三の巻 運命の女神

1話 青い夕焼け (テル)

 青空のきわに、ましろの天体が輝いてる。

 はるか前方、西の果て。黒い山並みつらなる合間に沈もうとしてるのは、たそがれの太陽。


「あっついなぁ」


 ギュンギュンチリチリ。ギュンギュンシャカシャカ。

 輝く翼がうなる。背中に負った小さな機霊箱から伸びてる俺の翼は、白金プラチノ色。はばたくたび、周囲に分厚い結界を放射してる。大気中の塵がその光の膜にぶち当たり、小粒の火花をちらして燃え尽きる。

 ちらとふりむけば、東の空はまだ赤い。めちゃくちゃ暑いのはこの色のせい? って思いたくなるほど鮮やかだ。夕焼け小焼けのこの時間、ましろの太陽の周りは真っ青。赤空を駆逐しようとしてる。


「赤道地帯じゃねえのに。青い西日、すんげえきつい」


 口を覆う酸素マスクにぐちを落とすと、俺の肩先にぼわんと黒い犬が出てきた。


『がまんなさい、主公。街まであと十分です。摂氏四十五度、日暮れゆえにだいぶ涼しくなりましたので、十分しのげるはずです』 

「そうだけどさあ、アズマ。がっつり結界張っててこの暑さだぜ? スーツの中、蒸し蒸しで汗だくだよ」

『仕方ありません、結界の外は百度を越えておりますから。機霊の結界にも限界はございます』


 アズマはふさふさ毛長の犬機霊。あの東華帝君をモデルにして、俺が一から作ってみた機霊だ。

 ざっくりてきとうに性格をランダム発現にしたら、黒っぽい体色を好むやつになった。

 はじめは人型をとってたけど、最近は必ずこの犬の姿をとってる。「ネコどもに対抗するにはこの姿になるしかない」とかなんとか、わけわかんないことを言う。

 まあたしかに。右を見れば――


『たそがれの青空、ぴかぴかね』


 金髪なびかせる桃色アストロスーツの少女の背中には、白ネコルノがひっついてるし。

 左を見れば――


『なんてきれいな夕焼け!』


 黒髪輝く赤チェックのアストロスーツの少女の背中にゃ、尻尾がはげたネコがひっついてる。

 両手に花っていうか、両手にネコだ。

 ネコたちは背中から美しい黄金オーロの翼を生やしてて、まばゆいことこの上ない。

 キンキンシャリシャリ。小気味よい音をたてながら、俺とネコを背負う少女たちは、音速に届くかという速さで一直線。黒い山々を目指してる――

 

『ねえアル、知ってる? むかしむかしの大昔は、あたしたちのふるさとの星も、この星と同じ。空気はほとんど二酸化炭素で、昼間の空は赤くて、夕焼けは青かったんですって』

『それ、聞いたことあるわ。ユミル大地に人が降り立ったときの話でしょう? 大気も核質もすっかり改造テラフォームしたのよね。人間がもともと住んでた星のようにしたのよ』


 二人の少女の声が、耳にはめたイヤホンに入ってくる。白い酸素マスクが集音して、チーム全員、つまり俺たち三人のイヤホンに送信するって仕組みだ。


『自分の体じゃなくて星の環境を変えちゃうなんて無茶よね。おかげで人間は、いまだに環境順応能力が未発達。銀河の知的生命体の中で最低ランクじゃん?』

『そうなのよね。この星系の生物はみんな、複数の気体を体内で酸素に変換生成できるっていうのに。私たちときたら、がちがちに結界を張らなきゃならない上に、マスクが手放せないんだから』


 機霊の結界内酸素生成機能も気温調節機能も大したもんだけど、一日三十時間、何ヶ月も展開し続けるわけにはいかない。だから俺も少女たちも、常に耐熱アストロスーツを身に着け、白い酸素マスクか酸素ヘルメットをつけてる。


