第14話 VS毛ガニ
ゾデは俺を砲丸投げの砲丸よろしくぶん回し、超巨大毛ガニに向かって投げ付けた。
女王を守れとの事だが、冗談もほどほどにしろよ。
メツェンさんなら守ってあげたいんだけどね。
「うわああああ!」
俺は空気に肌を叩かれながら、人体の急所である頭を庇った。
もしかしたら激突の衝撃で、天使の輪っかが千切れてしまうかも知れない。
願わくばゾデのこの行為が、思い付きや万歳精神によるのではなく、
俺の安全の確信やちゃんとした勝算があっての判断であってほしい。
頭から突っ込んでるんで、ぶち当たるタイミングが掴めない。
俺は衝撃に備えてキュッと目を瞑る。
『ガキィン』
速度が殺され、俺は跳ね返りもせずに地へと倒れた。
アンダースローで良かったよ、ホントに。
痛みの無さや例の音からして、謎バリアーが発動したみたいだ。
「シツ!」
女王が叫ぶ。
なんとも無いので、俺はすぐに立ち上がった。
「シツ!無事か!」
「はい!」
女王は俺と僅かばかりの間目を交わした後、超巨大毛ガニの足をギロッと睨む。
改めて間近で見上げると、そのサイズは圧巻の一言で、
脚一本だけ見てもコンクリートのビル並みで、その中に人が住めそうなくらいだ。
ぶっちゃけ、至近距離じゃこれがなんなのかサッパリ分からない。
全体像を把握してるからこそ、この赤い塔を脚と呼べる。
「これだけの巨大ラスティアンを倒せば、お主をクラス2にせざるを得んな」
「はあ」
儀式をした時にはクラス1と言われたが、やっぱり上があるのか。
上がると何か貰えるのかな。
おっと、こんな呑気に空想してる場合じゃないよね。
「やるぞ!」
「でも、どうやって?」
「うおおおお!」
ゾデの雄叫びだ。
振り向くと、ゾデが剣を右手に構えて猛進して来る。
「はっ!」
ゾデは一瞬しゃがみ、走る速度と地を蹴る脚力を利用して重力に逆らい、
超巨大毛ガニ目掛けて大ジャンプした。
今更驚きはしない。
ゾデは両手で握った剣を振り上げる。
毛ガニの脚の、先端から1番低い関節部分が狙いみたいだ。
毛や突起のせいもあって普通に輪切りにするのは無理そうだが、関節ならあるいは。
『ザッ』
俺の期待通りに、ゾデは関節から下を斬り落とす事に成功した。
斬り落とされた部分がグラっと傾き、草の地面を叩いて揺らす。
デカい分動作が緩慢であるらしく、回避や他の脚による妨害はされなかった。
あれもその内、繋がって再生してしまうのか。
「おお!流石ゾデじゃ!」
歓声を上げる女王に向かって、着地したゾデが叫ぶ。
「女王、お逃げ下さい!」
「わらわが逃げてどうする!」
「しかし!」
女王とゾデが押し問答をしてる間に、
超巨大毛ガニのハサミが空高く振り上げられ、地表の俺達に影を落とす。
走って避けられるような規模の攻撃じゃないよなあ、これは。
「くっ!」
盾にするつもりなのだろう、女王は俺の真後ろにピタリと陣取った。
爆乳が背中の翼に触れて押し広げられる。
この翼は良く動くように作られてるから平気だけど、
決して好ましくはない。
「来るぞ!」
ゾデの忠告通り、超巨大カニのハサミが俺達に振り下ろされる。
女王がより強く俺にしがみ付いた。
防げそうでも怖いもんは怖いよな。
俺は謎バリアーに期待しつつも、両腕を眼前で交差させ防御の姿勢を取った。
だってこの方がそれっぽいじゃん?
『ガキィン』
毛ガニのハサミが、謎バリアーに阻まれて跳ね上がった。
「こっちじゃ!」
「わっ」
反動で生まれた隙を突き、女王が俺を引っ張って逃げ出した。
知能を持たないらしく、
超巨大毛ガニはさっきと全く同じ場所に再度ハサミを振り下ろす。
ハサミは地響きを起こして大地に突き刺さった。
女王は俺を放り出し、両手を前方のハサミに向けて突き出す。
「はぁっ!」
腹の底から発される女王の強い声と同時に、
彼女の手のひらから無数の氷の粒が生まれて飛散し、
ハサミと地面の間に次々と吹き付けた。
吹雪が当たった場所は瞬く間に凍り付き、ハサミが地面に固定される。
「登れ!シツ!」
「あれを?」
「早く!」
女王は俺の背中をドンと押した
なんとなく、言いたい事は分かるけどね。
「柔らかい組織ならAAの力で食い破れる!
今の内によじ登って取り付くのじゃ!」
「そう言われても……」
「ぐっ!」
女王が突然上乳を押さえ、膝から崩れ落ちてしまった。
「えっ?」
「女王!」
遠くに居るゾデが女王の異変に気付き、こちらを見て叫んだ。
別の脚をも斬り落とさんと奮闘していたのか。
女王に対するかなりの忠誠心が見て取れるけど、自分の隙を作ってはいけない。
ゾデの背後に超巨大毛ガニの脚が迫っている。
カニの脚って何本生えてるんだっけか。
「ゾデ!後ろ!」
間に合わない。
「ぐあぁ!」
ゾデが脚先の直撃を食らい、こちら側に突き飛ばされる。
強烈な衝撃により、握っていた剣がゾデの手を離れ、
回転しながら俺に向かって飛んで来るぞオイ!
間に合わない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます