第5話 ボディタッチ
俺はフルメイルに連れられ、意識を取り戻した緑髪の女性と共に草原を歩く。
フルメイルが言うには、自身が仕えている王国的な場所が有って、
そこに俺達を連れて行くつもりらしい。
「あの……」
俺は遠慮がちに小さな声を上げた。
さっきは突然の事で色々とタガが外れていたが、本来の俺はこんなもの。
何せ、両親以外と話すのはガチで5年振りなのだから。
「はい?」
緑髪の女性が返事をする。
ありとあらゆる穢れを知らなそうな、優しくとろけた声だ。
出来るなら、その声を手で掴んで口に入れ、どれだけの甘美さか味わってみたい。
妄想から帰り、俺は質問の続きを口に出した。
「どうして、手を握ってるんですか……?」
そう、緑髪の女性は歩き出す時に俺と手を繋ぎ、以降ずっとそのままなのである。
嬉しい反面、変な汗が出てしまう。
家を出るのも他人と話すのも久しいのに、その上異性と手を繋ぐなんて、
最早小学校の行事で有ったか無かったかの次元だ。
「だって、ラスティアンから守っていただいたんですもの」
聞き慣れない単語混じりの、しかもイマイチ理由の説明になってない返事だけど、文脈は理解出来る。
だがそれだと、俺が自力で彼女を守った扱いになってしまう。
俺からすれば、
巨大イセエビにトドメを刺せたのは前を歩いてるフルメイルの協力あってこそだし、
謎のバリアーにむしろ守って貰ったんだけどね。
そういやフルメイルが叫んでた、アンチエージェントってなんだろう。
諸々含めて、後で説明して貰わないとな。
「また出てきたら、その時もお願いしますねっ」
緑髪の女性は冗談交じりに、空いている右手で俺の右肩をつついた。
「わっ……」
先程もそうだったように、異性からのボディタッチに対する免疫を持たない俺は、
思わず彼女から少しだけ距離を取る。
「ふふふ」
イタズラな笑顔に、俺は心臓を鷲掴みされてしまった。
「そう言えば、貴方のお名前は?」
「俺?」
「はい、勿論」
「シツです、シツ」
「シツちゃん?」
俺は男だから君付けの方が妥当なんだろうけど、
男にちゃん付けするのは変って程でもないし、そこには触れない事にした。
「あー……はい」
「私はメツェンよ。
よろしくね、シツちゃん!」
緑髪でムチムチ薄着の女性メツェンは立ち止まり、
繋いでいた俺の右手を自身の両手で包んだ。
「メツェン……さん?よろしく……」
「おいふたり共、何を突っ立っている。
置いて行くぞ!」
「すぐ行くわ!」
先行していたフルメイルが振り返り、歩みを止めている俺達を読んだが、
メツェンがそれをサラッと流した。
「あの人は……?」
「彼はゾデ。
あの通り無愛想だけど、王国でも腕利きの戦士ちゃんなのよ」
「へえ……」
あいつはゾデって言うのか。
声と言い名前と言い、相変わらず性別の掴めない奴だ。
そして、メツェンは割と誰にでも、
いや職業だから何にでもちゃん付けする性質なんだと知った。
決して俺が女にしか見えないから、ああ読んだワケじゃなかったのか。
「さっ、シツちゃん!
ホントに置いてかれないよう、ちょっとだけ走りましょ!」
「わわっ!」
メツェンは俺を引っ張って走り出した。
地を蹴る弾みで、人一倍大きな胸がポヨンポヨンと揺れている。
俺は気恥ずかしさから、左手で鼻の下を隠した。
ちょっとした、男の夢みたいな光景がここに。
……でさ、結局これ夢なの?あの世なの?
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