『あーあ、口の周りが汗だくで気持ち悪ーい。ヘルメットかぶってくればよかった』

『でもミミちゃん、そうしたらおかっぱ頭が見えないって、テルさんがぼやくわよ』

『なんでぼやくのよ』

『ミミちゃんのきれいな黒髪や青い瞳を見たいからに決まってるでしょ』

『えええ、なんで見たいのっ?!』


 うわ。俺をあえて無視して女子トーク始まったぞ。

 桃色スーツ娘の言葉に、赤色スーツ娘がぼぼっとほっぺたを真っ赤にする。その頭ににょきりと、猫耳が生えてくる。


『あは。ミミちゃん、耳生えた』

『だってアルが変なこと言うからっ』

『あら、変なことじゃないわ。テルはほぼほぼ、ミミちゃんの彼氏でしょ』

『あばばばば』


 赤色スーツ娘の尻から、ぶばっとネコしっぽが出てきた。さきっぽがはげてて、盛大に爆発してる。

 桃色スーツ娘は金髪のツインテールを揺らしてころころ笑った。口元はマスクで見えないが、菫色の目は柔らかな弓なり。優しいお姉さん顔になってる。


『機霊使用中に驚くと猫化するなんて。ほんとミミちゃんは、機霊タマとの同調度がすごいわね』

『もお! びっくり箱みたいなセリフでおどかさないでよっ。テル! 今の話聞いてないわよね?』

「あ? ええとその。おかっぱ頭が見えた方がいいってのは、同意かな」

『えええ?! やだテル! なにそれ!』


 ますます顔を真っ赤にするおかっぱ娘に、俺はにやにや。

 ミミの声はまるっきり、かつてのプジネコの声そのものだ。俺が大好きな歌手の声をもとにしてるけど、めっちゃ好きにチューニングしてる。ネコじゃなくてれっきとした女の子の口から聞かされると、かつて以上に俺の脳内は、アルファー波出しまくりだったりする。


『なにそのにやけ顔! タマ! なんとか言ってやって』


 呼び出しに応えて、おかっぱ娘の肩先にぼんっとネコの機霊体があらわれた。

 タマだ。

 誇らしげにニャーと鳴くこのネコは、かつておかっぱ娘と一緒の機霊石の中にいた。今は背中にひっついてるプジネコの中に単体で入ってて、おかっぱ娘の専用機霊になっている。


『にゃにゃにゃ! めっ!』

「いつものことながら、なに言ってるかわかんねー」

『もお! なんでわかんないのよ!』

「ミミが特殊なんだよ」


 俺がへへへと笑うと、桃色スーツ娘が感心したように言った。


『ネコの言葉が分かるなんてすてきよね。ルノは、ネコになったのに分かんないのよ』

『これは仮の姿だからな』


 とたん、桃色スーツ娘のそばに、猫耳銀髪少年が現れた。腕組みしててめっちゃえらそうだ。

 俺の黒犬アズマがぐるるとかすかにうなる。なんでかわかんないけど、アズマはルノのことが苦手っぽい。姿を見るたびぶつぶつぼやく。


『なぜあいつはいつも服を着てないのだ……』

「ま、まあ、隠すべきとこはぼけぼけに霞がかってるから、いいんじゃね?」

『解せぬ』


 それにしてもアルはほんと、ミミのいいお姉さんになってるよな。

 かなりの期間ネコだったせいで、ミミは人間の体の動かし方をすっかり忘れてたけど。アルがつきっきりで教えたおかげで、いまやすっかり「人間の女の子」に戻ってる――


「まあなんだ、街に帰ったら挨拶してまわって荷造りだな。そんで明日、空港に全員集合ってことで」

『ルノ、ついに故郷ユミルに帰れるわね』

『丸三年か。ここでの生活、長かったような短かったような……』

『タマ、船に乗るのたのしみだね!』

『にゃにゃにゃ!』


 ヒュンヒュンチキチキ。

 塵だらけの大気を結界で燃やして飛びながら、俺たちはうなずきあった。

 ファング帝国の首都、炎都が滅んで三年三ヶ月。

 俺たちは今、赤い大地ユミルから気の遠くなるほど離れたところにいる。

 Γガンマ星系第四惑星。現地人の言葉で「燃える水」という意味の、俺たちの口じゃおよそ発音できない名前の星。ざっと一千光年隔てたところで、青い夕焼けを眺めてる――

 



