第27話 アンジェネリックフルメイル

転移魔法で逃げられるアクシデントを挟みつつ、何とか女王からアンアンコスを取り戻した俺。

早速着替えたのは良いけれど、本当にこれだけでAAの力を取り戻せているのだろうか。

アンジェロッドが発動できれば復活と言って良いだろうから、何か融合出来そうな物が欲しい所。

生憎ゾデは剣を持っていなかったが、俺はゾデが身に纏っているフルメイルに着目した。

断られる覚悟で申し出ると、ゾデはこれを二つ返事で快諾。

見事なまでの肩透かしである。


「本当に良いんだな、ゾデ」


「構わない。

メツェンの命がかかっているから、やるなら早くしろ」


おいおい、断るどころか催促されちゃったよ。

ならもうやるしかないな。

俺はペンダントを首から外し、アンジェロッドを握ってその先端をゾデに向ける。

ゾデは軽く大の字になり、アンジェロッドを受け入れる気満々だ。


「行くぞ」


「来い!」


この手のものは気合が大事だと俺は考えている。

それこそ俺はゾデに体当たりするような勢いで迫り、胸のど真ん中にアンジェロッドを突き立てた。


カッ、と強烈な閃光が辺り一面を瞬時に飲み込む。

とても目を開けてはいられないし、目を閉じていても光が強く染みた。

まともに前を見れたのは4、5秒ほど経った後で、俺が顔を歪め瞬きを繰り返しながらどうにか目を開けると、視界全体が薄いピンク色がかっていた。


「何だぁ!?」


俺は驚き、自分の顔に手で触れる。

一体感が凄過ぎてすぐには気づかなかったけど、元が元なだけに今の俺もフルメイルを装着しているらしい。

この視界のピンク色は、両眼を覆うバイザー様のパーツがそうさせているみたいだ。

更に確認出来るだけでも胴回りやつま先、そして肩から指先に至るまでがゾデとは異なった新規の鎧で覆い包まれている。

元の銀を基調に、アンアンの白とピンクが取り入れられたデザインは、やはりと言うべきかファンシー路線。

アンジェネリックフルメイルの誕生だ。


背中の翼は柔らかいから良いとして、天使の輪っかはどうなったんだろうか。


「シツ、その姿は……」


さて、鎧を脱いだゾデはどんな姿をしているんだろうか。

流石にスッポンポンではなくて、上下共に黒と青、厚手の暖かそうな服で身を包んでいる。

ここイサファガは寒い地方でも寒い季節でも無さそうで、一皮向けたゾデの格好は暖を取り過ぎている様にも見える。

普段はあの上に更にフルメイルなのだから、尚更暑いに決まってるのに。


正直拍子抜けだったが、視界を確保するだけの隙間を残して顔を黒い布でグルグル巻きにしているので、そこからだけは何らかの事情が察せられた。

騎士だと思ってたけど、ひょっとするとジャパニーズニンジャなのかな。


「おお、ゾデの鎧が変化したのじゃな……」


「アンジェロッド成功です、これならラスティアンと戦えます!」


俺は右手を突き出し、グッと握って見せた。

ソードの時もそうだったが、普段より体が軽く感じられる。

今回は肉弾戦が予想されるからか、握力も強化されているみたいだ。


「それは良かった。

ではシツ、メツェン達を頼んだぞ!」


「メツェン達、とな?

他に誰かが襲われているのか?」


「その辺はゾデから聞いて下さい。

じゃあ……行ってきます!」


言うが早いか、俺はカニの大群に向かって走り出した。

フルメイルの持ち主であるゾデに負けじ劣らずのスピードで草原を駆け抜ける。

これは良い。

メツェンさん、もう少しだけ持ち堪えていて下さい。

必ず貴女を助けますから!


「うおおおお!」


あっという間にカニとの距離が縮まる。

俺はいの一番に何を食らわせるかを考えていた。

戦隊モノっぽく飛び蹴りでも良いが、敵はこちらの膝下くらいしかないカニなので当たりにくい。

そもそもハイやミドルの攻撃自体が通らない。

となるともうあれしかないな。


俺は距離とタイミングを計り、地を蹴ってカニの大群に高めの高度で飛び込んだ。

強化されてると分かっていてもこの跳躍力には驚かされる。

俺は勢いを殺さず空中で前回転し、右足を伸ばしてカカトを地面に振り下ろす。

AAシツの復帰戦最初の一撃は……アンジェネリックヘルムブレイカーだ!

