第28話 VSロリっ子

カニの大群の中からメツェンさんを発見した俺は、胸の高鳴りを堪えながら彼女を抱き上げる。

アンジェネリックフルメイルのお陰で身体能力が上がっているから、苦も無く軽々とね。

しかし、何を思ったのかそこにロリっ子が襲いかかって来た。


「くっ!」


とりあえず無駄にぶつかる訳にも行かないので、後方に飛んで避ける。

狙いを外したロリっ子は草の上に着地。

フルメイルな俺と対極とも言える半裸装備の彼女、中々に軽い身のこなしだ。


「がお!」


そしてすぐにまたこっちへ。


「落ち着けよ!」


俺はメツェンさんを抱いたまま、真っ直ぐ突っ込んで来るロリっ子を飛び越した。

着地点にカニが居たのでついでに踏み潰しておく。

直後に俺が振り向くと、飛び越されたと気付いたロリっ子の方もこちらを振り向いていて、俺と目が合った。


「がるるるる……」


ロリっ子は獲物を襲う寸前の猫のように姿勢を低くし、四つ足を地面に着いて唸り声を上げる。

剥き出しのギザ歯とギラギラした茶色い眼を見て、野生児なる単語が頭を過ぎった。

俺が地球の名を挙げた時のゾデの反応からしても、彼女が俺の母星である地球以外の星からここに来たと推測するのは妥当に思える。

SFは俺の趣味じゃないけれど、空想が捗るなこれは。


「待て!俺はお前と戦わない!

むしろ味方だ!」


「……がう?」


戦闘する意思が無い事を訴えると、ロリっ子は目を細め首を傾げている。

時に俺は、この異世界に来てから言語で困った試しが無い。

恐らくは、俺の転生に関与している親切な誰かが気を利かしてくれたんだと思う。

だがこのロリっ子は異言語以前に言語自体が怪しい。

だってこの子、最初に見た時からがうがうしか言ってないんだもん。

『言っている』と表現するのもどうなんだか。


「俺はこの女性を助けに来た!

お前には手を出さないと約束する!」


「がうがう?」


駄目だ。

もしかしたらだが、俺の言ってる意味はロリっ子に伝わってるのかも知れない。

問題は彼女の放つ言葉が俺には『がう』としか認識出来ない点。

とりあえず大人しくはなったが、もういっそ無視を決め込むか?


「俺は一旦逃げて、この女性を安全な所に送ってからまたここにに戻る。

そしたら一緒に戦おう!」


「がう……」


「じゃあな!」


俺は適当に会話……いや会話を試みるのを終え、ロリっ子に背を向けた。

謎バリアーとAA能力、それにアンジェネリックフルメイルの運動性が合わされば、メツェンさんを抱えていても脱出は容易だろう。

俺はメツェンさんをしっかりと抱きかかえ、カニの大群に再突入した。


「がうがうがぁー!」


えっ、何この激しい声。

もしかして怒ってるの?

期待はしてなかったけど、俺の意図がこれっぽっちも伝わってないじゃん。

俺は若干萎えつつも、大群の先頭に居るカニを蹴飛ばした。


『ガギィンガギィンガギィン』


謎バリアーの連発がカニを跳ね飛ばし、俺とメツェンさんの逃走経路をこじ開けてくれる。

回数制限とか無けりゃ良いんだが、このバリアー。

これはAA共通の能力みたいだし、後でゾデ達から詳しく聞いておかなくちゃな。

まだまだ俺はこの異世界について、知らない事が多過ぎる。

不意に思い出したけど、ロリっ子が転生した時にゾデが漏らしていた『ジリンジャー』ってのも気になるし。


『ガギィン』


「後ろっ!?」


間違いなく今さっき、俺の背後で謎バリアーが発動した。

何事かと振り向いてみると、ロリっ子がカニを両手で持ち上げ、頭上に掲げているではないか。

もしかしてさっきのバリアーは、ロリっ子が俺達に向かってカニを投げ付けたってのか?

そうでした。

何故言い切れるのか、それは第2投が来たから。


「何でだよっ!」


俺はキレ気味になりつつ、投げ付けられたカニを中段回し蹴りで迎撃。

AA能力によって、当然カニは白いチリと化す。

ロリっ子が次なるカニに手を伸ばしているのが見えたので、俺は説得を諦め彼女を敵として扱う事に決めた。

俺がお前に何をしたってんだよ。


「がうー!がうー!」


俺が逃げの一手を決め込んでからも、ロリっ子はがうがう言いながらカニを次々と投げ付けてくる。

その都度謎バリアーが弾き返してくれるので、俺は背中を気にせず正面突破する事だけに専念した。

やがてカニも飛んで来なくなり、俺は大群から脱出。

丘の上に居るゾデ達にメツェンを託そうと近寄るも、そこには女王1人のみ。


「女王、ゾデさんは?」


「ゾデは武器を取りに町へ帰っている。

その女はメツェンであるな」


「はい。

女王、メツェンさんを頼みます。

俺は戦って来ますんで」


半ば一方的にメツェンさんを押し付け、俺はすぐに戦場へ戻ろうとした。


「待てシツ!」


「何ですか?」


俺はイラつきながらも足を止めて振り向いた。

またコスプレ云々の話じゃねえだろうな、元女王の現爆乳盗っ人町娘さん。


「ゾデから聞いたが、少女のAAはどうなっておるのだ?」


俺はカニの大群を指差し、「あの中です」と答える。


「ほう、あれだけの大群と早速戦ってくれておるのか。

関心じゃのう」


「でも様子が可笑しいんです。

会話が通じないし、俺達にカニを投げて来たりして……」


「ふむ、文明が未発達な世界からやって来たのかも知れんな」


「反応軽いですね……そろそろ行きますよ!」


返事を待たずに俺は駆け出した。


「1匹残らず始末して参れ!」


「無茶言わない!」


背中で答え、走り続ける。

ロリっ子に気を取られているのか、カニの大群は今でこそ草原に溜まっているけど、町まで襲って来ない保証なんかどこにも無い。

数えるのを諦めるくらいの大群を1匹残らずってのは無茶な相談だが、実際問題真の平和を目指すなら全滅させてなんぼだよな。


前方にカニの大群が再び迫る。

またアンジェネリックヘルムブレイカーをかますのは芸がないから、何か別のアプローチを試みたい。

やや近いが手刀を叩き込むってのはどうだろうか。

さっきはヘルムブレイカーだったから、今度はよりスケールアップしてアースブレイカーにしよう。

身体能力が上がってるからって星を割れる筈も無いから、かなりの誇張表現ではあるけれど。

毛ガニ戦での失敗以降、もう2度と技名を叫んだりしないと決めてるから実はどうでも良いんだけどね。

さあ行くぞ。


「がうーっ!」


カニの中からロリっ子が飛び出し、俺に戦隊モノ宜しく飛び蹴りの体勢で襲い来る。

俺は彼女のノリについ乗っかってしまい、同様に飛び蹴りで返した。

俺が飛んだ事でロリっ子の計算が狂い、俺達は互いの飛び蹴りを外し空中で交差した。

何でやねん。

AA同士で争っとる場合と違うのに、無駄にカッコ良いやんけ。


……第2回戦の初撃はアンジェネリックアースブレイカーじゃなくて、アンジェネリックエアレイドでしたね。

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