 

 月でファング帝国の女帝がみまかったとき。星船に乗ってた俺は、ルノとアル、ミミとタマとひとつになって、女帝に立ち向かったじっちゃんを援護した。

 じっちゃんがみごとばっちゃんを助けたのを見届けたあと、俺たちはロッテさんとジョゼットさんに協力してもらい、ひとつになった魂をもとに戻してもらった。

 幸いひとつになってさほど時間が経ってなかったから、俺たちのつなぎ目はまだくっきり残っていて。遠心分離機にかけられると、簡単にもとの五つの魂にばらけた。そうしてそれぞれ無事に、もとの体や石の中に戻ったんだけど。


『タマと一緒はうれしいけど……あたし、機霊じゃないものになってみたい』


 おかっぱのミミは、金髪のアルのようになりたいと望んだ。機霊ではなく、人に戻りたいと。


『本物の手足。あたしも欲しいな』 


 そこでさっそく俺は船内に仮工房を組み上げて、ミミの体を培養した。

 ベースは金髪のアルと同じ。もとエルドラシア皇帝、アムルの体細胞だ。

 つまり今のミミとアルは本物の姉妹って間柄になっている。

 培養作業を始めてほどなく、俺たちが乗った船は、大神星オーディンのアステロイドベルトにある宇宙ステーションに停泊した。

 そこで待つこと三日。


『皇太子殿下。皇帝陛下と女帝陛下は、あなたさまを守護することをお望みです』


 じっちゃんたちが入った吸魂石は、バイリー将軍の手によって大事に大事に運ばれて。俺たちに手渡された。


『じっちゃん! ばっちゃん!』


 二人が入った石はきらきら、美しい水色に輝いてた。耳を当てたら二人の声が聞こえてきて、俺は柄にもなく鼻水をすすりあげて目をこすったもんだ。


『すまんのうテル。いましばらく、そばにいさせてもらうぞ』

『どうか、見守らせておくれ。我が孫よ』


 めちゃくちゃうれしかった。だって俺たちの望みが叶ったんだ。

 これからみんな一緒に、仲良く暮らす。そんな夢が現実になったから。

 俺たちの船はそのあとすぐ、一路、Γガンマ星系へと進路をとった。

 じっちゃんはもともと、俺をこの星系に避難させようとしてた。

 行き着くのにひと月以上もかかる遠方で、人間じゃない種族が多数派。流通盛んな交易国家があって、潜伏するにはうってつけ。それに加えて、そこにはじっちゃんの大親友がいるからだった。


『第四惑星「燃える水」星は、銀河有数のメタクローム鉱石の産地じゃ。ファング帝国とひんぱんに交易しておる。わしの友人は、その星で一番大きな鉱山の所有者なのじゃ』


 もしじっちゃんがばっちゃんを助けられなかったら、俺はその人に助けを乞い、じっちゃんの遺志を継ぐ。そんな未来を歩んでただろう。幸いにして俺はこの手でばっちゃんを倒さずに済んだけど。それでも船の行き先は変わらなかった。石の中のじっちゃんとばっちゃんが、俺に願ったからだ。


『テルよ、メタクローム鉱石を買い付けて、ファング帝国を再建する人々に送るのじゃ。かの鉱石だけではない。帝室の財産をすべて、もろもろの建築資材や救援物資に変えて配りなさい』

『それでも、わらわの罪はようよう消えるものではないが……やれることはすべてやらねばの』


 月の都は半壊したものの、中央管制塔メイ姉さんは無事。都市機能は維持できている。

 でもお月さんは、ファング帝国一国のものじゃない。島都市国家すべての共有地だ。

 狂った女帝の計画が阻止されたため、月は建前通りに「国際テーマパーク」となる。ファング帝国の民を住まわせる地とすることを、島都市同盟は決して認めないだろう。

 帝国が所有するほかの島都市はほとんど軍事用の基地で、一般人が住むには居心地悪いし、なにより狭い。とても数十万の人が住める広さじゃない。

 赤い大地ユミルに落とされた帝国民は難民と化し、すでに地上の都市で肩身の狭い思いをしてる――

 

