24話 ひとつになりしもの(ルノ→????)

 ちきちきちりちり、あたりの星くずが歌う。

 細かな粒子はほのかに四角。きらめく電子のノイズが、僕の翼に当たってはじけている。

 白金の翼の主はとても速い。

 僕らの星から高速で離脱している船から接続アクセスしているにもかかわらず。「ほぼ同時」の速度で月の管制塔に到達するや、まっかな塔を攻撃する星の群れに突っ込んでいく。

 星の海を切り裂くような、縦横無尽の刃。

 アホウドリサイズに形成しているというのに、その動きは分身が何人もいるかのよう。

 だが――


「うわ! 硬い!」


 一番端の星に切り込んだ白金の天使は、ばちりと盛大にはじかれた。

 敵はやはり、強固に連結していた。二十三個の星が、互いに太く硬そうな鎖でつながれている。

 

「鎖をなんとかすればいいのか? 切るのどれがいいんだ? 槍か? 剣か?」

 

 ふき飛ばされないよう制動をかけて空中停止したテル・シングの手に、しゅるんと両手もちの剣が現れる。瞬時に構築したプログラム・アタッカーが具象化したものだ。

 縦横無尽に飛び、相手がくりだす光弾をかわしながら、敵の周囲を思い切りたたくも。その攻撃は、なんと空を切った。

 

「うえ?! 鎖が逃げた?!」


 鎖自体が動いている。攻撃をかわす自動プログラムが組み込まれているのだろう。

 たった0.1秒のうちに――黄金の翼をフル稼働させる僕がそばに到達するまでに、テル・シングは五、六回ほど手に持つ武器を変えて攻撃したが。はじっこにいる星が放ってきた桃色の玉を被弾して、たちまち減速してしまった。

 

「うぎゃあ?! なにこれいてえ!」

 

 白金の翼に、桃色の飴状のものがべとり。完全防御の結界を突き通ってくるなんて、なんという尖力か。結界を割られた瞬間に盾の再展開をかけたものの、一秒の百分の一にも満たないその隙にとりつかれたのだ。おそらく強力なウイルス系爆弾にちがいない。

 

「テル・シング! 歯を食いしばれ!」


 テルの体内に深く食い込む前にと、僕は即座に駆除プログラムを構築して放った。

 光り輝く長槍グングニルを。

 すさまじい衝突光。はじけて焼ける、桃色のアメーバ。

 

「ルノ! 来てくれたのか! こいつらの鎖、ばかみたいに硬い!」

――「わたくしたちのキズナを経ち切ろうだなんて、百万光年速いですわ!」


 桃色玉を出してきた星から、機霊体が飛び出してきた。

 流れる桃色の髪。ゆらぐ桃色の羽衣。


「あなたたちはだれ? とくにそちらのアホウドリ。どうしてその白金プラティノの翼をつけてますの!?」


 桃色天女がテル・シングの翼を見咎める。まるで見覚えがあるかのように。


「へへへ、名乗らないのがハッカーの基本でしょ!」


 連結鎖への攻撃に対処しようと内側に潜ってきた機霊は、テル・シングにはぐらかされたとたん、カッとあたりに無数の桃色の粒を放射した。


「だれであろうが連結は守りぬいてみせます!」

「鎖をプロテクトしてるのはあんた? それとも他の機霊?」

「対処に出てきたこのわたくしが、守っているに決まってますでしょう」

「正直だなぁ」

「隠す必要なんてありませんわ」


 桃色天女はにっこりしながら、さらに桃色の粒を放出した。


「だってわたくし、強いんですもの」


 星の海がみるみる甘ったるい色に淘汰されていく。 

 

「さあいらっしゃい、ウイルスぼうやたち。桃旗将軍が機霊、七仙女の桃花が相手してさしあげますわ」


 



 桃色天女は七仙女のひとり。やはり赤星を攻撃しているのは女帝とその取り巻きだった。

 そして、つややかに微笑んだ天女の自信のほどは、はったりではなかった。

 二十三の星の相乗効果は人智を越えるもの。僕らが繰り出すどんな攻撃ウイルスも、放ったとたんに桃色の粒に砕かれる。鎖まで到達すらしない。

 

