第13話 砲丸投げ
メツェンさんからラスティアン襲来の知らせを受け、俺達は王国へと走った。
正確には俺をおぶっているゾデのみが爆走し、
そのはるか後方をメツェンさんが追いかけている。
高い丘を超えると、衝撃的な光景が俺達の目に飛び込んで来た。
衝撃のあまり、ゾデは足を止めてしまう。
「あれは……なんと巨大な」
「カニだ」
イセエビの次はカニかよ。
甲羅の割に足が短く太めで、ずんぐりとした体型の超巨大なカニがハサミを開閉し、
持ち直したばっかりの町を破壊していた。
淡い赤色で、全体に突起やブツブツ、毛のような物を纏っている。
つまりは毛ガニか。
その巨大さは、4トントラック止まりだったイセエビの比じゃない。
あの毛ガニからすれば、人間なんて精々羽虫みたいなもんだろう。
メツェンさんが追いついて来たので、俺は彼女に疑問を投げかけた。
「メツェンさん、あんな大きいのがどこから……?」
メツェンさんは息も絶え絶えと言った様子だが、巨大なカニを真っ直ぐ睨んでいる。
「私が聞きたいくらいだわ。
急に現れたのよ」
「この星のどこかからここに転移して来たのだろうな」
ゾデは平然と言い放った。
戦士が敵を目の当たりにしてパニックを起こすのはどうかと思うけど、
だからって落ち着きすぎじゃないか。
その様子は、眉間にシワを寄せ、
毛ガニに対して憎悪を剥き出しにしているメツェンさんとは対照的だなと、
俺の眼にはそう映った。
「行くぞシツ!
確認しておくが、毒はどうだ?」
ゾデはそう叫ぶなり姿勢を低くして、走る為の予備動作に入った。
「毒は、大丈夫です……」
実を言うと、もう自分で立って歩けるくらいには回復している。
でも俺が自分の足で走るよりゾデにおぶって貰った方が疾いし、
余計な筋肉を付けたくないから、俺は下ろしてと言い出さなかった。
「よし!」
ゾデがまたまた走る。
今度は全速力みたいだ。
非常事態だもんね。
「ゾデ、シツちゃん、頑張って!」
背中からメツェンさんの声援が響いた。
頑張るも何も、あんなデカブツ相手にどうすりゃ良いんだよ。
あれにも弱点の白い塊があるんだろうけどさ、いくらなんでもデカすぎるって。
俺の謎バリアーも、あの質量の前で機能するかどうか。
正直逃げたい。
「ゾデさん!」
「なんだ!?」
「あんな大きいのと、一体どうやって戦うんですか!?」
「確かにあのラスティアンは大きいが、どれだけ大きかろうとやり方は同じだ。
殻を破壊して内部の白い塊、テューマリウムをAAが破壊する。
簡単だろ?」
話の流れから察するに、テューマリウムってのはあの歪んだ球状の白い塊の事か。
何かの素材になりそうな名前だけど、それを破壊しないとラスティアンは倒せないから、
採集なんかは出来ないんだろうな。
「どこにあるんです!?」
「分からん!」
「ええ!?」
このフルメイル、不穏な事をキッパリと言いやがる。
あれの足を全輪切りにでもすれば良いんだろうか。
イセエビを両断してみせたゾデでも、流石にそれは無理そうなんだけど。
俺達が超巨大毛ガニに近付くにつれて、
毛ガニが暴れたせいで起こる地鳴りや、民家の崩れる音が聞こえてくる。
逃げ出したい気持ちを抑えつつ前を見ていると、
毛ガニの足元から爆炎が上がった。
大小の感覚が狂ってしまい、爆炎の規模について断言は出来ないけど、
それ程効いてないように見える。
「あれは!?」
「女王の魔法だ!
女王がラスティアンと戦っておられるのだ!」
「魔法……」
へえ、今の魔法だったんだ。
儀式で俺の右腕にかけられたブレスレットも、魔法の類で作られた物なんだな多分。
あの爆乳女王、魔法使いだったのか。
みんなには凄く悪いんだけど、盛り上がって来たなあと思う。
なんてったって魔法はファンタジーの華だからね。
「シツ!女王を守ってくれ!」
「それは勿論……って?」
ゾデが俺の足を持ち替え、両手で俺の右足スネ辺りをしっかりと握った。
ニーソ越しに硬い指が食い込む。
「頼むぞ!」
「何を!?うわぁあ!」
ゾデはまるで砲丸投げをするみたいに、俺をぶん回し始めた。
景色が激しくループし、強い遠心力で全身の血が頭へと登ってしまう。
こんな時でも俺はコスプレ衣装を気遣い、
ウィッグが飛ばないように両手でしっかりと押さえた。
ゾデは一体何をする気なんだ。
まさか……。
「行けぇ!」
そのまさかでしたか!?
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