第21話 VSクリスマスアカガニ
女王は余程俺の格好をを気に入ったのか、ふとした弾みで俺からコスプレ衣装を奪い取ろうとしてきやがる。
仮に譲ったとしても、その爆乳じゃ絶対着れないだろうに。
アンアンはひんぬー好き御用達のアニメなんだよ!
爆乳は大人しくソシャゲのエロキャラでも真似てろ!
そっち路線のが絶対似合うからさ、な!
「飾りくらい良いではないか!」
「嫌です!」
俺の頭上に手を伸ばし、天使の輪っかをもぎ取ろうとしてくる女王。
当然俺は体を振って抵抗した。
「スカルベルちゃん!」
俺と女王の間にメツェンさんが割って入った。
浅ましい女王を見るに見かねて、仲裁しに来てくれたのか。
「邪魔をするなメツェン!
それに、そなたより年上の女王であるわらわをちゃん付けで呼ぶなと、常日頃からそう申しておるであろう!」
冒頭には意を唱えたいが、その後に続く女王の主張には一理有るな。
メツェンさんは二十歳手前の町人、かたやスカルベルは性格こそ大人気ないものの20半ばの女王だ。
どうしてもちゃん付けしたいのなら、せめて本名では無く女王ちゃんにしておくべきだろう。
「やめなさいスカルベルちゃん。
みっともないわよ。
それに乱暴なんかしたら、シツちゃんが可哀想でしょ?」
「しかしわらわはだな……」
「もう!まだ続けるつもり?
もう良いわ、シツちゃんは私が連れて行きますから!」
メツェンさんはキレ気味に言うと、俺の手をガシッと掴んで後ろ手に引きずり、何処かへ向かって歩き出した。
「ちょっ……」
「待てメツェン、何処へ行く気だ!」
俺が振り向くと、女王は叫んでこそいるが俺達を追いかける気はないらしく、その場に立ち尽くしこっちを見ていた。
彼女はまだ病み上がりだから、追いかけたくとも追いかけられない筈。
女王に対し、メツェンさんは振り向きもせずに答える。
「イキリダケが足りないから探してきます」
「おお、それなら構わぬぞ。
山程持ち帰って参れ」
「うぉい!?」
この町に居る全ての女性は、決して俺の味方にはならないのか……?
俺は圧倒的アウェイ感に押されて目に涙を浮かべ、泣く泣くメツェンさんの後を追った。
しばらくして辿り着いた場所は、昨日俺とゾデが訪れたのと同じ、正三角形の落ち葉が降り積もった森の中。
イキリダケと言えばここなんだな。
ゾデがイキリダケで皮袋を一杯にしていたけど、探せばまだ見つかるのか?
「さあシツちゃん、張り切ってイキリダケを探すわよ」
メツェンさんは早速やる気みたいで、握った右拳を目の前にグッと掲げている。
「探してどうするんですかぁ……」
かたや強制ハーレムルート不可避の俺はうなだれ、半泣き風の弱々しい声で問うしかなかった。
問うてみた所で返事は決まっているのだが。
「イキリダケでスープを作って、スカルベルちゃんに飲ませてあげるの、
魔力切れには効果覿面なのよ」
「あれっ?」
予想外の答えに、俺は思わず姿勢を正した。
ゾデが言ってたのは本当だったのか。
何が何でも俺をいきり立たせたいのなら、嘘だとしても女王じゃなくて俺に飲ませようとする筈だから、少なくとも魔力補給ってのは信じて良さそうだ。
「スカルベルちゃん、正義感が強いのは良い事だけど……有事になるとああして無理しちゃうのよね。
幼馴染みの私は、そんなスカルベルちゃんを時々見てられなくなるの」
「幼馴染み……?」
「ええ。
歳は離れてるけど、同時期に2人で魔法の練習を始めたのよ。
私は回復系、スカルベルちゃんは呪術と攻撃系にそれぞれ別れたけど、彼女が女王になった今でも私からすれば……そうね、同級生みたいなものだわ」
「へえ……」
「さっ、スカルベルちゃんの為に手分けして探しましょ!」
メツェンさんは弾むような元気さで言葉を発し、俺から離れて行った。
主語が抜けていたが、ナニを探すのかは分かりきっている。
イキリダケが隠れているであろう、落ち葉の不自然なモッコリを探すんだ。
効率の為、俺はメツェンさんと反対方向に歩いた。
調理方法によって変化するのかも知れないが、イキリダケが精力増強と魔力補給、少なくとも二種類の効用を持っている事は、これまでに聞いたゾデやメツェンさんの発言から伺える。
だかここで、俺はある疑問を浮かべた。
逆は兎も角として、魔力補給目的で摂取しても精力増強の効用が同時に働くのではないか。
もしそうだとすれば、イキリダケのスープを飲んだ女王がムラムラし出して、子作り推奨の存在である俺に襲い掛かって来る事態が想定される。
んー、でもああ見えて一国の女王なんだからまず夫が居るだろうし、幾ら何でもそれは無いか?