『テルよ。わしら一族は、民に対してつぐなわねばならん。家なき民のため、急いであらたなる島都市コロニアを作らねばならぬ』


 第四惑星特産のメタクローム鉱石。その石は、別名浮遊石と呼ばれている。

 そう、それは天に浮かぶ島都市コロニアを作るに必要不可欠なもの。かつてはもっと近く、二十光年先の惑星にあったメタクロームが、島都市建設に使用された。けれどそこの鉱石は採り尽くされてすっからかん。いまは一千光年先のここでしか、手に入らない。

  

『主公、山脈に到達しました。十五秒後、街に降下します』


 黒犬アズマがチキチキと演算する。

 黒い山並みの上にきた俺たちは、そこにぽっかり空いてる大きな丸穴に一気に飛び込んだ。

 ギュンギュンチリチリ。ギュンギュンシャリシャリ。

 長い長い竪穴トンネルを抜けると。この星の「地表」がようやく見えた。普通の岩盤で形成された大地が。


「へへ、いつも通りまっくらだなぁ」


 大地は一面闇色。ぽつぽつ、ホタルのように街の明かりが散らばってる。

 朝だろうが昼だろうが、「地表」はいつもまっ暗い。なぜなら――


『鉱山ってほんと広いよねー!』


 降下するミミが頭上を仰ぐ。宙に浮いてる広大な「大地」を。

 それは果てなく広がり、たそがれの青空をすっかり隠してる。

 

「この光景も今日限りか」


 万感の思いをこめて、俺はつぶやいた。


「黒の大鉱山。見納めだ」


 浮かんでるものは島なんてレベルじゃない。かつて「地表」に住んでた原生種族は、空というものを知らなかったという。それほど、浮かんでるものは広くて大きくて果てがない。

 俺は少しでも空が見えないかと、黒い天の果てに目を凝らした。

 でも夕暮れの青い光はほとんど見えなかった。

 闇色の天に覆われた地表を照らすのは、俺たちが通ってきた竪穴トンネルだ。

 堀り抜かれたトンネルが大鉱山のあちこちにあって、きららと空の光を地表に送ってる。

 

「きれいだな……」


 それはまさしく光の柱で。

 きらきら煌々、巨大な浮遊大陸におおわれた地表を照らしていた。

 明るく鋭く神々しく。まるで神様がさしのべる腕のように。




 トンネルの光が照らす街はせいたかのっぽの建物ぞろい。

 さしこむ光をもとめるように円型の塔ばかり建っている。俺たちはひときわ高い塔がならぶ街に降りたつと、中央広場にそびえる丸塔に向かった。


「いよいよ明日、私らは別れなくちゃならないのね。シングの孫」


 塔の中に入るなり、針金のように細長くて青い腕が目前に広がる。青肌で長身、線の細いガンマ人の熱烈歓迎だ。 

 この人こそ、じっちゃんの大親友。上の大陸の所有者――鉱山主の「燃える王」さんだ。そんな意味をもつ現地語の名を、残念ながら俺たちの口は発音することができない。

 青肌の「燃える王」さんはすうっと後ろに身を引いて、奥の客間に俺たちを案内する。

 そこには毛の長いネコを抱いた毛むくじゃらの生き物がひとり。全身赤いふさふさの毛に覆われているその人は、ネコ耳のような耳をぴんとたて、俺たちに微笑んだ。


「みんなおかえり」

「じっちゃん、最後の鉱石船を出航させてきたぜ」

「いやはや、お疲れ様じゃったのう」

「お疲れ様なのはじっちゃんもだろ。今まで毎日、鉱夫やってたんだからさ」


 持ってる財で買うだけじゃない。じっちゃんと俺たちは丸三年、天に浮かぶ大陸で浮遊石を掘って掘って掘って掘って。削って削って削って削りまくった。「燃える王」さんのもとで働いたのだ。

