第29話 流れ作業
メツェンさんを女王に預け、俺は再度カニの大群へ突撃した。
アンジェネリックアースブレイカーをお見舞いするつもりが、飛び蹴りの体勢で迫るロリっ子に釣られてアンジェネリックエアレイドに急遽変更。
結果俺達は互いに衝突を逃れ、カニを踏み潰しつつ着地した。
この子、何故かは知らないけどやっぱり俺を敵視してるみたい。
「がうがう!」
「俺は敵じゃないって!」
明らかな敵意を込めて吠えるロリっ子に、俺は反射的な返事をした。
しかし、ロリっ子飛び蹴りを俺との会話が成立しないのはもう分かってる。
なら言葉じゃなくて、行動で示した方がまだ伝わるだろう。
俺はロリっ子に敢えて背を向け、手近なカニを蹴り潰した。
カニのサイズは精々俺の膝くらいまでしかないので、攻撃手段は自然とローキックが多くなる。
「がう!?」
「言ってるだろ!
俺は味方だ!」
1匹、また1匹とカニを蹴る俺。
これでロリっ子も少しは俺への警戒を解いてくれるだろうか。
それにしても何だよこの数は。
蹴ったカニの10匹から先を、俺は数えないようにした。
「……な!」
一旦カニ退治の手……いや足を止め、ロリっ子の方を確認してみた。
野生児は俺をも攻撃して来るが、ひしめくカニ共だって攻撃対象な筈だし実際何度も踏み潰している。
敵の敵は味方……だよな?
「がう!」
またまたカニが飛んで来る。
敵の敵も敵ですか。
「んもぅ!」
不満と怒りを混ぜて声に出し、眼前に迫るカニをアッパーで迎撃。
カニは吹き飛ぶ事も無く瞬時に粉砕され、勢い余った俺は自分の背丈程の高さまでジャンプし、空中で横に1回転した。
格闘ゲームで良くある地対空技みたいだね。
「だからーーー」
また次のカニだ。
今度は無言で中段回し蹴りを放った。
俺は武術の訓練なんか微塵もやった事ないんだけど、ごく自然に出ちゃうと言うか何と言うか。
アンジェロッド様々である。
「がうー………!」
ロリっ子の茶色い眼が俺を睨む。
俺だって永遠に戦えはしないんだからさ、せめて先にカニ退治しようよ。
頼むよ。
俺の祈りは天に通じず、ロリっ子はまたまたカニを拾い上げている。
仕方無い。
そっちがその気なら俺も。
「がう!がう!がう!」
何度カニを投げても俺へのダメージを稼げないと知ったロリっ子は、ならば数で勝負だと言わんばかりにカニ連投モードへ移行した。
カニのすぐ近くに立ち、拾っては投げ拾っては投げの機械的作業を繰り返す。
「はっ!はっ!はっ!」
俺は腰を落として堂々と構え、カニが飛んで来る度にその都度正拳突きを放って撃ち落とした。
この戦況を俯瞰すれば仲間割れにもなるだろうけど、ロリっ子が投げたカニを俺が倒す奇妙なこのコンビネーションは、ある種の流れ作業と言える。
作業と言っても、それぞれがカニを踏み潰して回った方が絶対効率良いけどね。
グダグダといがみ合うよりは幾分かマシだ。
俺達は流れ作業を続けた。
「がう!がう!がうがう!」
「なあ!いつまで!続けんだよ!」
ついつい会話のテンポもカニに合わせてしまう。
頼むよ、俺は敵じゃないって分かってくれよ。
ただでさえ相手は大群だってのに、こんな事してたんじゃあ日が暮れちまうっての。
「シツぅー!」
「ゾデさん!?」
姿はまだ見えないが、今のは間違い無くゾデの声だ。
フルメイルを俺が借りてる分、体が軽くなって何時もより速く走れた事だろう。
女王にメツェンさんを預けた時ゾデはその場に居なかったけど、確か武器を取りに戻ってるって女王が言ってたな。
このフルメイルは身体能力こそ上がってその点は便利だが、攻撃手段が肉弾戦に限られてしまう為、正直言ってこのカニの大群とは相性が悪く感じる。
1発で広範囲のカニをやっつけられる様な、何かしらの大技を使える武器が欲しい所だ。
「町から武器を持ってきた!
今からそっちに投げるぞ!」
「はい!」
カニを殴りながら返事をする俺。
「ええいっ!」
気合が入ったゾデの声に遅れて、上空に銀の剣が飛び上がった。
回転し、日光を乱反射して不規則に煌めく剣が非常に良く目立つ。
あれなら一振りで2、3匹倒せそうだ。
そうなればフルメイルより効率は上、乗り換えて損は無い。
ゾデのコントロールは中々の物で、俺達の居る辺り目掛けて落下して来る。
『ガッ』
剣が左前方の地面に突き刺さった。
俺がそれを拾おうと動いたまさにその時、4匹ものカニが纏めて飛んで来る。
「おわぁ!?」
何度投げても駄目なら、お次は大増量っすか。
数の多さに驚いた俺は、本能的に腕を交差させて防御の構えを取った。
『ガギィン』
あ、謎バリアー。
わざわざ防御なんかしなくても良かったんだ。
むしろ1匹でだけでも潰すべきだったな。
俺が自分の判断力に軽く呆れていると、視界の片隅でキラリと反射光。
「んなっ……!」
足元で転げ回るカニも無視してそちらに目をやると、なんとロリっ子がとゾデの剣を引き抜き握っているではないか。
ただ、握ったは良いが用途は理解していないらしく、素人目に見ても剣術とは程遠い、まるで棍棒を握っているような引きずる仕草だ。
野生児とか原始人なんて言葉が似合う粗暴な彼女なら、それも納得が行く。
「がうがう……」
「なっ……何だよその得意げな顔……」
「がぁう!」
剣を握ったロリっ子が俺に迫る。
相手はラスティアンじゃないから、謎バリアーや特効は無意味。
アンジェネリックフルメイルだけで、果たしてどこまでやれるか。
てか、やっちゃって良いのこれ……?
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