第23話 ロリっ子転生

メツェンさんのピンチに突如現れた、推定11歳の暫定小5ロリ。

挨拶代わりに「がおーっ」と吠えるギザ歯の彼女は、カニのそれよりも控えめで橙に近い赤髪を生やしている。

前髪は耳にかけているのか左右に分けられ、後ろの髪は頭上で丸い団子状に纏められているが、纏め方が完全ではなく数ヶ所から髪が跳ねていた。

注目すべきはその露出度で、胸と股間をかろうじて隠す程度の布地しかないと言う、歳の割に大胆過ぎる出で立ちだ。

彼女も俺と同じAAであるのなら、一体どんな世界から飛ばされて来たのかとツッコミを入れずには居られない……が、俺も他人の事言えませんよね。

何せ魔法天使ですから。


「うがーっ!」


ロリっ子はまたしても吠えながら、足元のカニをズドンと踏み付けた。

おいおいあいつ裸足かよ。

彼女に踏み付けられたカニは俺がテューマリウムを破壊した時と同様、白いチリになってフッと消滅した。

突然出現した事と言いさっきのガード音と言い、彼女はAAと見て間違いなさそうだ。


「うがっ!うがっ!」


最初の踏み付けで学習したのか、ロリっ子は次から次へとカニをひたすら踏み続ける。

裸足になるのは些か気が引けるものの、あの倒し方自体は中々爽快感が有って楽しそうだ。

俺もちょっとだけやってみたい。

今は無理だけど。


「メツェン!無事か!?」


傍らのゾデが叫んだのを聞いて、ロリっ子に気を取られていた俺はハッと我に帰る。

そうだ、あの中にはまだメツェンさんが居るんじゃないか。

AAがすぐ近くで戦ってくれているけど、これだけ多くのラスティアンに囲まれてるんだからとても安全とは言えない。


「メツェンさん!」


ゾデに続いて俺も叫んでみた。

しかし、メツェンさんからの返事は来ない。

がうがう吠えるロリっ子が、ひたすらカニを踏み潰しているのみ。


「畜生!メツェンさんが……」


ラスティアンへの怒りと自分への不甲斐なさから、俺は握り拳を震わせる。

歯を強く噛み合わせてカニの大群を睨んでいると、ゾデが俺の肩をポンと叩いた。


「シツ、そろそろここも危険だ。

メツェンの事はあの少女に任せて、僕達は逃げよう」


時間稼ぎにこそなっているが、AAが乱入してもカニの大群は前進を止めず、ロリっ子を迂回して俺達の方へなだれ込んで来ている。


「……ですよね」


「乗れ!」


ゾデが膝を折り俺に背中を向けている。

俺は「くっ」と漏らし、ゾデの背中に体を預けた。


「メツェンさん……」


人力車ゾデタクシーが出発進行し、後ろを振り返る俺からカニの大群とロリっ子が見る見る内に遠ざかっていく。

現在無力な俺は、メツェンさんの無事を祈った。

AA同士なのを除けば赤の他人だが、あの野性味溢れるロリっ子には是非とも死力を尽くして貰いたい。

さて、俺は一刻も早くAAの力を取り戻し、あのロリっ子と協力してメツェンさんを助けださないと。


「シツ、何故AAの力が出ない……原因は分かるか?」


「分かりません。

アンジェロッドも使えないし」


「そうか。

所でシツ、服を着替えたんだな」


もうロリっ子も見えなくなってしまったので、俺はゾデと同じく正面に向き直った。

相変わらずなこの速度であれば、町に着くまでにはそうかからない。


「はい。

それが何か?」


この非常事態な時に、何で衣服の話なんか振るんだよ。

お前なんかいっつもフルメイルの癖に。

そっちの方がよっぽど可笑しいだろうが。

走り出す直前の憤りも重なり、俺は声に怒りを含ませ、歯を剥き出しにしていた。


「あくまで仮説なんだが、

AAの力だけでなくアンジェロッドも使えないのなら、アンアンの衣装そのものがシツやロッドに力を与えていた……と言うのははどうだろうか?」


荒れ狂う俺の脳内に、一条の光が瞬いた。

なるほど。


「……それですよ、きっと!」


「喜ぶのはまだ早いぞしつ。

試すまでは仮説でしかないからな。

それじゃあ、脱いだ服の有る地下道まで飛ばすぞ!」


「はい!」


希望が見えて来たな。

さっきまでのイライラは何処へやら、俺は気持ち良くゾデに返事をした。

ゾデが走る速度を上げたので、俺はたまらず胸部装甲にしがみ付く。


あっという間だった。

俺が今朝女王と一緒に出た場所とは違うが、蓋を取るとそこは正しく例の地下道。

目指すは俺にあてがわれた部屋で、アンアンのコスプレ衣装は当然そこに有るんだが、まだ内部を把握し切れていないので埒があかず、結局は現地人のゾデが部屋まで案内してくれた。

もし俺1人だけだったなら、自室を見つけるのに何時間費やしていただろうか。


「シツの部屋はここだな」


俺は大慌てで部屋に飛び込み、ベッドの下から木箱を引きずり出した。

何でも入る大きめの木箱だが、今回は衣装ケースとして運用している。

俺は木箱の蓋を開けて中の服を取り出した。


「……ってこれ、メツェンさんから貰った奴じゃん!」


ノリツッコミの要領で、出て来た服をベッドへと投げ付ける。

木箱の中はそれ一着のみで、大事に仕舞ってある筈のアンアンのコスプレ衣装は、木箱の中から綺麗さっぱり消えてしまっていた。

まさかとは思うが、爆乳女王な誰かさんに盗まれでもしたってのか!?

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