第18話 アンジェロッド

男なのに女装コスプレしてるくらい好きな二次元キャラの名前を噛んでしまい、無い胸を痛めて凍り付く俺。

原作でもひんぬーですし。

リアルに例えるなら、夫が嫁の名前を間違えるようなもの。

当然ゾデはそんな俺を訝り、腕を組み僅かに首を傾げている。

そもそもゾデが知らない名称なので、俺が噛んだ事は認識していないんだろうけどな。


「シツ、もう一度頼む」


同じ過ちを繰り返さない為の復習として、俺は心の中で復唱した。

魔法天使アンジェネリックアンジェリカ。

魔法天使アンジェネリックアンジェリカ。

魔法天使……アンジェネリック……アンジェリカ。

よし。


「魔法天使、アンジェネリックアンジェリカ……です、はい」


噛まずに言えた。

これでなんとか、ファンとしての市民権を取り戻したと言える。


「それがその服の……いや、その服を着ているとされる架空の人物名か」


俺はコクリと頷く。


「ではそのペンダントは、その……長いから呼びづらいな。

この星でのAAの様に略称などは無いのか?」


「アンアン、とか……」


正式名称から魔法天使を外し、アンジェネリックとアンジェリカに名前を分けてそれぞれのアンを連ねた略称、アンアン。

女性の喘ぎ声を連想させるとして一部の層からは不評だが、語呂の良さ等からこの略称は公式でも採用されている。

前半のアンジェネリックが主人公の固有名詞で、後半のアンジェリカは彼女達魔法天使を総称した呼び名なので、前半だけから取ってアンジェネとも呼ばれる。

いずれにしても韻を踏んだユニークなタイトルで有る為に色々と工夫して呼ばれているが、ゾデにあれこれ話しても何のこっちゃで終わるだろうから止めておく。


「それなら覚えやすいし、短くて良い。

今後、僕達の間でその人物をアンアンと呼ぶ事にしよう」


「はい」


「つまり、そのペンダントは劇中でアンアンが武器として使っている物のレプリカなんだな」


「……そうです」


厳密にはレプリカではなく、実物自体が存在しない……こっちの技術では実現しようがないのだが、剣と魔法なこの世界で生まれ育ったゾデその他ならその認識でも構わないだろう。


「僕の剣を防いだ上で融合し新たな剣になっていたが、本来どの様な扱い方をする武器なんだ?」


「融合、で合ってます」


「ほう」


ようやく本題に入り、ゾデは椅子を俺の方に寄せて座り直した。

その様子からは、知っておいて損は無いと言った責務感ではなく、ゾデ個人の興味や好奇心、知識欲なんかが垣間見える。


「このペンダント……アンジェロッドって言うんですけど、これはアンアンの専用武器で、無生物と融合してオリジナルの武器になるんです」


「無生物と融合……となると、剣だけでなく他の物とも融合が可能だと」


「はい。

無生物なら元が武器じゃなくても武器に出来ます。

例えば船と融合して、戦艦になって砲撃や白兵戦をしたりとか……」


あれは原作の中でも印象的なバトルシーンだった。

梶となったアンジェロッドで直接戦艦を操作する他にも、戦艦とセットで具現化した人形の海兵に号令をかけ、指揮を取るなどして戦うのだ。

ぶっちゃけ強いのか弱いのか今一つだが、兎に角印象的だった。

円盤ポチったくらいにはね。


「非常に興味深いが、想像が付かないな」


「でしょうね……」


「一見して非力に見えるシツが軽々と剣を握っていたのは、融合によって軽量化が施されていたから……なのか?」


「はい」


あの時はマジで、均一ショップなんかに売ってるプラ製のオモチャの剣か何かかと疑ったよ。

それくらい軽かった。


「……ん?今更だがシツ、お前はあの剣でテューマリウムを切断し、ラスティアンを倒したのか?」


「はい」


気付けばゾデが饒舌になってきている。

まあ、余計な事は言ってないから良しとしよう。

自主的に喋るの苦手だから、こっちとしてもバシバシ質問してくれた方が助かるしね。


「ふむ……」


ゾデが意味深な声を漏らしながら俯いた。


「どうしたんですか?」


「いや、ラスティアンの急所であるテューマリウムは、本来ならAAの直接攻撃でしか破壊出来ない筈なんだ。

AAが放つ魔法ならまだ何とかなるんだが、ただの剣で斬ったのでは非AAの僕同様、ラスティアンの殻は壊せたとしてもテューマリウムには弾き返されてしまう」


「へえ」


俺、普通に一刀両断しちゃったけどね。

どうなってるんだろう。


「これには例外が有って、AAの使用する武器が魔法武器であれば破壊出来る」


「魔法武器……」


そのまんまの名前だ。


「使用者の魔力を消費して強力な攻撃を放つのが魔法武器なんだが、そのアンジェロッドも魔法武器なのであれば説明が付く」


「ふぅん」


確かにあの軽さや切れ味なら、魔法がかかっていたとしても何ら可笑しくはない。


「僕は魔法に明るくないから識別は出来ないが、女王なら詳しく調べて下さるだろう」


「はあ……」


ゾデはこう言う話題が大好物な武器オタクなのか、少々興奮気味に喋っている。

俺はゾデ程の関心を持ってはおらず、手の中のアンジェロッドそのものに意識を向けていた。

ただのコスプレだったのが、この世界に来たのをきっかけに原作と類似した能力を得てしまっている。

あまりにも出来過ぎているもんだから、これはただの長い夢、俺の妄想世界なのかと疑わずには居られない。


「しかしシツ、もしそれが魔法武器なのであれば魔力の消費に注意しなければならないぞ。

無理をすれば今の女王の様に、魔力切れでダウンしてしまう事になる」


「魔力切れ……」


毛ガニに対して吹雪を放った直後に上乳を押さえて倒れた女王。

苦悶に歪んでいた彼女の表情が脳裏に蘇る。

俺は、やっぱあの人のおっぱいデカ過ぎんよと改めて思った。

女王よ、お前なんかにこのコスプレ衣装は絶対渡さんからな。


「そうだ、イキリダケを食べれば僅かだが魔力の足しになるぞ。

シツ、念の為にどうだ?」


「要らない!」


ゾデ、お前もそっち側の人間だったのか……!?

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