第7話

 陽來が出て行き、すっかり冷めたコーヒーの前に座ったとき、耳元で「見ぃたぁぞおぉぉ」とおどろおどろしい女の声がした。


 びくりとして振り向くと、マユリがジト目で俺に顔を寄せていた。


「なにあれ、どういうこと? なんでここにあたし以外の女の子を連れ込んじゃってるわけ?」

「仕方ないだろ。向こうから来たんだから」


 途端にマユリが頬を膨らまして腕組みをする。中空で仁王立ちだ。


「ハルってば、信じらんない! 今度来たらあの子、驚かして追い出してやるんだからっ!」

「やめとけ。命が惜しければな」

「ふふーん、とっくの昔に命なんかありませんよーだ」


 鼻息荒くマユリはボクシングのファイティングポーズを取っている。

 幽霊対人間の殴り合い程、無駄なものはないと思うけどな。


「あいつは幽霊を消す銃を持っている」


 俺が言うと、マユリは拳を突き出した姿勢のまま固まった。


「なにそれ? そんなのがあるの?」

「俺も詳しくは知らない。今度来たときにでも訊いてみるつもりだ。だが、その威力は確かだ。目の前で幽霊が消えるのを見たしな」


 陽來の右手にあった漆黒の銃を思い出す。そして、撃たれて煙になっていった男の幽霊。あれが幽霊の末路なのだろうか。


「やば、除霊士の女の子と戦わなきゃならないなんて、あたし大ピンチ! でも、ヒロインは負けないんだから! 絶対にこれまでの平穏な毎日を取り戻してみせる!」


 拳を握り締め、天を仰ぎ決意を固めるマユリ。


 一番のトラブルメーカーのおまえが平穏って言うな。


 ため息をついた俺をマユリはじろりと見下ろし、


「何よ、ハル。あたしよりあの人間の女の子がいいって言うわけ?」

「誰もそんなこと言ってないだろ」


いいもくそもあるか。幽霊と人間を同じ土俵で比べるのがそもそも間違っている。

ぞんざいに返した俺にマユリは口を尖らせる。


「じゃあ、ハルもあたしに協力してよね」

「へ? 何を?」

「その銃についてよ。弱点とかを探るの! あたしが撃たれて消えちゃってもいいの? あたしがいなくなったら、ハルなんか退屈で死んじゃうんだから!」


退屈が死因になるのは、おまえくらいだよ。


思ったが、俺は「はいはい」と返事をしておいた。

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