第16話 地下道

まさかのアンジェネリックソード覚醒により、見事超巨大毛ガニを倒すことに成功した俺だったが、調子こいて叫んだ奥義名をゾデに聞かれてしまい恥ずか死んだ。

穴が有ったら入りたいくらいです。

有ったので入りました。


「ここは……?」


ゾデに着いて行った先は、穴を掘って設けられた地下空間。

木材を主に地上の建物よりずっと丁寧にな造りがなされていて、こっちが本命で地上のはテントみたいなものか、と思ったほど。

ゾデが道の途中で立ち止まり、適当な木箱の上に腰を下ろしたので、

俺は別の木箱の上を手で払ってから、ゾデを真似て座った。


「見ての通り地下道だ。

さっきのラスティアン襲撃時もそうだが、ずっと地上に居るのは危険だからな。

町の住民は皆ここに避難している」


「それは良かったです。

でも、地震が来たら……?」


ゾデが兜を横に振る。

頭頂部の赤い飾り紐が左右に往復した。


「そうでも無い。

察しはついているだろうが、こちらが本命と言ってもいいくらい、地震を考慮して柔軟かつ頑丈に作ってある。

現に今日地震が起こったが、地下道はこの通りだ」


「なるほど……」


俺がウンウンと頷きながら廊下を見渡すと、曲がり角の向こうから誰かが姿を現した。

揺れる緑髪に豊満な肢体のメツェンさんだ。


「メツェン、女王の容態は……?」


「まだ安静が必要ね。

魔力を急激かつ多量に使い過ぎたのよ」


メツェンさんは俺達に歩み寄りながら、ゾデの問いかけに答えた。

魔力と聞き、俺は超巨大毛ガニの足元から上がった爆炎や、ハサミを凍て付かせた吹雪を思い出す。

吹雪を放った後女王は上乳を押さえて倒れたが、あれは魔力の使い過ぎだったのか。


「そうか。

女王がその様子だと、シツのクラスアップはしばらく後になりそうだな」


「ええ」


傍らに立つメツェンさんと目を合わせていたゾデが、クルッと俺の方を向いた。

今更ツッコミもしないが、相変わらずのフルメイルである。

まさかとは思うが、中の人は不在で鎧そのものがゾデなのだろうか。

もしそうなら、少なくとも打たれ強さに関しては説明が付く、


「そういえばシツ、

あの剣は一体何だったのだ?

今はもう元に戻ってしまっているが……」


ゾデは腰をひねり、左腰に帯剣している鞘を俺に見せ付けた。

一方の俺は、首から下げているペンダントを軽く握る。

翼の付いた棒状のこのペンダントは、丸い輪を介してネックレスと繋がっている。

魔法天使アンジェネリックアンジェリカのコスプレ衣装に付随するアクセサリーだ。

何の変哲も無いただのアクセサリー……な筈なんだけどね。


「えっ?何の話かしら?」


メツェンさんはこの話題に興味を持ったようで、

俺の座っている左隣、木箱の端に無理矢理体を入れて来る。


「わわっ」


俺は照れと驚きから、思わず腰を浮かせて立ち上がる。

しかしメツェンさんが俺の左肩をサッと掴み、半ば強制的に木箱の上へ再度座らせてしまう。

俺とメツェンさんは肩を寄せ合い、一箱の木箱に半々で座る形になった。

彼女の纏う香りを嫌でも嗅いでしまい、不本意ながら鼻の穴が広がる。


「ねえシツちゃん、私にもその話聞かせて?」


「ええええっ、はいぃ……」


「僕がラスティアンから攻撃を受けた時に剣を離してしまい、

その剣がシツを襲ったかと思ったら、僕の剣は立ち所に消え、

代わりに全く別の剣が落ちていたんだ」


話題の殆ど全部を、俺より先にゾデが喋ってしまった。

いや助かるよ?俺引きこもりで口下手だしね。

でもメツェンさんは『俺』に聞いてたんだから、ちょっとは空気読んでくれよ。

助かるけどさ。


「へえー、間一髪だったのねぇ。

シツちゃんが無事でホントに良かったわぁ」


メツェンさんは嬉しそうな声を出し、俺にギュッと抱き付いてきた。

俺の体に、メツェンさんの胸や二の腕がプニュッと押し当てられる。

やめてよぉ、ゾデだって見てるのに勃っちゃうよぉ……。


「あ、あはははは……」


俺はもう、力無く笑うしかなかった。

ホントに。


「僕の剣が偶然シツのペンダントに命中し、両方が融合してしまったらしい。

シツ、あれは何なのか分かるか?

あれがお前の元居た世界での武器なのか?」


「えへへへへ……」


「シツちゃん、ゾデに答えてあげて」


「うふふふふ……」


「……メツェンよ、シツを離してやってくれ」


ゾデの助け舟な発言に、俺の顔をガン見していたメツェンさんが振り向く。

頭の動きに釣られた緑髪が俺の左頬をササッとくすぐった。

この貧乏王国には香料入りのシャンプーなんて無いだろうに、凄く優しくて自然な良い香り。

甘くとろける声もそうだが、この緑髪も口に含んでみたくなる。

実際やった時に変態呼ばわりされないか心配だが、そこに至るまでの過程をこそ心配すべきなんだろうね本来は。

ただメツェンさんはなぜか俺にベッタリなので、こっちさえその気になればベッドインは容易いだろう。


「何で?」


前言撤回。

メツェンさんが首を傾げ、彼女の右頬と俺の左頬がムニッとくっ付いた時、俺は「ひぇっ」と珍妙な悲鳴を上げてしまった。

こんなヘタレがその気になったとしても、自分から彼女と手を繋ぐ事さえも困難だろう。

ましてやベッドインなんて、この星の裏側くらいに程遠い。


「シツは異性に免疫が無いみたいだ。

そのままでは会話にならない。

だから離してやってくれ」


ゾデってズバッと言うよね。

はいはい助かってますよ。

俺は異性に免疫が無いヘタレ引きこもりですよ。


「あらぁ、残念ね」


メツェンさんが俺を解放して木箱から立ち上がる。

俺はすぐに縮こまり股間部を隠した。

理由は、健全な少年少女であれば誰しもが分かってくれるはずだ。


「シツ、話せるか?」


「は、はにゃ……」


はにゃせません。

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