「ナパーム放射器もレーザーソードも効かないなんてやばい」

「並の反応速度ではないな」

「てかルノ、その槍、さっきよりも強度増してんの?」

「もちろんだ」


 テル・シングはありとあらゆる形の武器を出して投げつけた。

 バズーカやミサイル、果ては魔法の杖から出るいかづちとか、そんなファンタジックなものまで。古今東西考えつく限りの攻撃物を、一瞬でその手から出す。

 しかし僕は終始一貫して長槍グングニルを投げ続けた。むろん、攻撃プログラムの構成はそのつど変えているが、使いたい武器を思いうかべると決まってこのフォルムになってしまう。

 

「前のと同じものではない。出力は格段に上げている。これこそ僕の武器という感じがするのだ」 

「そうなんだ? って、うわあ、視界最悪!」


 桃色の粒が雪のように舞う。息もできぬほどの密度に目がくらんだ。

 桃色の花吹雪の中で天女が舞っている。一瞬見とれそうなほどあでやかに。

 ふわりふわり。ゆらめく羽衣が鎖をさらに強くしなやかに編み上げている。

 テルが五秒という今までの数十倍の時間をかけて精製したアトミックボムを打ち込むも。これもみごとにはじかれた。


『アムル! 月の管制塔の光量が落ちてきてるわ!』


 その時アルからそんな連絡がきて。僕らは時間が残されてないことを知った。

 目指す赤い星の輝きが如実に落ちてきている。

 急がなければ。どうにかして、機霊たちを止めなければ――


「テル・シング! 今の連結ではだめだ。僕らの力をもっと強くしよう!」

 

 力が及ばなければ強くなればいい。

 もっともっと僕らが変わればいい。

 思いが如実に具現するこの電子の世界では、不可能なことはないはずだ。

 僕はシングの孫の手を握った。

 それだけでも、テルがまた出現させたミサイルの強度は倍以上の出力になる。

 では、こうすれば?


「ひょわ?! ルノ?! な、なにするんだっ?」


 ずさりと、僕の腕をシングの孫の胸の中に埋め込む。そして念じる。


「僕を吸い込めテル・シング。お前の一部にしろ」


 鎖で繋がる方法では、僕らの力は連動するが、個々にあるまま。別の動きもなんなくでき、役割分担できて便利だが、完全融合による出力にははるかに及ばないだろう。

 

「僕はおまえとおなじ吸魂石によって保たれている魂。だからこのように連結できる。だとすれば、吸収統合もおそらく可能だ」

「る、ルノ。やばいぞそれって。同化しちまったらあとで切り離せるかどうか――」

「いいから早く吸い込め!」


 テル・シング。

 この生命はおまえがくれたんだ。

 おまえが僕を拾ってくれなかったら、僕はシング老に会えなかった。

 アルと一緒にあわれな末路をたどるしかなかった。

 それを思えば。


「おまえの一部となれるなら本望だ。さあ、吸い込め!」


――「ふたりともあぶなーいっ!」


 おかっぱミミの声がどこからともなく聞こえてきた。

 きゅるきゅるぐるぐる音を立てる七色の渦巻き星が、背後に迫ってくる。

 桃色の吹雪がみるまに、渦巻きの風力で跳ね飛ばされた。

 天女が驚いて一瞬舞を止める。風に飛ばされまいと、両腕で身をかばう。

 そのすきに渦巻き星から次々と、僕らの仲間が降りてきた。


「心配だから来ちゃった! テル、あたしたちも吸い込んで!」

「私も吸収してください!」

「にゃー!」


 連結しているから、お互いの疎通はみんなに伝わる。

 そしておかっぱ少女もアルも猫も。みんな同じ気持ちだった。

 

