第20話 クラス2昇格の儀式
ゾデやメツェンさんとの会話を終えて1人になった俺は、程なく眠りに就いた。
翌朝、特に誰も起こしに来たりしなかったので、俺は地上に出てみようと思いベッドから飛び起きる。
すると、廊下の途中で女王とバッタリ出くわした。
誰かの助けを借りたりせずに1人で居るものの、体調がまだ万全ではないようで、壁にもたれかかりながらヨロヨロと歩いている。
「シツか、おはよう」
「女王……あ、おはようございます……」
女王は左手で壁にもたれかかったまま、右手だけを壁から離してこちらを指差し、俺の胸から腰までをなぞるかのように腕を上下させている。
「その格好は……あの愛らしいドレスはどうした?」
女王から指摘されたように、俺が今着ているのはアンアンのコスプレではなく、イサファガの町娘スタイルである薄着。
俺がシツだと認識してもらう為、金髪に天使の輪が付いたウィッグはそのままにしている。
これを外すとただの男に成り下がってしまうので、おいお前誰だとなりかねない。
頼もしい武器アンジェロッドを携帯する為のネックレスも、当然身に付けている。
女装はいまや、俺の名札代わりにまでなりつつあった。
「適当な人から借りました」
メツェンさんのはサイズが合わなかったので。
因みに大きかった。
女より細い男の1人がこちらです。
「そうか。
時にシツ、昨日のラスティアン討伐見事であったな」
自分から俺に問い掛けたのに、女王はあっさりとスルー。
また女装なのかと突っ込まれるのを予想してたんだけど、そこまでの関心は無かったのか。
初対面が女装だったから、そういう人間だと認識されているんだろうね。
ええ、そういう人間ですとも。
「あの……」
「何じゃ?」
「もう動けるんですか?
魔力切れと聞いてるんですけど……」
「フン、わらわを見くびるでない。
まだ魔法は使えぬが、床に伏す程憔悴してはおらぬわ。
それよりシツ、お前の昇格を行う。
地上に向かうぞ」
女王は一通り言い終えると、また壁に両手を添えて歩き始めた。
確かに立ち上がれてはいるけど、歩くのはしんどそうだ。
やや細い体躯の割に胸がデカ過ぎるせいってのも、恐らく有るだろう。
「女王、誰か呼んで……」
「要らぬ」
キッパリと言い放つ女王の背中を、以後の俺はただ黙って見ていた。
やがて俺達は地下道の行き止まりに到着。
天井を塞ぐ金属製の蓋を押し上げると、外から白い日光が差してきて、暗がりに慣れていた俺の目を刺激する。
思わず目を細めた。
モロに朝日を浴びるのはどれぐらい振りだろうか。
蓋を押し退け、俺達は地上の地面を踏み締めた。
「おお、皆良く働いておるな」
女王が目の上に手を添え、辺り一面を見渡している。
外の新鮮な空気にありつけたお陰か、少し元気になったみたいだ。
「家が元に戻ってる……」
毛ガニが散々暴れまわったにも関わらず、町は以前の姿を取り戻しつつあった。
元々質素な造りだったが、これにもちゃんとした理由が有ると俺は理解している。
最初は退廃して見えたこのイサファガも、今となっては逞しい不滅の町として映っていた。
不滅の王国イサファガ。
格好良いじゃん。
「これでこそイサファガじゃな。
ではシツ、昇格の儀式を執り行う。
そこに座れ」
俺は女王に言われた通り、前回と同様にひざまづいた。
「ははっ」とかそれっぽい台詞言ってみたり。
「AAシツよ。
山のように巨大なラスティアンを倒した功績を称え、そなたをクラス1から2へとクラスアップさせる。
さあ、右手のブレスレットを出すのじゃ」
「はい」
俺は右腕を前へと突き出した。
前回は女王が紙に血文字を書いていたけど、あれを再度やるんだろうか。
ちょっとワクワクしてきた。
女王は自身の額に右手の指を当てて目を閉じ、何やらボソボソと呟いている。
所謂呪文詠唱だろうか。
声の小ささ故俺には聞き取れない。
詠唱を終えると女王は目を開け、右手で俺のブレスレットに触れた。
「おっ」
金のブレスレットはたちまち元の丸められた紙に戻り、女王はそれを手に取って広げた。
血文字もまたやるようで、左手の親指を齧っている。
もし俺が女王なら、痛みが怖くて碌に真似出来やしないだろう。
「シツ、今後どうするつもりじゃ?
この世界の仕組みくらい、ゾデかメツェンから聞いているであろう?」
女王が紙に左手を押し当てた。
クラスアップしたから、記述の書き換えを行なっているんだろう。
「俺は……まだここに残ります」
「ほう。
つまりは保育園設立を手伝ってくれるのじゃな?」
「それとこれとは別です!」
何も絶対勘弁ってワケじゃないけどさ、ほら心の準備とかさ。
「そうか。
まあ急かしはせぬ。
好きな時に好きな娘を抱いてやるが良いぞ」
「急かしてますよそれ!」
「終わったぞ。
シツ、もう一度腕を出せ」
女王が紙を巻き直している。
俺は女王の強引さに不満を感じつつも、右腕を伸ばした。
あの眩しい光がまた来る。
今度は予め、強く目を瞑った。
「ん……」
まぶた越しでも黄金の輝きは染み込んで来る。
2回目だからか、光はすぐに消えた。
「終わったぞ。
これでそなたは正式にクラス2のAAじゃ」
「シツちゃん、お礼!」
俺が無言で立ち上がると、何処からかメツェンさんの声が。
見てたんだ。
俺は逆らわず、女王に向かって深々と頭を下げた。
「あっ、ありがとうございました……」
「うむ。
シツ、一つ良いか?」
「何ですか?」
女王が俺の頭上に手を伸ばし、天使の輪っかを指先でつついて揺り動かした。
さっきしたお辞儀の時、彼女の目に止まったんだろう。
何故だか知らないが、彼女の紅色の眼が心成しか輝いて見える。
「この輪だけでも、わらわに捧げてくれんかのう?」
即座に俺は、両手で自分の頭を庇い女王から離れた。
「嫌です!」
これウィッグと一体型だから!
てかしつこいぞ、良い加減諦めろ!
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