第8話 AA認定の儀式

民家の修復作業に勤しむ町民達を尻目に、俺は女王の前で前でひざまづいている。

ゾデが言うには、俺がこの世界でやっていく為にはまず、

この何やら儀式めいた事をしなければならないらしい。


「そなた、名は何と申す?」


俺の服を剥ぎ取らせようとした山賊女王はどこへやら、

今の女王は芯の通った迫力有る声を発していて、威厳たっぷりだ。

ひょっとするとあれは、一種のロイヤルジョークだったのだろうか。


「シツ……です」


「シツ。

それがそなたの名か」


「はい」


俺はごくごく普通に本名を答えたが、

もしアンジェネリックアンジェリカって言ったらそっちで通ったのか、これ。


女王は俺の名を確認すると、自分の右手の親指に歯で傷を付け、

左手に持っている古ぼけた紙に右手の親指を押し当てた。

自分の血で血文字を書くつもりなのだろう。

その動作を見て魔術なる単語を連想し、俺は密かに胸を踊らせた。

出来れば何故そうしているのか直接聞いてみたい所だが、

自由に喋って良い雰囲気とは思えないし、ただの遊びじゃないだろうから、

その意味はじきに分かるだろう。

それに、俺は自分から話しかけるのが苦手だ。

苦手どころか、まず無理だ。


「シツとは、そなたの国の言語でどんな意味が込められているのだ?」


「はい?えっと……速い、と言う意味です」


「そうか」


女王は淡々と紙の上で親指を走らせている。

今の質問も、この儀式に必要な情報を引き出す為なのか。

俺は黙って女王を見ていたが、やっぱりあの乳はおかしい。

ちょっと大き過ぎやしないか。


所で、言語が違うのに言会話が成立してるのはどうしてだろうね。

楽で助かるけど。


「よし!」


女王が紙から指を離し、血文字の面を内側にしてクルクルと丸めた。

やがて紙は細長い棒状になり、女王はそれを持って一歩前に踏み出し、

俺に近付いて来た。


「シツよ、右でも左でも、そなたが好きな方の腕を出せ」


別にどっちの腕が好きとか嫌いとかは無いんだが、俺はとりあえず右腕を選んだ。

女王は棒状の紙を俺の右手首にあてがい、湾曲させて両端同士を触れさせ、

ブレスレットの様に紙の輪を作った。


すると、紙がギラギラした光を放ち始める。


「うおっ」


その光が存外強く眩しかったので、俺は左手で自分の眼を覆った。

光は2、3秒で消え、女王が俺の右手首から手を離す。

すると、右手首に金属の感触が。


「えっ?」


俺は反射的に、自分の右腕を眼前に引き寄せた。

俺の知っている貴金属の金と同一なのかどうかは判別しかねるが、

見た感じでは金色の光沢を放つリングが、俺の右手首に下がっている。


「これは……?」


「よし、成功だ。

シツよ、これでそなたは正式なアンチエージェントのクラス1となった」


「アンチ、エージェント?」


それ、ゾデも言ってたな。

しかもクラスワンって、まだ上が有るのか。


「その腕輪はアンチエージェントの証となる。

大事にするが良いぞ」


「は、はあ……」


当事者置き去りの展開に俺が戸惑っていると、

少し遠くから儀式を見ていたメツェンさんが両手を口に添え、

小さいけど強めの声で「お辞儀!」と俺に言い放った。

郷に入りしは郷に従えと言うから、ここは大人しくお辞儀しておこう。


「ありがとう、ございました……」


「うむ。

これでそなたはこの町の住人として扱われる。

困った事が有ったらわらわやゾデに言うが良い」


「はい」


「それともうひとつ」


「何ですか?」


俺は顔を上げ、女王の爆乳を見上げた。

女王は俺を見て目を輝かせ、両手を握り合わせている。


「その服、わらわに譲る気は無いか?」


「嫌です!」


この魔法天使アンジェネリックアンジェリカのコスプレ衣装を買うのに、

俺が何万使ったと思ってんだよ!

この、貧乏女王め!

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