「あたしたちもテルになるっ。ひとつになるよ!」

「ミミ……!」


 おかっぱ娘はテルのそばにかけよって、その腕を抱いた。


「私もテルの中に入っていいわよね、アムル。あたしたち、どこまでも一緒よ」


 黄金のツインテールエンゼルスフリューゲルを揺らして、アルが僕に微笑む。 

 そうだアル。僕らはどこでも。いつでも一緒だ。


「にゃー!」


 勇敢な猫が鳴いた。僕らに号令をかけるように。


「み、みんな……」


 そうして僕らはテル・シングを抱きしめた。返事なんて待たずに、まるで押しかけ女房そのもののように、僕らはうわっとシングの孫の中に入り込んだ。ずぶずぶ遠慮なしに。

 テルは僕らを拒否しなかった。そうしないと勝てないと悟ったからだ。

 渦巻き星の光が。桃色の吹雪が。まばゆい閃光が遠のく。

 テルの中はもっと明るくて熱かった。

 太陽のように燃えていた。

 テルの中に入った僕らはたがいにほほえみあい。うなずきあい。そしてすうっと溶けていった。  

 

 目を開ければ僕らはひとつ。

 全く新しいだれかになるだろう――




  

 

 ということで起動した瞬間。俺たちはぶるると頭をふった。

 髪は黒いけどにょきっと生えてる猫耳はたぶんまっしろだろう。目の色は何色だろうか?

 とりあえずいつものテル・シングのような、ゴーグルと革ジャン姿になってみる。動きやすい格好に。

 満腹感がはんぱない。

 俺たちはテルでアムルでミミでアルでタマ。

 それぞれの頭文字を取ればtamat。

 上から読んでも下から読んでもtamat。

 ダジャレてる間に、俺たちは桃色のお姉さんに近づいて、軽くあしらってやった。

 なあに、スカートをちろっとめくってやったらきゃあとか悲鳴をあげて、持ってる鎖をぱっと手放したのさ。だからその隙に、一気にお姉さんを抱きすくめてぱくり。おいしく食べてやった。

 どうやら俺たちの吸魂石が同調起動して、吸魂力を高めてるらしい。ドラグナイト以上の吸引力になってるようだ。

 鎖がちぎれたんで、なにごとかと今度は青い仙女が急行してきた。

 こいつも俺は、なんなくぺろり。黄色いのも。紫のも。橙のも。おいしく平らげた。

 赤いのはちょっと手ごわかったな。さすが七仙女の筆頭って感じで、十人ぐらいの配下機霊をさしむけてきた。

 でも吸収したやつらの力のおかげで、俺たちはこの上もなく強くなってたもんだから、あっけないほどすぐに決着がついた。

 赤星を攻撃してた光がこうして激減していったことで、ようやく月の管制塔がよく見えるようになった。

 大きな太陽が小さな星を従えて、赤星を砕こうと光を照射しつづけている。

 だが赤星の前になにかいる。それが盾となり、攻撃の光をそいでいる。

 その盾は、エメラルドのように緑色だ。

 

「バイリー将軍とその機霊か!」


 管制塔と化したメイさんを守っているのだ。なんと美しい光だろう。赤星も、緑星も。

 そしてなんとどぎつい太陽だろう。

 女帝の星は燃えている。取り巻きたちがこちらに向かってくる。

 現実世界ではずいぶん大変なことになってるだろうな。

 帝国のシステムは麻痺している上に、七将軍たちの七仙女が突然機能停止。配下の取り巻きたちの機霊も軒並みダウンしたわけだから。

 俺たちきっと、じっちゃんの助けになれたよな。

 さあ、もうひとふんばりだ。

 女帝の取り巻きたちは、七仙女よりもはるかに格下。

 あっというまに俺たちはハチドリのような動きをするそいつらをひとつひとつ、吸い込んだ。

 同化させるたび、自分の力がみるみる強くなっていくのが分かる。

 最後に残った太陽。あれを吸い込んだら、俺達はどうなっちまうんだろう。

 

「うう、熱い」


 なんて熱を放つんだろ。あまりにまぶしくてくらくらする。

 

