第25話 丘の上の女王

俺が少し目を離した隙に、女王はアンアンコスを着たまま忽然と姿を消した。

ゾデ曰く、女王は転移魔法を使って逃走したらしい。

ゾデも軽く触れていたが、病み上がりの癖にそんなつまらない意地っ張りで魔力を消費する奴があるかよ。

アンアンコスを奪還出来なかったので非常事態は今尚変わらず、俺はゾデタクシーに乗って地上へ。


女王を探して辺りを一望したが、影も形も見当たらない。

その代わりに、遠くの草原一面を埋め尽くす赤色が俺達の目を奪った。


「あれが全部ラスティアンなのか……」


「凄いですね」


ロリっ子AAの登場は嬉しい誤算だったけど、あれだけの大群相手では焼け石に水と言うもの。

一刻も早く女王をとっ捕まえて、アンアンコスを取り戻さなくちゃ。

上手く取り戻せたとしても、それで必ず力が復活する保証も無いってのに。


「ゾデさん、女王の行き先に心当たりあります?」


「この町に女王を知らない者は居ない。

すぐ騒ぎになるから、民家に隠れているとは思えないんだが……」


『ボゥンッ』


カニの大群の方で爆炎が上がった。

毛ガニの時より距離が近いからか爆炎の規模は大きく感じられ、炸裂音もハッキリと聞こえた。


「あれって!」


「女王、まさか……!?」


いくら無鉄砲な女王であっても、あの数を前にして何の勝算も無しに攻撃魔法を放つだろうか。

と言うか、全然魔力有るんじゃん。

魔力補給になると噂のイキリダケでも食べたのか?


「シツ、乗れ!」


「分かってます!」


ゾデと俺の一体感にも中々磨きがかかってきている。

俺を乗せてたゾデタクシーは、女王が付近に居るであろうカニの大群目掛けて走った。


考えたくはないが、これだけもたついてたんじゃあメツェンさんはもう手遅れかも知れない。

知性に不安を感じるロリっ子AAが、メツェンさんラスティアンから守る戦い方をしてくれるのかについても不安は拭えない。

だけど女王があそこに居る以上、彼女そのものもそうだが彼女が着ているアンアンコスの為、俺達は行かざるを得ないのだ。

大迷惑だよ全く。


「シツ!僕達はアンアンの服にこそ、シツのAA能力の源が有ると見ているよな!」


「はい!」


「シツはそれをどこまで女王に話した?」


「その衣装を着てたら戦えるかもって……。

それが何か?」


「女王は曲解した可能性が有る!

アンアンの服を着さえすれば、誰でもAAになれるのかとな!」


「ええっ!?」


その発想は無かった。

もしゾデが言ってる通りなら爆乳天使アンアンの誕生かよ。

アンアンはひんぬー主人公なのに。


「女王!」


ゾデタクシーが速度を徐々に落としていく。

カニの大群をやや遠くから見下ろせる、小高い丘の上に女王は立っていた。

やはり彼女はアンアンコスを着ている。

天使の輪っかはウィッグと一体なので俺の頭上に有るんだけど、コスチュームから直接生えている一対の白い翼が、そよ風を受けてピコピコと揺れ動いていた。


「女王!我々と共にお逃げ下さい!」


「何だゾデ、もう追い付いたのか。

流石の俊足じゃな」


「女王!俺に嘘付きましたよね?」


ゾデタクシーから降りるより先に、俺は兜の影から顔を出して女王を問い詰めた。


「悪かったな。

この衣さえ身に纏えば、わらわでもラスティアンを倒せるのではないかと踏んだのじゃが」


ゾデの推理は当たっていた。

ゾデが女王に歩み寄る素振りを見せたので、俺は邪魔にならないようゾデから離れてパッと後ろに飛び降りる。


「手応えの程は?」


ゾデの問いに、女王は目を伏せフルフルと首を振って否定する。

次に右手を突き出し、カニの大群へと狙いを定めた。

直後、女王の右手のひらで小さな火がボッと燃え上がり、そこから発生した一筋の火花が、空中を目にも留まらぬ速さで駆け抜けた。


『ボゥンッ』


爆炎が炸裂し、カニの大群がブワッと弾け飛ぶ。

メツェンさんを巻き込まないでくれよ、女王。

距離が遠く視認し辛いが為にどれだけのダメージを負わせられたのかは不明だが、ラスティアン消滅時の白いチリは何処にも見られなかった。


「見ての通りじゃ。

これを着ているだけでは、わらわはAAに成れぬ」


「やはりシツが着ていなければ……」


女王は早歩きで丘を下り、自分から俺たちに向かって来る。

AA能力を得る目論見が破綻してしまったから、観念して俺にアンアンコスを返すつもりだろう。


「……シツ」


「はい」


女王は俺の目の前に立ち、俺の金髪セミロングに指を絡ませて掬い上げた。

彼女の指から金髪がサラサラと零れ落ち、元の一つの束へと戻って行く。

仮にも男な俺は、アンアンコスの胸元で窮屈そうに潰れている爆乳に目が行った。

女王はやや顔を上げ、俺の頭上を見ている。


「……そのリングこそが本体なのでは?」


「良いから脱げっ!」


女王、諦めが悪過ぎやしませんかね?

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