第24話 女王探し

ラスティアンを倒せなかった理由を、俺達はアンアンのコスプレ衣装に求めた。

だが留守にしていた間に、衣装は俺の部屋から消えてしまっていた。

犯人は俺の衣装に固執していた、女王である可能性が非常に高い。

高いどころかまず確定で良いだろう。


「ゾデ、女王はどこに?」


「何故女王なんだ?」


「女王はアンアンの衣装を欲しがってましたから。

ぶっちゃけ1番怪しいです」


ゾデは俺から顔を背けた。

表情は兜に隠れて見えないが、まあ複雑な感じになってるとは思う。


「……主君を疑いたくはないのだが、否定できないな。

ひとまず女王の自室に行ってみよう」


「はい」


ゾデが先に部屋を出て、俺も後を追う。

代わり映えしない木製の地下道を何度も曲がり、俺が来た道を忘れてしまった頃、ゾデがある一室の前で止まった。

恐らくは女王の部屋なんだろうけどここにもドアが無いので、これは全部屋共通の設計なのか。

ゾデは迷わず部屋に踏み入った。


「女王!居られますか?」


返事は無い。

俺も中に入ってみると、何から何まで本当に俺の部屋と同じレイアウトで、隅っこに置かれている鏡付きの化粧台だけが唯一の違いだった。

女王ともなれば威厳を保つ必要も有るだろうから、これくらいは必需品だな。

パッと見た限りだと、ここには誰も居ないようだ。


「ここではないようだな。

シツ、僕は遠くの部屋を先に探すから、お前はこの近くの部屋を見回ってくれ」


「役割分担ですね」


「服が見付かったらこの部屋の前で合流するとしよう。

では」


ゾデが走り去って行く。

全く、ひたすらにエネルギッシュな奴だ。


「さて、女王。

出て来て下さい」


ベッドの下から「ひぇっ!?」と女王に良く似た声がして、

直後にガタッと言う物音も。

頭を打ったのか「痛たた……」と漏らしてさえいる。


「靴まで履いてるんですね。

リボンがはみ出てますよ」


ゾデは兜で視界が狭いから発見できなかったんだろうけど、

アンアンのシューズに使われているピンクリボンの端っこを、俺の眼はしっかりと捉えていた。


「くそう、これ程までに早く帰ってくるとは思わなんだ」


「ゾデは居ませんから、とりあえず出て来て下さい」


ゾデを引き止めなかったのは、女王の情け無い醜態をゾデに見させない為の配慮だ。

なんかもう、この人が哀れに思えて来てね。


「嫌じゃ」


「へ?」


「わらわはうら若き乙女であるのに、この国が貧しい所為でお洒落が出来ないのじゃぞ?

減る物でもあるまいし、1日くらい貸してくれても……」


俺の見た感じだと女王は20半ば。

うら若き乙女なる自己申告には、ちょっとばかし疑問が残る。

お洒落をしたくても出来ないつらさはまあ分かるが、だからと言って盗みは明らかに行き過ぎだし、間接的にAAの被害を拡大させてしまいかねないんだぞ。

まだ仮説だけども。


「駄目です。

メツェンさんの命がかかってますから」


「……何だと?」


「今俺、AAの力が使えないんです。

メツェンさんが草原でラスティアンの群れに襲われてるのに、俺は逃げてくるしかなかった。

その衣装を着てたら戦えるかも知れないんです。

だから早く返して下さい」


ロリっ子AAについて言い損なったが、言うと女王の我が儘を増長させそうだから、このまま一旦伏せておこう。


「それはまことか?」


「あー!しゃらくせえ!」


コスプレすれば戦えるのかどうか、早く試さないとメツェンさんが危ない。

俺はベッドの下に両手を突っ込み、女王の足首をガッチリ掴んだ。


「無礼な!」


「女王の言えた事じゃないですよ!」


女王は足をジタバタさせて抵抗してくる。

所詮女の力なので、俺は構わず問答無用で引っ張った。

性別の壁かな、競り勝てて良かった。


「ぎゃー!」


女王の全身がさらけ出された。

案の定、うつ伏せ状態の彼女はアンアンのコスプレ衣装を身に纏っている。

女王は細ボインだから、全体的なサイズは問題なかったらしい。

ある一点、いや二点が大問題だけどな。

俺からすれば、その大問題を抱えているが故に全く似合っていない。


「やっぱり……」


「く、くそう……」


女王は上半身を起こすと、自分を抱くような姿勢で後ずさりした。

今更そんな事したって、ここは狭い部屋だから意味は無いぞー。


「さあ、早く脱いで下さい。

人命がかかってるんですから。

脱ぐの手伝いましょうか?」


「破廉恥な!

わらわ1人で脱ぐから、部屋の外で待っておれ!」


女王が立ち上がる。

ごくごく当たり前だが、女王の爆乳はひんぬー専用のアンアンコスに全くと言って良いくらい収まっておらず、

かろうじて乳首が隠れている程度で、余った肉が今にもはち切れて溢れ出しそうだ。

おっぱいは嫌いじゃないんだけどさ、やっぱこれはデカ過ぎるって。


「約束ですよ?」


俺は目を細めながら部屋を出て、壁の向こうで待機した。

腕を組み、指で二の腕をトントンと叩く。


「脱いでます?」


「ああ」


「急いで下さいよ、ホントに」


「分かっておる」


「ニーソも靴も手袋も、兎に角全部ですからね」


……返事が無いな。


「まだですか?」


……やけに静かだ。


「女王?」


覗きと罵られるリスクを背負い、俺は部屋の中をそっと覗き込んで女王の様子を伺った。


「はあ!?」


女王が居ない。

アンアンコスを脱ぎ去った痕跡も見当たらず、女王毎完全に消えてしまっている。


「シツ、どうだった?」


「ゾデさん!女王が消えた!

アンアンの服を着たまま!」


「何!?

そんな事で女王が転移魔法を!?」


「ええー……」


何それ。

そんな魔法あんのかよ。

魔力切れてるんじゃなかったのかよ。

俺はガクッと脱力し、その場に崩れ落ちてしまう。

どうすんだよ、これ。

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