「う? 吸引してるのに。こっちにこない?」


 王母姐々ワンムーニャンニャンは、さすがに俺たちに吸い込まれなかった。

 機霊核のドラグナイトがかろうじて、女帝の魂を紫の石にとどめてるらしい。どんなに引き寄せようが、抵抗力がすごくて動いてこない。

 これはじっちゃんに花をもたせろってことなんだろうな。

 そう察したとき。

 赤星の中からひゅんと何かが飛び出てきた。白金に輝く機霊体のような光の玉が。

  

「じっちゃん!」

「ほうほう、助かったぞい」


 白い髪の老人が、俺たちの前にきてほほえんだ。


「なんとまあ。ひとつになって、来てくれたんじゃな」

「じっちゃん、すごいな。こっちに入ってくるなんて、もしかしてじっちゃんの魂も表計算モードが入ってんの?」

「むろんじゃよ。わしは自分の頭に自前の吸魂石を入れたんじゃ。自動オペマシンでちょちょいとな。お前さんたちの中にも入っておるあの石は、開発するのに何十年もかかったが。自分で試して具合良かったから、みんなにも入れたんじゃ」

「ほんとすげえよ。俺たち無敵だ」

 

 俺たちがへへっと人差し指で鼻の下をこすると、シングのじっちゃんはぽふんと俺たちの頭に手を置いてくれた。


「ドラグナイトに対抗できるものをと思っての。それができぬうちは女帝に対抗できんから、わしは下界へ逃げ、テルを凍結冬眠させ、身をひそめておった。延命薬を呑み続けて研究開発をして七十年……長かったのう。まさかテルやおまえさんたちに、わしが作った吸魂石を使うことになるとは思わんかったが」


 結果をかんがみるに、それでよかったのじゃな。

 じっちゃんはしみじみと、俺たちをながめてつぶやいた。


「ほうほう。では、行こうかの」

「なあじっちゃん、死ぬなよ?」


 太陽に視線を移すじいさんに、俺たちは願った。

 じっちゃんがなにをしにこの星の海に入ってきたのかなんて明白だ。俺たちに礼をいいにきたのは単なるついで。女帝と対決しにきたんだ。


「もしあぶなくなったら、俺たち助けるからな? 死ぬなんて、許さないからな?」


 俺たちの望みはみんな同じだ。じっちゃんが生還すること。それを成し遂げるために、俺たちはここまできたんだ。

 青白く神々しい光をまとうじっちゃんは、にっこりほほえんでうなずいてくれた。


「ありがたいのう。あのおぞましい太陽を生み出したわしを、おまえさんたちは許してくれるのか」

「あったりまえだろ! 俺たちもあんたとおなじなんだからさ」


 俺たちの中のミミとアルがすかさず訴えた。


「マレイスニールとアシュラの願いは叶って、あんたの願いが叶うのはだめって法はないだろ? 俺たちは嬉しいよ。死なないでくれと願われて、こうして今も生きてることが、嬉しいよ。女帝だってほんとはそう思ってるさ。でもほら、太陽の中にあれがいるんだ」


 俺たちは眩しい太陽をゆびさした。

 燦然と輝くそれは、いまや独り。表面を覆う光の渦はまばゆいが、ぶあつい光の層の中には……


「暗い影がうごめいてる。紫色の塊が。龍の魂が、太陽を縛り付けてる」


 その存在はほとんど把握できないほど、太陽は光に覆われている。

 だがところどころにかすかにうかぶ黒点が、中にいるものの存在を示してた。


「じっちゃんは、ドラグナイトから女帝を引き離して助けるつもりでいるんだろ? そのあとは、夫婦ふたりで幸せになってくれよ。じっちゃんだけ責任取っていなくなるなんて……俺たちはいやだ」


 俺たちの中のテルだけでなく。みなが願った。


「じっちゃんとばっちゃん、そして俺たち。みんな一緒に、これから楽しく暮そうよ」


 じっちゃんはまぶたをふせた柔らかいまなざしで見下ろしてきて。もう一度、俺たちの頭をぽふんと撫でた。


「ありがとうな。これからかなりまぶしいことになるじゃろうから、おまえさんたちはバイリー姉妹のそばに行ってなさい。移動させてきた基地サーバーを、塔のシステムの中に入れてもらうんじゃ」