 浮遊石はおそろしく硬い。だから切り出すのはめちゃくちゃ大変だった。

 じっちゃんは掘削に適した力持ちの生き物になりたいと言って、M66星雲の知的生命体ヨゴゴの体を得た。

 この種族は十種類の気体を体内で独自の呼吸気体に変換できるので、マスクをする必要がない。なんとなにも装備せずとも宇宙空間で生きられる。ひとことで言うと、すごい超人類である。

 じっちゃんはばっちゃんの魂を銀河一美しいと言われるロロ族の体に入れようとしたが、ばっちゃんは体はいらないと固辞した。じっちゃんと一緒にいられれば幸せだという。

 だからこの力持ちのヨゴゴは、じっちゃんでもありばっちゃんでもある。

 そんな二人とともに、俺たちはひたすら作業した。

 アルとミミも男顔負けに掘削機を扱い、がんばった。

 ロッテさんとジョゼットさんは、鉱石船や物資船を運んだり連絡をやり取りする役目を負ってくれた。

 

「ロッテくんが基部の幻像を送ってくれたぞい。今回の鉱石船の石でさらにでかくなるじゃろう」

「おお、見せて見せて」 


 島都市建設は順調だ。三年目にして俺たちが集めまくった資材はほぼそろい、あとはひたすら組み上げるのみ。現場ではバイリー将軍ら七将軍たちが陣頭指揮を取り、帝国軍兵士が建設作業を進めている。

 噂を聞きつけ、帝国民たちがその作業に続々と加わってるそうだ。これから俺たちもふるさとに戻り、建設を手伝う。異星の鉱夫から、建築夫になるのだ。


「送別会、開くのね。思いっきり楽しむのね」


 「燃える王」さんは旅立つ俺たちのために、黒天に「はじける玉」という意味のものを打ち上げてくれた。花火のようなもんだけど、破裂するのは火薬じゃなくてガス精霊。いったん散らばるとまた戻り。また散らばり。そんな動きを十回以上繰り返してすうっと消えてく、不思議な花火だった。

 

「ルノさん、まじまじ眺めてるのね。はじける玉、気に入ったのね?」


 「燃える王」さんがにこにこ顔で問うと、じっと花火をみつめてた白猫はうーむと唸ってた。


『この星系には不思議なものが満ちている。この玉といい浮遊石といい。そしてあのドラグナイト……』

「うちとこのやっかいものが、おたくの太陽系に大変、ご迷惑をおかけしたのね」

『いや。扱い方も分からず使った我々が未熟だったのだ。とにかくも偉大で気前のよいあなたのおかげで、シングの国は大いに栄えることだろう』

「いやいやルノくん、帝国はもうわしの国ではないぞ」

  

 そばでふたりのやりとりを聞いてたじっちゃんが、もふもふな首を横に振った。


「帝室は何もかも売り払い、無一文じゃよ。ファング帝国は共和国となる。これからは七将軍が党首となり、あらゆることを管理して、人々を束ねてくれるじゃろう」

「僕としてはせめて、新しい島都市の基部にあなたの名を刻むべきだと思う。あなたが手ずから採った鉱石が、都市の心臓となるのだから」

「いやいや、そうするのならば君たちみんなの名前も入れてもらおう。ここの鉱山で毎日がんばったのじゃから」 

「そんな。僕の名など――」

「ルノと入れるかね? それとも、アムルと?」


 毛むくじゃらのじっちゃんに見つめられて、白猫は一瞬言葉につまったけど。すぐにきっぱり答えを返してた。


「いや。僕の名は、今建てられている新しい島都市コロニアではなく、もっと古い島都市コロニアに刻む。白くて、遠くから眺めたら銀貨みたいに見えるあの都に」

  

 その青い瞳に迷いはなかった。

 ほんの少しも。


「エルドラシアの首都。フライアに」

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