いやいや、俺がイサファガに来てから女王の夫らしき人物に俺は会ってないぞそういや。
救世主的存在のAAなのに、国の要人を紹介されてないってのも今思えば可笑しい。
まさか独身なんてこたぁ無いよな。
……あの乳で。
「きゃあ!」
ガサガサと落ち葉を踏む音と、メツェンさんの甘くも突き刺さるような悲鳴。
俺は咄嗟に振り向いた。
「メツェンさん!?」
見ると、尻餅をついて座り込んでいるメツェンさんの前方に1匹のカニが居た。
俺はそれを視認するなり、落ち葉を乱暴に蹴り飛ばしてメツェンさんの元へダッシュした。
「ラスティアンよ!」
言われなくても分かってますよ。
さて、件のラスティアンはまたもやカニ型だが、前回の超巨大毛ガニと違ってそのサイズはかなり小さい。
適当に見積もっても中型犬程にさえ体躯で劣り、その気になれば両手で掴んで持ち上げられそうなくらいだ。
色は背中が黒っぽいが、その他の全体が鮮やかな赤色の殻で覆われていて、ずんぐりとしていた毛ガニよりもハサミや脚が長め。
黄褐色を敷き詰めたこの景色において、赤は非常に良く目立つ。
「メツェンさん下がって!」
尻餅をついたまま後ずさりするメツェンさんとカニの間に、俺は立ちはだかった。
カニは特に何をするワケでもなく、緩慢な動作で落ち葉を踏みゆっくりとカニ歩きをしている。
その鮮やかな赤を見て、俺は真っ赤なサンタクロースの衣装を連想した。
俺もクリスマス前後の日にはサンタコスしますし。
勿論女装ね。
所でさ、俺ってこんなヒーロー的キャラだったっけ?
そりゃあクラス2のAAだけども、元々は単なる引きこもり女装レイヤーなんだよね。
これも恋の為せる業か。
女の子は恋をすると綺麗になるって言うけど、男の子はどうなんだろうね。
女装男子な俺がどっちに転がるかは……分からん。
「この小ささなら、テューマリウムを探さなくても簡単に倒せるわ!」
「そうなんですか?」
これは良い事を聞いた。
今武器になりそうなものはアンジェロッドくらいだが、これ単品では戦えない。
昨日ゾデの剣と融合したように、何か無生物と組み合わせない限りはただのアクセサリーに成り下がってしまうのだ。
樹木は生物だし、この森で使えそうな物は見当たらない。
町を出る前にナイフでも借りときゃ良かったかな。
ま、メツェンさんの助言によればそれも必要無さそうだけどね。
「シツちゃん、蹴り飛ばしてあげて!」
「はい!」
メツェンさんのガイドに従い、俺はカニに向かって一歩前へ踏み出した後、左足を軸にして体重を支えつつ右足を後方へ伸ばした。
右を軸にした方が強く蹴れるんだっけ?
一撃だから関係ないか。
食らえ、アンジェネリック……。
今は町娘Aでしたな。
「おりゃあ!」
俺の繰り出したローキックがカニに炸裂し、俺は右足のつま先に走った激痛で倒れ、落ち葉の上で激しくのたうち回る。
「いてててて!」
何でだよ!?
まさかメツェンさん、俺に嘘付いたの……
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