「うん、わかった」


 俺たちが渦巻き星を赤星へ向かって移動させたのを確認すると。じっちゃんはすうっと燃える太陽へ飛んでいった。

 赤い光が渦巻き星を包む。うわっと、メイさんの思考が、俺たちに降ってきた。


「申し訳なかったわね、テルくん……みんな……」

「メイさん!」

 

 俺たちの中のルノとアルが、メイさんの事情を思い出す。

 赤い星から眼鏡をかけた黒髪の美女が現れた。

 

「さあ入って。シングさんは今度こそ、成功させるつもりよ」

「今度こそ?」

「剥離爆弾ってよばれる特殊な爆弾を女帝に向かって投げたんだけど、一度目はかわされたわ。その防御行動の反動で、月の都がだいぶ壊れちゃった」


 板で騒いでた爆発の真相はこれか。

 剥離爆弾ってのは、ドラグナイトから女帝をはがすためのものなんだろうな。

 そんなものを発明して準備してたとは、さすがじっちゃんだ。

 

「あなたたちが女帝の護衛を軒並み倒してくれて助かったわ。さすがに私は手足を寸断されて危機的状況だし、妹は怪我をした。でもこれで戦いは終わるわね」

「メイさん? あれっ?」 


 泣き声が……聞こえる。だれのだろう。

 渦巻き星が赤い光に完全に包まれると。周囲の星の海が消えた。まるで三百六十度モニター画面になったかのように、現実世界の映像が映る。

 赤青黄色。いろんなひかりが明滅する、管制塔のてっぺんの部屋があらわれた。

 

「シングさま。皇帝陛下……!」


 部屋の中で、緑のマントをまとったバイリー将軍が……横たわるじっちゃんにすがっていた。

 この人の泣き声が聞こえてきているらしい。


「そのご遺志、かならずや……!」

「なん、だって?」

 

 部屋は半ば吹っ飛んでいる。かなりの爆発で崩れてる。

 じっちゃんは目を閉じてて。その衣は――血で、真っ赤で……


「じっちゃん!!」

「皇帝陛下は、反撃を受けた時妹をかばって……みまかったわ」


 メイさんが沈んだ声で僕らに告げた。


「わたしたちこそ、陛下をお守りするべきだったのに……」

「うそだ! じっちゃんはさっき元気に太陽に向かってった!」

「陛下の頭の中にあった吸魂石を妹が取り出して、私のシステムにつなげたの。陛下が女帝の機霊システムを内側から止めるから、その隙に剥離爆弾を投げてくれと言われたわ」 

 

 うそだ。うそだ。じっちゃんの体がもうすでに……死んでたなんて。

 

「剥がれた魂を、内側・・から吸いこむ。そう仰っていたわ」

「じっちゃん……!」

「二つの魂が一つの石に収まったら。石を永久に封印せよと」

「そんな……!」


 部屋の中央の柱に、白金色の石がきらりとはまってた。じっちゃんの魂が宿る吸魂石が。

 じっちゃんはここに女帝の魂を連れてくる。そしたら永遠に二人一緒に凍結される?

 いやだそんなの。

 もう会えなくなるなんて。

 いやだそんなの――!


 バイリー将軍が頬を伝う涙を拭いながら、小さな宝玉を抱えて飛び立つ。口を引き結び、割れた壁から外へと一直線に。

 その先には、電子の海で見たものと同じものがいた。

 巨大な太陽のごとく、まばゆい光を放つものが。

 バイリー将軍は緑のマントをひるがえし、力強く羽ばたいて。燃える太陽に宝玉を投げつけた。

 

「じっちゃん! じっちゃああああん!!」


 まばゆい閃光があたりに満ちた。

 光は俺たちの叫び声を呑み込んだ。

 あとかたもなく、完全に。 




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