰か、アンジェロッドは胸ではなく右手に握られていた。

手間が省けて助かるが、それなら閃光も何とかしてくれよ。


「ゾデさん、これは?」


「鍬だ!

畑を耕し植物を植える為の農具だ!」


「農具ぅ!?」


俺はゾデの声がする方を見て繰り返した。

フルメイルは武器でこそなかったが、一応戦闘用のアイテムではあった。

所が今度のこれは戦闘用ですらなく、ただの農具。

剣や槍が足りなければ、こう言った物を代用するのも頷ける。

でも飽くまで代用なんだよなぁ。

正直あんまり期待出来ないが、やるだけやってみよう。


「ああもう!」


この閃光何とかしてくれホントに!


「……うーん」


完成したのは、先端の三又に翼、その少し下の棒部分に天使の輪っかを備えた、とってもファンシーな鍬。

アンジェネリッククワ?

語呂が悪い上に頼りない。

如何にも攻撃範囲が狭そうなこれを使うくらいなら、剣の方がずっと効率良いんじゃないか……?


「どうだシツ!?」


「弱そうです!

でもやってみます!」


俺は両手で鍬を構え、頭上に振り上げてカニを狙った。

見事直撃し、AAの特効も問題無く発動。

カニは白いチリと化した。

しかし、やっぱり一振りで1匹しか倒せないじゃないか。


「ああー、要らん!」


投げ捨てたい衝動に駆られるも、俺は再度鍬を振りかぶる。

その時、前方のカニ共がザザッと動いて道を開けた。


「ん!?」


「がおー!」


ロリっ子がカニを蹴散らし、四つ足で走って俺に突っ込んで来る。

またかよ。


「はあ……」


ロリっ子のしつこさに俺は溜め息を漏らしつつ、取り敢えずやっちゃおうと鍬を投げやりに振り下ろした。

しかしロリっ子が暴れた余波でカニが混乱、激しく動き回っていた所為で俺の鍬は狙いを外し、勢い余って地面に突き刺さった。

次の攻撃より先に、ロリっ子を何とか凌がなくちゃな。


「んな……?」


可笑しい。

何が起こったんだ。


「がう!?」


ロリっ子も異変に気付いてか立ち止まった。


「草が……伸びてる!?」


鍬が刺さった場所を中心に、地表を覆い尽くしている雑草が急激な成長を遂げた。

精々俺のニーソの脛をくすぐる程度だった雑草が、今や俺の身長を軽々と追い越し、更にグングンと伸びて成長を続ける。

高さだけじゃない、草の横幅も常軌を逸脱した規模まで広がり、その上で人間2人が横並びに寝転がれる程。

ダブルベッド級だ。


「がう!?がうがう!?」


超常現象を前にロリっ子は慌てふためき、右へ左へと首を動かしている。

原作でのアンアンは破天荒なキャラだが、こんなのも有り得るのか。


「カニが……」


日を遮り、俺達に濃い影を落とすまでに成長した雑草がグネッとひん曲がり、根元で蠢くカニの1匹にグルグルと巻き付き包み込む。

巻き付いた草はギュッとカニを締め付け、遂には白いチリにしてしまった。

AAのラスティアン特効が働いた証だ。

状況を理解した俺は万歳し、先行して勝鬨を上げた。


「俺の勝ちだぁーっ!」


いやあ、まさかまさかの大逆転。

第一印象こそ頼りないと思われたアンジェネリッククワだが、農具である点を活かして大自然を味方に付けたとは恐れ入る。

あちこちで雑草がカニを捕らえ、同様に締め付けて消滅させていく。

俺は爽快感と解放感を噛み締め、背中に倒れ込んで生い茂る雑草に体重を預けた。

……いやいや、そこまでするつもりは……あれえ?


ロリっ子の「がう!」を最後に、俺の意識は途切れた。

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