アンアンコスな割に厳つい技名とか言わない。


『ドゴォッ』


俺のカカトはまず、1匹の哀れなカニを直撃し粉砕。

次いで衝撃が発生し、半径数メートル程の範囲に居るカニが空に投げ出される。

吹き飛んだカニの内数匹はその衝撃に耐え切れず、地面への落下を待たずして空中でチリと化した。

残りのカニは地面に落下し、またも数匹が消滅。

生き残ったカニも足がもげたり甲羅が割れたりと散々で、泡を吹きひっくり返ってもがいている。


「よしっ!」


挨拶としては上々。

だけど自惚れてる場合じゃない。

兎にも角にも、まずメツェンさんの安全確保が最優先だ。


「メツェンさん!」


俺はメツェンさんの名を呼びながら、カニを文字通り蹴散らして突き進んだ。

AA能力を取り戻した俺にとってこの程度のカニなど無力に等しく、ラスティアンと戦っていると言う自覚さえ薄れていた。

今回の融合武器はフルメイルで、謎バリアーと併せてかなり堅牢だからってのも大きいだろう。


「がおうっ!」


「あっ……!」


ロリっ子がカニの中から飛び跳ねた。

結構な時間をラスティアンとの戦いに費やしてる筈だけど、まだまだ元気そうで何よりだ。

俺は更に加速した。

あそこにメツェンさんも居るのだろうか。

いや、居て貰わないと困る。

困ると言っても悪いのはラスティアン共であって、メツェンさんはただの被害者か。


「メツェンさんっ!」


やっと見付けた。

ロリっ子が暴れているお陰かカニの居ない円形の空間が出来ていて、その円の中心にメツェンさんの姿が。

彼女はうつ伏せ気味に倒れてはいるものの、幸運な事に目立った外傷は無い。

円の外から1匹のカニが侵入し、メツェンさんににじり寄るのが見えた。


「メツェンさんに……触るなぁっ!」


させねえよ。

俺はメツェンさんに駆け寄り、サッカーのペナルティキック宜しくカニを地獄のゴールへとシュートした。

蹴りそのもののダメージでカニは爆散してしまい、無様にすっ飛ぶ姿を拝めなかったのは少しばかり残念だ。

安全を確保した俺は、すぐにメツェンさんを伺って側にしゃがみ込む。


「メツェンさん!メツェンさん!」


俺はメツェンさんの名を何度も呼びつつ、彼女の肩を揺すった。

息はあるみたいだが、中々反応を示してくれない。

気を失っているんだろうか。

まあ、仮に自分で立てたとしても……だ。

AAで無い彼女が、単独でこのカニの大群から脱出する事はまず不可能だろう。

なら俺が連れ出すまでだ。


俺はメツェンさんを抱き上げる為に、まず彼女を仰向けにしようと肩に触れる。

自分から、それも鎧越しに触れたのにも関わらず、俺は動揺し心臓を高鳴らせた。

そんな感情に浸ってる場合か!

俺は煩悩を散らすべく頭をブルブルと振り、両方の頬を両手でそれぞれ叩いた。

……兜だから意味無かった。


「何やってんだ俺……」


好きな人に触れるのが、ある種こんなにも辛いなんてね。

人命を奪いかねないモンスター相手には立ち向かえてるのに。

全く可笑しな話だ。

さあ、とっとと覚悟を決めよう。

俺は大きく深呼吸をして、メツェンさんの姿勢をうつ伏せから仰向けに変え、彼女の背中と膝裏に腕を差し込んだ。

条件反射でゴクリと唾を飲み込む。

物理的問題に限れば大して踏ん張る事も無く、俺は軽々と彼女を抱き上げた。


「がおーっ!」


直後、ロリっ子が俺に、俺達に飛びかかって来た。


「何で!?」

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