第67話


 槍に触れれば封印されてしまう。



 わかってはいたが、その後ろにいる陽來が目的な以上、俺に突っ込む以外の選択肢は思いつかなかった。


 戦う必要はない。槍は躱せればいい。


 俺は駆け出す。

 貧血の視界が揺れる。足元は覚束ない。雲の上でも走っているようだ。それでも倒れるわけにはいかない。


 先手は向こうからきた。

 リーチを活かした一撃必殺の突き。


 唸るように襲いかかる攻撃をサイドステップで避ける。けれど、脚はもつれた。

 体勢を崩した俺に槍は無情に迫る。


 咄嗟に剣で払おうとしたが、槍は剣をすり抜ける。

 霊同士は触れられない。そんなお約束が頭をよぎった。


 槍が胴を薙ぐ寸前、俺は重力に従うことで辛うじてそれを回避していた。


 だが、後手はない。


 校庭に尻餅をつき、俺は迫りくる槍を絶望的に見上げ、




 唐突に槍が止まった。

 奇跡が起きて時が止まったのかと思った。


 静止した漆黒の穂先を俺は瞠目して見つめ、やがて白衣の真後ろに誰かが立っていることに気付いた。




「動いたら、増幅器が切れるわよ」




 凛とした声。聞き覚えがある、いや、よく知った声。



「……神々廻紗夜……!?」



 驚愕する雲林院先生の背後には、夕闇を従えた少女が立っていた。濃紺色のブレザーを纏い、赤いリボンをつけている。見慣れた制服姿の紗夜は雲林院先生のミサンガにカッターの刃を当て、その耳元で囁く。


「あなたには感謝しているわ。あなたの仲間の自縛霊のおかげで、悠斗に未練を残すことができた。だけど、悠斗の魂に手を出すのだけは許さない」

「やめなさい……!」


 ブチリ、と音がした。

 途端に槍が消える。雲林院先生は目を極限まで見開き、声にならない悲鳴を上げた。


 崩れ落ちた雲林院先生の傍らで切れたミサンガを持つ少女は、呆然とする俺へ視線を向ける。目が合うと、少女は蠅一匹殺していないような顔で微笑んだ。


「早くしないと逃げられるわ」


 はっとして俺は刀の柄を握り直し、立ち上がった。

 逃げ腰になっている陽來へ迫る。



「僕を幾度封印したところで同じだ。〈永遠のアニマ・ムンディ〉は滅びない。いずれまた〈永遠のアニマ・ムンディ〉のメンバーが僕を……」

「てめえがどうなろうと興味はねえんだよ。陽來さえ返してもらえればな!」



 言いながら俺は陽來の胸に刃を突き立てた。

 ブラウスに生えた黒い柄。

 空気の抜ける音がして、靄が噴出する。


 陽來の目蓋が落ち、その身体が傾いだ。力を失った体躯を受け止めようとして、俺も一緒に倒れ込んでいた。

 眩暈がする。気を抜いたら地面にのめり込みそうだ。

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